第13話 魔女は怒らせると怖い
「一体何をした?」
呆然と呟くオレの声に、ナタニエルが自慢げに話し出す。
「魔具の力を使って、女ったらし野郎の心臓に雷撃を叩きこんでやったんだ。いかに鎧がかつての勇者の物を再現した丈夫なものだろうと金属製の鎧の下は、生身の人間だ。おまけに金属は雷を良く通す。そのショックを心臓に思い切りぶつけてやれば、どんな屈強な戦士だとしてもひとたまりもない」
成る程?
いろいろ引っかかるところはあるが、狙いはそういうことかととりあえずは理解した瞬間だった。
「……ってお前、何でまだ生きてる?!!!!」
振り向いたナタニエルが、その目を零れんばかりに大きく開いて驚いた。
何故と言われても???
もとよりトニトルス・アウィスの革は雷魔法に強い耐性を持つ。
だから、一瞬僅かに体にしびれが走りはしたが、別段命に別状がない事くらい予想がついたと思うのだが??
……もしかして。
コイツにもオレが纏う防具が本当に、先代勇者が纏っていた鎧の様に見えているのだろうか?
はっと、そんな可能性に気づいた時だった。
「なるほど~。いつも仕留めるのは生身の魔物相手だからそんな方法思いつきませんでしたが、それは面白いですね~」
メグがそんな事を言いながら、持っていた杖を軽く振った。
何をしたんだろうと思った次の瞬間、
「ギャン!!!」
そんな犬の鳴き声のような声を上げて、ナタニエルが飛び上がった。
どうやらメグが放った小さな小さな雷撃が右足の拗ね当てを直撃したらしい。
「私、超高火力火魔法以外は苦手だから普段使うことなかったんですけど~。生かさず殺さず、人間相手にはこれくらいでちょうどいいのかもしれませんね~」
黒曜石の様な美しい瞳を嗜虐的な笑みの形に細め、今度は雷撃をナタニエルの左手籠手に命中させ、ヤツに変なダンスを踊らせるメグが僅かに犬歯を見せて嗤う。
「魔女め! 今すぐやめろ!!」
怒鳴る伯爵に向かい
「え~? 火炎魔法の方が良かったですか~??」
メグが間延びした口調と口元の綺麗な笑みはそのまま、その瞳のハイライトをすっかり消し去り伯爵の方振り向いた瞬間、
「ヒッ!!」
そんな小さな悲鳴を上げて、伯爵が僅かに失禁したのが分かった。
******
今度こそ無事街を出て――
街道沿いを後方を気にすることなく堂々歩きながら、オレは先程抱いた疑問を思い出した。
「……なぁ、もしかして皆にはオレのこの皮の防具が本当に、先代勇者か装備していたと言われている金属製の鎧の様に見えるのか??」
四人を振り返り、そう尋ねれば
「えぇ」
「はい」
「そうで~す」
リリア、クローディア、メグの三人が、一斉に神妙な顔をして頷いた。
やはりそうなのかと、改めて驚けば。
「うーん? 触り心地は革のままなのにね」
隣を歩いていたユーリが、オレの胸当てにその小さな手を押し当てさわさわとその感触を確かめるように撫でながら、実に不思議そうに首を傾げた。
「ハルトからは普通に革の鎧に見えるんだ?」
リリアの言葉に頷けば、リリアが何やら考え込むようなポーズを取る。
「不思議ですね~。なかなか強くなれない先輩の代わりに防具の見た目だけ強そうになるなんて~」
メグの言葉に地味に傷ついた時だ。
「いいじゃないですか。とってもお似合いですし、敵に弱点もバレにくいですし、いいことづくしじゃないですか」
そう言って、物語の中で語り継がれている先代勇者に憧れているらしいクローディアが、またオレの腕にギュッとしがみついて楽しそうに笑ってみせてくれた。
そんなクローディアの笑顔に絆されて、まぁ、今はそういう事にしておくか。
そう思い、オレがそれ以上それについて考えるのを止めた、その時だった。
少し先の森から、突然、巨大な火柱が上がった。
******
駆けつけた先で、倒れた馬車とともに、これまで見たことも無いような巨大なドラゴンが目に入った。
腰を抜かして座り込んだ馬車の主人らしき男を守る為、その人を庇うように立ち剣を抜いた瞬間
「ダメ! ハルト!!」
リリアのそんな声が聞こえた。
「大丈夫だ!」
オレでは勝てない事は良く分かっている。
だから、この人が逃げられるまで少し時間を稼ぐだけだ。
無理はしない。
そう言おうとした時だった。
ドラゴンがグッと首を後方にのけぞらせたかと思った次の瞬間、勢いよく炎を吐いた。
「ハル様!」
クローディアが咄嗟に張ってくれた厚い氷壁に溶岩の様なドラゴンブレスが勢いよく衝突し、激しい水蒸気爆発が起こった。
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