2回目デート
スミレ荘の門のそばに植えてあるツツジは、今年もピンク色の花をこれでもかと咲かせている。
わたしは庭のベンチに座って「今年は何をあげようかな」と考えていた。
「もしかして、母の日のプレゼント?」
後ろから貴志くんが声をかけてきた。
「わ、びっくりした。もしかして声に出てた?」
「うん、出てた。去年は何をあげたの?」
貴志くんはわたしの隣に座った。
「えーっとねえ、電池で動くマッサージ機。うちのお母さん、役に立つ物じゃないと喜ばないの。でもそういうのってわりと高いから、いつも母の日が近づくとお小遣いが増えるんだよね。本人はバレてないつもりみたいだけど」
「あはは、お母さんらしいね」
「毎年あげてるから、だんだんネタも尽きてきちゃって。この辺、いいお店もないし」
「じゃあ、一緒に買いに行こうか? 僕と一緒なら少し遠出もできるでしょ」
「えっ、いいの!?」
「うん。車じゃなくて悪いけど」
「ううん。電車の方がいいよ! ゆっくり話せるし」
「そっか。じゃあ、のんびり電車で行こう。ギリギリになっちゃうけど、土曜日でいいかな?」
「うん!」
「じゃあ、10時頃迎えにいくね」
やったぁあああ! 初、違った、2回目デートだあ! わーい、わーい!
神社のときは偶然会っただけだけど、今回はちゃんとしたお出掛けだ!
茉莉花にデートに誘われたと言うと、大げさなくらい喜んでくれた。
「何着て行こうかな。あんまり子供っぽいと兄妹に間違われそうだよね?」
「一緒に選んであげるからうちにおいでよ。せっかくのデートなんだから、バッグとかアクセサリーとか何でも貸してあげる!」
「ほんと? このあいだ買ったオリーブデオリーブのバッグでもいい?」
「うっ……よかろう」
茉莉花の家に使えそうな服を何着か持っていき、大人っぽいコーディネートを考えてもらった。
茉莉花は、わたしの持ってきた服を並べてあれこれ組み合わせていたが、
「うーん、こっから選ぶのは難しいなあ。葵の服って、どれもデートっぽくないんだよね」
「えー、そうかなあ」
「仕方がない。わたしのとっておきの洋服を貸してしんぜよう」
「かたじけない!」
茉莉花はクローゼットの中から、ワンピース、ブラウス、スカートなどを次々と取り出した。
「これは可愛いけど、少し子供っぽいかな。こっちはどう?」
「あ、いいね! でも、ちょっと露出度が高いかなあ」
「そっか。貴志くん、過保護だもんね」
「えっ、そんなことないと思うけど」
「だって、ミニスカートとかオフショルダーの服とか着てると、なんか言われるんでしょ?」
「それは、心配してくれてるだけよ。変な男もいるから、あんまり肌を見せちゃダメだよって」
「ほら、やっぱり過保護じゃない。もじもじしてないで、次これ着てみて」
ふたりでキャアキャア騒ぎながら何度も着替え、最終的に華やかな白のブラウスと黒のジャンバースカートに決まった。
「ま、こんなもんかな」
茉莉花は満足そうにうなずく。
「これなら貴志くんの隣にいてもおかしくないよね」
わたしが鏡の中の自分に言い聞かせるように言うと、茉莉花がいたずらっぽい笑みを浮かべた。
「大丈夫。きっと貴志くんも気に入るよ。いつもと違う姿を見せつけてドキッとさせちゃえ」
「そうだよね。少しでも意識してもらわないと先に進まないもんね」
***
いよいよ待ちに待ったデートの日。
天気予報は雨だったのに、朝起きてカーテンを開けると青空が広がっていた。
久しぶりにてるてる坊主を作って吊るしておいたおかげかも。(お母さんがニマニマしながら見てるのが嫌だったけど)
わたしと貴志くんは、電車で30分くらいのところにある、観光客にも人気の〈
もともとは農道だったという〈小鳥通り〉は、有名な八幡宮に向かってまっすぐに伸びている賑やかな通りだ。
通りの両側には様々な店が並んでいて、道行く人達はあちこちの店を覗きながら楽しそうに歩いている。
「久しぶりに来たけど、ずいぶん店が変わったなあ」
「わたしも久しぶり。小さい頃、家族で来たことある」
「僕は高校のときに友だちと来て以来だな」
「貴志くん、友だちいたの?」
「ひどいなあ。僕は確かに陰キャだけど、ぼっちだったわけじゃないからね」
「じゃあ、彼女と一緒に来たことは?」
さりげなく聞いてみた。
「女の子と来たことなんてないよ」
「へえ、そうなんだ」
ニヤニヤが止まらない。
今日は楽しい一日になりそう!
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