告白のあと

 ふたりで並んでベッドにもたれかかり、話をした。

 いつもより明らかに距離が近い。


(両想いになるってこういうことなんだなあ)


 身体をくっつけてると、ドキドキするのに不思議と安心する。

 わたしは貴志くんに訊いた。


「わたしたち、これからどうなるの?」


「うーん、普通なら付き合おうってなるんだけど、葵ちゃんはまだ中学生だからなあ」


「だけど、15歳になったら大人だって言ったよね?」


「僕が? そんなこと言ったっけ?」


「ほら、母の日のプレゼント買いに行ったとき、神社で。まさか忘れたの!?」


「いや、えーっと、そういえばなんかそんなことを言ったような……」


「わたし、5月8日で15歳になるから、そしたらいいでしょ?」


「いいって、付き合うってこと?」


「うん」


「でも、葵ちゃんのお母さんが許してくれるかなあ」


「大丈夫だよ、きっと。お母さん、貴志くんのこと気に入ってるもん」


「そういう問題じゃないと思うけど……あ、これ、食べていい? 作ってくれたんだよね」


 貴志くんは、わたしが持ってきた紙袋を覗き込み、2個もあると喜んでいる。


「今日がバレンタインなんて知らなかったんだ。それに、チョコをくれた南さん、結婚してて子供もいるんだよ。だから、義理チョコっていうか、お歳暮みたいなものだから」


「うん、わかってる。ごめんね、大騒ぎしちゃって」


「いいよ。ヤキモチ焼いてくれたんでしょ? そういうの嬉しいから。お、うまそう」


 貴志くんは、まず手作りのチョコを手にした。改めて見ると不格好で恥ずかしくなった。


「あんまりきれいに出来なかったんだけど……」


「そんなことないよ」


 貴志くんはチョコを食べて目を輝かせた。


「うまっ! 手作りでこんなに美味しくなるんだ。葵ちゃんも食べてみなよ」

 

 貴志くんがチョコレートをつまんで、わたしの口元に差し出す。

 思わず口を開けると、指先が唇に触れた。 

 口の中に甘いチョコが溶けていく。

 

(わー、もう、どうしたらいいのー!?)


 嬉しいやら恥ずかしいやらで、モグモグしながら貴志くんを睨んだら、なぜか嬉しそうな顔。


「何か飲む?」

「甘くないやつにして」

 わたしはツンとして言った。

「ふふ、じゃあ紅茶にするね」


 ティーパックの紅茶にお湯を注ぐと、桃の香りがふわりと漂う。

 そういえば、前にこの部屋に来たときはココアだったな。


 あの日は少し肌寒くて、窓の外では紅葉した木が風に揺れていた。

 今はすべての葉が枯れ落ち、裸木はだかぎとなっている。

 

 貴志くんが大賞を受賞してから急に忙しくなって、なんだか遠くへ行ってしまったような気がしてたのに、まさかこんなことになるなんて。


「どうしたの? まだ何か心配?」

 ボーっとしているわたしに貴志くんが訊いた。


「ううん。貴志くんと両想いなんて、夢みたいだと思って」

「……あんまり可愛いこと言っちゃダメだよ」


「なんで?」と首をかしげると、貴志くんは黙って目をそらした。


「これ飲んだら帰ろうね」


「えー、まだ帰りたくないなあ」


 駄々をこねると、貴志くんが大きなため息をついた。


「いっとくけど、僕だって男だから我慢にも限界があるんだからね?」


(ひえーっ、貴志くんが見たことのないようなおすの顔をしてる!)


「こ、これ飲んだら帰るから」

「そうだね」


 そう言ってわたしを見つめる目は、やっぱりちょっと危険な感じで。

 桃の香りのする紅茶は、やけどしそうなほど熱かった。



 ―――――――――――――――


 ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

 葵が15歳うんぬんと言ってるのは、結婚式を見たあとの二人の会話のことですね。

 なんだっけ?という方は「古民家カフェ」の回を覗いてみてください。







 


 

 



 

 




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