第18話 料理コンテスト 前編
「な、なんですかコレ?!! これが旦那様がおっしゃっていたチョウミリョウですか!!!?」
チーズをたっぷり溶かし込んだリリア特性のシチューを口にした、アルルが思わずと言った様子で彼女らしくもない酷く大きな声を出した。
どうやらオレ達庶民の料理もちゃんとアルルの口に合ったらしい。
……まぁ完成まで、そのよい匂いに犬の様にダーダーと涎を止められないでいたアルルだったので、正直その点は余り心配もしていなかったのだが。
熱さに苦戦しながらも、スプーンを持つ手を止められないアルルに
「コレはシチューだ。調味料は、肉の下味に使った塩や胡椒のことな」
と一応教えてやれば。
アルルは口いっぱいシチューの具を頬張ったまま、その魅惑の名前に目を輝かせた。
それが可愛くて、
「オレも、昔からリリアのシチューが一番好きなんだ」
そううっかり口を滑らしたのがいけなかったのだろう。
勝ち誇った顔をするリリアとは対照的に
「今のセリフ、聞き捨てなりませんね?!」
「そうですよ~、一番だなんて、先輩はまだ本当に美味しい物を食べた事がないからそんな風に思ってるだけですよ??」
「ボクが本当に美味い物が何かを教えてやる!!」
何故か三人が鬼の形相でそうオレに詰め寄って来たので……
「と、いう訳でこれから料理コンテストを始める。制限時間は夕日が沈むまで。各自この街で食材を調達し、出来た物を持ってアルルの部屋に集合という事で。では一端解散!」
オレは三人に絞殺される前に、急遽次に立ち寄った街で料理コンテストを開く羽目になったのだった。
こんなことしてる場合かとの思いが無かったわけでもないが……。
まぁどの道、街に立ち寄り食料を買い足したり、情報を集めたり、武具の手入れをしたりする必要はあったのだ。
アルルも母親と無理矢理引き離された寂しさを忘れワクワクしている事だし、まぁいいだろう。
「じゃあ、オレ達も行こうか」
そうして、オレは皆が食材を買い集める為に街を奔走する間、アルルの装備品を見繕う為、アルルを連れて買い物に出かけたのだった。
******
「と、いう事で。ただいまより、第一回お料理コンテストの審査を開始します!!」
クローディアの宣言に、メグ、ユーリ、アルルの三人が熱心に、リリアがややおざなりに拍手をした。
「審査員はアルルちゃん。彼女が一番おいしいと言った料理を作った人が優勝。以降、ハル様の一番好きなお料理はその優勝した品と公式に認めらえるという事で、それでいいですね?!」
何故アルルが一番美味しいと言った料理が、オレの一番の好物と今後公式に認定されることになるのかその理屈はさっぱり分からなかったが……
それを言い始めると面倒なのでとりあえず黙って頷くことにする。
「じゃあ、まずはボクの料理から」
そう言ってユーリが取り出したのは……
美しい飾り切りが施された色とりどりの野菜が散りばめられた、目にも鮮やかなサラダだった。
「わー! 綺麗!! まるでお花畑みたい」
そんなアルルの無邪気な声に、強いライバル意識から張りつめていた皆の頬が思わず緩む。
シャキシャキの葉物野菜と、カラリと上がったサクサクのクルトンに舌鼓を打っていた時だ。
「旦那様! 見て下さい!! 私のだけ、ニンジンがお星さまの形になっています!」
アルルが酷く感動した様子で、自身の皿の上に盛られた星型に切られたニンジンを指してみせた。
昨晩、シチューを何杯も何杯もおかわりしていたアルルだが、後半、こっそりニンジンだけは少な目によそっていたのを、ユーリは見逃さなかったのだろう。
「あぁ、それは幸運のニンジンだな。食えばいい事があるかもな」
笑ってそう返せば、アルルがまたパァッと顔を輝かせた後、残すことなくフォークで刺したそれを、大事そうに口に入れるのが見えた。
「美味しい?」
ユーリの問いに、アルルが酷く嬉しそうにコクコクと頷いたので。
それを見たユーリもまた安心した様に、彼にしては酷く珍しく、まるで愛らしい少女のように実に柔らかに眦を下げた。
「じゃあ次は私ですね~」
そう言って、メグが出してきたもの、それは……
薄く切って香ばしく焼き上げたパンの上に、たっぷりのクリーム状に柔らかくしたチーズをのせ。更にその上に、薄切りにしたハムや塩気の効いた魚の燻製の薄切りを薔薇の花の様にクルクルと巻いたものを乗せた、実に華やかなオードブルだった。
「今度はお肉とお魚がお花になってます!!」
涎を垂らしながらも、その飾りの美しさに手を付けられないでいるアルルの口に、自分の皿の上に盛られていたそれを一つ取って放り込んでやれば。
アルルが自身の頬を押さえ
「美味しい!!」
と悶絶した。
自分も一つ取って口に入れる。
あぁ、きっとこれはオードブルというより旨い
「この旅が終わったら、二人でゆっくり飲みましょうね」
酒好きの癖に。
たったグラス一杯で酔ってしまったらしく、トロントした目をしてオレにその身を預けてくるメグに
「あぁ、そうだな」
と頷けば
「約束ですよ」
そう言って、メグが今度は彼女の白い小指をオレに向かい差し出して来た。
メグの話によると、小指と小指を絡めて誓いを立てるという風習が、遠い東の国にはあるらしい。
剣を握るオレのものと違い、メグの指は下手に繋いでしまえば折れてしまいそうな程に白く細い。
だから、オレは自分の指を絡める代わりにメグの手を取り、その小指に口づけ、魔王討伐の暁には二人で杯を酌み交わす事を約束したのだが……
何故かまた残りの三人に物凄い形相でにらまれてしまった為、リリア、クローディア、ユーリそれぞれの小指にキスを落としながら、それぞれと魔王討伐後の誓いをたてることとなったのだった。
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