夢十夜
図書室の本の整理をしながら、次はどの本を読もうかと考える。
(夏目漱石の『坊ちゃん』面白かったな。『
『夢十夜』は、書き出しがすべて同じ「こんな夢を見た」から始まる十の不思議な物語。
そういえば、前に
***
放課後、ひと気もまばらな教室で、わたしが持っていた本を指差し、茉莉花が言った。
「なに、それ。ゆめ……じゅうや?」
「正解。よく読めました」
「えへへ。それで、どんな話なの?」
「題名の通り、一夜から十夜までの不思議な夢の物語よ」
「面白い?」
「うーん、面白いっていうか、雰囲気を楽しむ感じかな。全部夢の話だしね。わたしは一話目とか結構好きなんだけど」
「じゃあ、それ読んで」
「え、今?」
「うん。いいじゃん。あんまり人もいないし」
茉莉花が目をキラキラさせてわたしを見る。
ほんと、おねだり上手なんだから。
「わかった。じゃあ、一話だけね。たぶん5分くらいかかるよ」
「うん、いいよ!」
茉莉花は、わたしの前の席に横向きに座り、集中するように目を閉じた。
(上手く読めるかな。せめて作品の雰囲気を壊さないようにがんばろう)
わたしは本を開き、第一話を声に出して読み始めた。
「こんな夢を見た。
腕組をして枕元に
生と死をイメージする幻想的な物語を読んでいるうちに、いつのまにか、その世界に入り込んでいたらしい。
読み終えて茉莉花を見ると、彼女は長いため息をついてから目を開けた。
「いい! 葵の声にすごく合ってた! すっごい、ゾクゾクしちゃった」
と興奮した声で言う。
茉莉花はいつもわたしの声を褒めるけど、自分では意識したことがないので戸惑ってしまう。
「なんていうか、普通の人と響きが違うんだよね。ねえ、重松くんも聞いてたでしょ? 良かったと思わない?」
茉莉花は、近くの席で机にうつ伏せている重松くんに声をかけた。
「やめなよ、寝てるんだから」
「平気平気。どうせ狸寝入りだもん。ねえ、重松くん?」
茉莉花はなぜかニヤニヤしている。
重松くんは不機嫌そうに顔を上げた。
「ごめんね、重松くん。起こしちゃった?」
わたしが謝ると、重松くんは首を横に振った。
「平気。目ぇつぶってただけだから」
「ねえ、良かったでしょ? 今の朗読」
茉莉花がもう一度聞くと、重松くんはコクリとうなずく。
「うん、良かった。俺も香坂の声、いいなって前から思ってたし」
「え、ほんとに?」
まさか重松くんに褒められるとは思わなかった。
「なんか照れくさいけど、どうもありがとう」
「いや、べつに」
「やあねえ。ふたりして、お見合いみたいな空気出さないでよ」
「ちょっと茉莉花、変なこと言わないでよね」
「ごめんごめん、貴志くんに怒られちゃうね」
「もうっ、貴志くんの名まえ出せばいいと思ってるでしょ」
「てへ。いやあ、ほんといいもん聞かせてもらいました。ありがとね」
「どういたしまして。じゃあ、そろそろ帰ろうか」
「うん。バイバイ、重松くん」
「また明日ね」
「おお、またな」
校門を出てから茉莉花と別れ、ひとりで家に向かっていると、後ろから誰かが走ってきた。
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