誕生日
風薫る5月。
目に鮮やかな新緑の季節に、わたしは15歳になった。
これでとうとう貴志くんと付き合える! ひゃっほ〜い!
なあんて庭のベンチで浮かれまくっているわたしの隣で、貴志くんはうなだれている。
「なんでそんなに暗いの? もしかして、わたしと付き合うの嫌になったとか?」
「そんなわけないでしょ。ただ、葵ちゃんのお母さんになんて言えばいいのか……」
「言いにくかったら内緒にしとく?」
「いや、それは駄目だ。さんざん世話になってるのに、葵ちゃんのお母さんを騙すような真似はしたくない」
「だったら覚悟を決めてね」
今日はわたしの誕生日祝いという
「わかった。たとえロリコンとか変態とかフリーターのくせに何言ってんだ直木賞取ってから出直して来いとか言われても、ぼくが本気だってことを伝えるから!」
「う、うん。頑張ってね! わたしも援護するから」
貴志くんは何回か深呼吸を繰り返し、「よし、行こう!」と立ち上がった。
***
ちゃぶ台の上には、エビフライ、グラタン、キッシュ、豚の生姜焼き、唐揚げ、山盛りのサラダなどが並んでいる。
「うわあ、すごいご馳走ですね!」
貴志くんが目を輝かせた。
「誕生日のお祝いだから葵の好物ばかりなの。あ、貴志くんの好きな唐揚げもあるわよ」
「ありがとうございます!」
「早く食べようよ。お腹空いた」
「すぐにご飯よそうから座って。ケーキは後で食べましょうね」
三人であれこれ話をしながら、山ほどある料理を食べ尽した。
「あー、もう食べられない。苦しいよぉ」
わたしはパンパンになったお腹をさする。
「僕も、もう無理かも。どれも美味しかったです。ご馳走さまでした」
「どういたしまして。いっぱい食べてくれて嬉しいわぁ」
お母さんはご機嫌だ。
(話すなら今かも)
貴志くんに目で合図すると、
(いま?)
口をパクパクしながら、慌てて姿勢を正している。
「お母さん、ちょっと話があるんだけど」
わたしと貴志くんは、ちゃぶ台をはさんでお母さんと向き合った。
「なになに、どうしたの?」
「実は……」
わたしが話を切り出そうとするのを貴志くんが止めた。
「あ、あの、僕からいいですか?」
「ええ、いいわよ」
「大変図々しいお願いなんですが、葵さんとお付き合いさせてくだしゃい! あ、いや、ください!」
貴志くんの言葉を聞き、お母さんは目を丸くした。
「もちろん、葵さんはまだ中学生ですから、節度ある交際をします。それに、受験を控えた大事な時期なので、勉強の邪魔にならないよう気をつけます。年も離れてるし、まだまだ先の見えない未熟者ですが、ぼくは葵ちゃんのことを大切に思っています。どうか、娘さんとの交際を認めていただけないでしょうか」
「わたしからもお願いします」
ふたりで頭を下げた。
「……びっくりした。てっきり葵の片想いだと思ってたから。そっか、いつのまにか両想いになってたのね……。貴志くんにひとつ確認したいんだけど」
「はい!」
「節度ある交際っていうけど、あなた色々と我慢できるの?」
「はい。大丈夫です!」
「その自信はどこからくるの? 何か欠陥があるとか? もし子どもだからその気になれないっていうなら5年後に出直してくれる?」
「ちょっと、お母さん! なに言ってんの?」
「ち、違います! 葵ちゃんはとても魅力的な女の子ですし、ぼくだって男ですから、その気がないわけじゃありません。だけど、お母さんからの信頼を失くすことの方が怖いので、ちゃんと我慢できるってことです!」
「そう。そういうことなら……わかりました。ふたりの交際を認めます」
「えっ、いいの?」
すんなりと許可が出たことに驚く。
「ちょっと早い気もするけど、あなたの長い片思いがやっと実ったのに、反対なんかしたら嫌われちゃうじゃない」
「ありがとう、お母さん!」
「それに、葵も最近女っぽくなってきたから、貴志くんがうろちょろしてれば害虫よけになってちょうどいいかもね」
「ありがとうございます。立派な害虫よけになってみせます!」
「貴志くん!?」
「ただし、節度ある交際をするという約束は絶対に守ってね。まだ中学生なんだから、たとえ葵が襲いかかっても誘惑に負けちゃダメよ」
「わかりました。どんな誘惑にも屈しないとお約束します!」
息ぴったりなのはいいけど、ふたりともなんでわたしが襲う前提で話してるの!?
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