第11話 大変良くお似合いで

エルメルがオレの防具を見立ててくれるというので、すっかり体調の戻ったオレは午後、エルメルと二人買い物に出た。


「……少し、雰囲気が変わったな」


通りを歩いている最中エルメルにそう言われ、商店のガラスに映る自分の姿を見てみる。

強くなった実感はないが、オレも少しは成長しているのだろうか?


「少しはマシな顔つきになったかな?」


調子に乗ってエルメルにそう尋ねれば


「……どうだろうな」


エルメルの心底どうでもよさそうな声が返ってきた。

最近、妙に持ち上げられる事が多かったせいで、逆にそんなエルメルのそっけなさが心地良くて。

そうだったらいいなと、心から思え上機嫌で笑っているうちに、一軒の少し古びた防具屋に着いた。





「大変良くお似合いです!!」


店の店主にそうおだてられ、どうだとエルメルを見ればエルメルが小さく肩を竦めてみせた。

首を横に振らないところを見ると、エルメルもこのトニトルス・アウィスのレザーの鎧を購入する事に賛成らしい。


本当はもっと耐久性の高い、鋼を加工した鎧を買いたかったのだが。

残念ながら全然弱いままのオレには使いこなせそうにも無く、最終的にこれに決まったわけなのだが……。


そんなオレを気遣ってなのだろう。


「いやぁ、お客様がお召しになると、不思議と色こそ違え、かつての勇者様がお召しになっていたと聞く、伝説の鎧の様に見えるから不思議ですなぁ」


店主はそんなおべっかを言って寄こした。


かつての勇者が愛用したという鎧は、物理攻撃に高い耐性を持つオリハルコン制の鎧だったと聞く。

片や、オレが選んだのは一応は防刀性に優れ雷撃耐性をもっているものの、軽さに特化したレザー製の防具だ。

店主の言葉には流石に無理があり過ぎる。


苦笑しながら代金を払って、オレはエルメルと二人店を出た。



次いでエルメルの案内で武器屋に立ち寄る。

王都よりずっと対魔王戦の前線に近い街だけに、取り扱う武器は豊富だ。


鎧と同じく、本当は今愛用しているロングソードよりも、もっと攻撃力が高い剣を新調出来ればよかったのだけれど。

しかし残念ながらこちらもオレの手には余った為、結局オレは何も買わずに宿に戻ることにした。







******



「ハル様! 素敵です!! まるで、絵本で読んだ、先代の勇者様のようです」


宿に戻れば、先程のオレと防具やの店主とのやり取りをどこかからか見ていたのだろうか。

クローディアが目をキラキラさせながら、やっぱりそんな、あり得ない事を言った。


流石に恥ずかしくなって、リリア、メグ、ユーリを見たが、皆優しく頷くばかりで……。

逆に自分の弱さを実感していたたまれなくなったオレは、一人先に風呂場へと逃げ出すことを決める。


皆が見える前で、籠手を外せば


「ちょっとボクもつけてみていいかな」


ユーリがそう言って籠手を手に取った後で


「あれ? もしかしてこれってレザー??」


実に意外そうに首を傾げた。

確認せずともどこからどう見ても、レザーに決まっているだろうに。

幼くして勇者に選ばれたユーリは意外と素材に疎いのかと思いつつ、胸当ても投げてやれば。

それを慌てて両手で受け止めたユーリがその軽さにまた酷く驚いた様だった。



オレの防具を纏ってオレのロングソードを背中に負ったユーリは、まるでぶかぶかの防具を形だけ纏った、騎士見習いの幼い少年の様で。

オレのものでは全く肩幅が合わず、肩当を半ばずり落としたユーリの姿はオレよりも強い筈なのに、何故だろう。

妙にオレの庇護欲を煽った。


「なんでだろう? ハルトが着てると全然違って見えたのに。ユーリが着ると、ただのレザーの防具と、ただの使い古したロングソードね??」


リリアの言葉にオレが装備してもそうだろうと肩を竦めれば


「別に、この防具からは呪いや加護のようなものは感じられないですし~??」


メグがそんな事を言って首を捻った。







******



翌朝――

オレが目を覚ましたときには、エルメルは既に一人宿を出た後だった。


改めてちゃんと礼を言わせてもくれないところが実に彼らしい。

さよならと言わなかったところを見るに、きっとまたそのうち偶然、エルメルとはどこかで会えるのだろう。





朝食を済ませ、オレ達も街を発とうとした時だった。


「貴様がハルトだな。一緒に領主様の館まで来てもらおう」


何故か突然馬をかけさせやって来た兵士からそんな事を言われた。


先を急ぐ身故、挨拶などは勘弁してもらえないだろうかと話もしてみたのだが……。

兵達は酷く高圧的にいいから着いて来いと言うばかりで。


オレは、密かに腹を立てたメグが兵士達を一掃して大事にしてしまう前に、彼らの言う通り素直に領主の元に行くことを決めた。

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