友だち

 告白しあった次の日から、貴志くんとLINEでやり取りするようになった。

 貴志くんの方からLINEを交換しようと言ってくれたときは、飛び上がるほど嬉しかった。

 もう片想いだからとか年下だからとか、変な遠慮しなくていいんだ。


「だって両想いなんだもん!」

 浮かれまくるわたしを、茉莉花が白い目で見ている。

 

「はいはい、良かったね。毎日惚気のろけを聞かされて、いくら恋バナ好きのあたしでも耳タコだよ」


「やだなあ、茉莉花ったらツンツンしちゃって。あんなに喜んでくれたくせにぃ」


 バレンタインに告白して両想いになったことを話すと、茉莉花は泣いて喜んでくれた。情に厚い女なのだ。


「もうっ、それは言わないでよ。恥ずかしいから」

「このツンデレさんめ~」

 茉莉花のほっぺをツンツンとつつく。

「やめなひゃい」

「ウフフ」

「この浮かれポンチめ」

「なにそれ?」


「お父さんがたまに使ってる昭和の言葉。今の葵にピッタリだと思って。まあ、長い片想いの末に出来た彼氏だから、浮かれる気持ちもわかるけど」

 

「正式にはまだ彼氏じゃないけどね。でも、誕生日が来たら付き合う約束だし、今は無理でも、高校に受かったらいっぱいデートしてもらうんだぁ」


「いいなあ。あたしもそろそろA判定欲しいから頑張ろう」


 わたしと茉莉花の志望校は同じ。

 べつに示し合わせたわけじゃないけど、学校見学に行ったら雰囲気が良かったことと、少し頑張れば入れそうだからという理由で選んだら、偶然同じ高校だったのだ。


「絶対受かんなきゃね!」

「うん。わたしも高校で素敵な彼氏を見つけてやるぞー!」



 ***


 春になり、わたしは中学3年生になった。

 うちの学校は2年から3年に上がるときにクラス替えがないから、茉莉花とはまた同じクラスだ。

 他にも仲の良い友だちはいるけど、茉莉花みたいに気の合う子はいない。たとえ違う学校に行ったとしても、これから先ずっと付き合っていきたい。



 母が言うには、進学や就職、結婚、出産など、特に女性は、その時々の状況で人間関係が変わっていくそうだ。

 

「だから、今でも付き合いが続いている友だちは少ないわね」

「それって、さみしくないの?」


 わたしの質問に「全然!」と、母はカラッとした笑みを浮かべた。


「たとえば、独身と子持ちでは興味のあることも面白いと思うことも違う。専業主婦とキャリアウーマンとかもね。なのに、無理して一緒にいたってつまらないでしょ。どっちがいいとか悪いとかじゃなくて、これはしょうがないことなのよ。何年かして状況が変わると、また関係が変わることもあるしね。

 今も付き合いが続いてるのは、気の置けない友人だけだからすごく楽よ。年を取ると、ときどき会ってたわいもないお喋りをする友人が、ひとりかふたりいれば充分なのよ」

「へえー、そんなもんなんだあ」


 子どもの頃から『友だちは多いほどいい』という妙な刷り込みがあるから、母の言葉は目からウロコだった。

 転校したばかりで色々と不安な時期だったけど、なんとなく肩の力が抜けたのを覚えている。



 ***


 この春からスミレ荘に新しい住人が増えた。


 宮野みやの萌音もねさんという小柄でショートヘアの可愛い女性で、高校を卒業後、一人で九州から出てきたそうだ。

 

「舞台女優になりたくて色んな劇団の試験を受けたんやけど、受かったのが今の劇団だけやったんよ」とカラカラと笑う。


 明るくて物おじしない性格で、あっという間にスミレ荘に馴染み、みんなから『萌音ちゃん』と呼ばれて可愛がられている。


 萌音ちゃんは、昼間は劇団に通い、夜はファミレスでアルバイトをしている。劇団の同期も何人かそこで働いているそうだ。


「その店なら融通がきくからって、先輩が紹介してくれたんよ。公演が近くなるとバイトする時間もなくなるけ」


「劇団員って、お金もらえないの?」


「まだ研究生やしね。でも、うちの劇団の主催者が有名な声優さんやけ、声優プロダクションから仕事をもらえることもあるんよ」


「そうなんだ。萌音ちゃんも早くお仕事もらえるといいね」


「いやあ、あたしは無理やと思うけど」


「がんばってね! 応援してるから」


「うぅ、ありがとう、葵ちゃん!」

 萌音ちゃんはギュウッとわたしを抱き締めた。


「はあ、癒されるぅ……ひとり暮らしっち、思っとったよりさみしいけ、地元に帰りたいっち思うときもあるんよ。でも、スミレ荘のみんなが仲良くしてくれるけ、がんばれるっちゃ。ありがとね」



 

 

 



 

 

 




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る