中学2年生

 わたしは中学2年生になった。嬉しいことに茉莉花とはまた同じクラスだ。


 勉強はだんだん難しくなるけど、本をよく読むせいか国語の成績はいい。

 文法問題で間違うことはあまりないし、まだ習ってない漢字を読んだりするので驚かれることも多い。漢検を受けてみたらとよく言われる。英語と歴史も得意だけど、残念ながら理数系は苦手なので差し引きゼロ。

 

 今年も引き続き、図書委員になることができた。


 図書室の村上先生とは結構仲良しで、面白そうな本を教えてもらったり、恋バナをしたりしている。村上今日子先生は、目つきが鋭いので一見怖そうに見えるけど、実は話のわかる優しい先生なのだ。


 図書室の本の整理をしているとき、村上先生に訊かれた。

「香坂さんは最近人気のある作家さんには興味ないの?」

 

「そんなことないですけど……」


「だったら、瀬尾まいこさんとか、有川浩さんとか、宮部みゆきさんなんかがお薦めよ。若いひとにも人気があるし、面白い本がたくさんあるの」


 確かに、貴志くんの好きな作家の本ばかり読んでたけど、もっと流行りの本も読んだ方がいいかも。貴志くんにもなんかアドバイスできるかもしれないし。


「それに、香坂さんと同世代の子が主人公の恋愛小説とか読んでみたくない?」

「読みたいです!」

 食い気味に答えたわたしを、先生は生暖かい目で見ている。

「じゃあ、一緒に選びましょうか」


 先生に薦められた本を何冊か借りて、わたしは浮かれていた。

(これを読めば恋愛テクニックが身につくかも)


「なにニヤニヤしてんだ。当番だったのか?」


 教室前の廊下で重松くんに呼び止められた。

 彼とは違うクラスだけど、しょっちゅうわたしのクラスに遊びに来ている。


(柴田くんに会いに来てるみたいだけど、同じクラスに友だちいないのかな)


「そうだよ。重松くんは今年は図書委員じゃないんだね」

「じゃんけんで負けたんだ。でも本は借りにいくよ。それ、借りたやつ?」

「うん」


 持っていた本の背表紙を見せると、意外そうな顔をされた。


「なんか、いつも読んでるやつと違うな」

「村上先生が薦めてくれたの」

「へえ」

「じゃあ、またね」


「あっ! あのさ、今から帰るんだったら送ってくけど。また本屋に寄ろうかなと思ってるから、ついでに」

「ううん、まだ用があるから。ありがとね」

「あ、うん……」

「今度、また護身術教えてよ」

「おお、いつでもいいぞ」

「茉莉花にも聞いてみるね」


 ***


 重松くんは、一緒に帰った日の約束を忘れず、茉莉花とわたしに簡単な護身術を教えてくれた。


 重松くんの教え方はすごくわかりやすかった。つかまれた腕を振り払うにはどうしたらいいかとか、口をふさがれたら小指をつかんで反対側に折るつもりで引っ張れとか。カバンや傘を使った攻撃や防御も教えてくれた。


「これで変態をやっつけてやる!」

 はしゃぐ茉莉花に重松くんはしつこいくらい注意した。


「まずは大声を出して、逃げられそうならとっとと逃げろよ。護身術はあくまで逃げる隙を作るため。間違っても取り押さえようとか思うなよ。相手は武器持ってるかもしれないんだからな。できれば大声で叫ぶ練習もしといた方がいい。とっさに大きな声って出ないだろ」

 

「了解です、師匠」

「いいこと言いますね、師匠」

「なんだよ、それ。まあ、わかればよろしい」

 三人でそんなバカな会話をするのも楽しかった。


 でも、あの日以来、重松くんが送ってくれると言っても断ってる。


 貴志くんがヤキモチを焼いてくれたのは嬉しかったけど、嫌な気持ちになるなら、もう送ってもらうわけにはいかない。

 わたしだって、貴志くんが他の女性と一緒に帰ってきたりしたら、ヤキモチどころか、嫉妬の炎で相手を焼き殺しちゃいそうなくらい嫌だ。


 ただ、貴志くんのヤキモチが、恋愛感情なのか、妹のような子に対する独占欲なのか、いまいちよく分からない。


 ただの妹みたいに思ってるなら、告白しても困らせるだけだし……。

 9歳差はやっぱり大きいのかな。いったいいつになったら、この気持ちを伝えられるんだろう。


 中学2年生。大人には、まだまだ遠い。




 


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