第9話 カラスは白い、ですよね?(side クローディア)

はぁ……。

一体いつになったら、ハル様とお城に戻り幸せな結婚式を挙げる事が出来るのでしょう。

そんな事を思いうなだれていた時でした。


なにがどうしてこうなったのか。

何故か、お城に帰るのをすっ飛ばし、いきなりハル様と夫婦の様に同じベッドで眠る事態となりました。





「やはり、メグとオレが部屋を変わろう」


ドアの閉まる音に緊張の余り思わずビクッと肩を跳ねさせた私を見て、ハル様がまた優しく微笑みながらそう言ったので。


「だ、ダメです!!!!」


必死になって首を横に振りました。

何が悲しくて、好きな人が他の女の子と同じベッドで寝るのをみすみす見逃さないといけないのでしょう。





ギシッと小さな音を立てて。

ベッドのマットがハル様の方に向け、少し沈んだのが分かりました。


「ハル様! あの、私……」


ずっと言えなかった思いを告げるなら、今しかない!

そう思い、勇気を出してハル様を振り返ったのですが……。


思ったよりも近くにあったハル様の綺麗な瞳に、初めて会った時の様にまた優しく微笑みかけられて。

私はまたボフンと真っ赤になってしまい、またパッと反対側を向きシーツを頭まで被りました。

そして、意気地の無い事に、結局いつものように何も言えなくなってしまったのでした。





それからしばらくした頃――

スウスウというハル様の寝息が聞こえてきました。


ゆっくりシーツの中から這い出て、その綺麗な寝顔を至近距離から盗み見ていたその時でした。


不意にハル様がゴロンとこちらに向かって寝返りをうったので、キスしてしまうのではないかと思うくらい唇が近づいて……。


それに文字通り飛び上がって驚いた私は、思わずベッドから落ちてしまったのでした。



「お、起こしてしまって、すみません! 次は、次は気を付けますから!!」


おそらく寝相が悪いのだと思われた事が恥ずかしくて。

でも、本当の事も言えなくて。


大人しくベッドの端で小さく悶絶していた時でした。

突然、ハル様に後ろからギュッと抱きしめられました!


「ハ、ハル様??!」


もしかして、ハル様もずっと私の事を思って下さったのでしょうか?!

そう思い、ドキドキしながら名前を呼べば。


「また落ちるぞ」


そんな酷くねむたげな言葉が返ってきました。

ハル様……口調からして、どうやら寝ぼけていらっしゃるのでしょう。


深夜になり部屋の中とは言え、随分と冷えていたせいでしょうか。

隙間を厭うようにギュッと深く抱きしめられ、ハル様の形の良い鼻が私のうなじに触れました。



「さ、寒いですか?」


全身真っ赤にしながら、そう尋ねれば。


「うん」


そんな寝ぼけた声が返ってきました。



「今晩は冷えますもんね」


「うん」


「ベッド、温かいですね」


「うん」


「……カラスは白いですよね?」


「うん」


半分、寝ているのに。

律儀に返事をして下さるところが、本当にハル様らしいなと思います。


「…………ハル様」


「うん」


「どうか、私と結婚してください」


「う」


ハル様が『ん』と言ってくださろうとした、その時でした。


ズドォォォン!!!!


そんな轟音が宿中に響き渡りました。

おそらく、ずっと床に腹ばいになり私とハル様の会話に耳を澄ましていたリリアさんが、そんな約束はさせまいと、床を踏み破って突撃してこようとしたのでしょう。


あぁ、天井に対魔王用に編み出した守護の結界を張っておいてよかった♪


そう、一人ほくそ笑んだのですが……。


その音に驚きハル様が完全に目を覚ましてしまい。

また私がベッドから落ちる事が無いようにと、一人ベッドを出て床で眠ると言い張られてしまったのでした。





明け方まではまだ遠い時刻――

私はまたベッドから落ちた風を装って、静かにベッドを降りるとハル様の隣に体を横たえ、毛布を一緒に被りました。


毛布の中にハル様の体温を感じながら、


「ハル様……あの日の約束、守ってくださってありがとうございました」


そう、小さな声で呟けば。


てっきりまた寝ぼけて『うん』という言葉が返ってくると思ったのに。

暗闇の中、ハル様が真っすぐ私の目を見ながら


「オレの方こそ。オレを見限らずついてきてくれてありがとう。オレは相変わらず弱いままだけど……、クローディアの誠意に報いる為にも、必ず旅を続けて魔王を倒すと誓うよ」


と、あの日よりもずっとずっとカッコよくなった顔を惜しげもなく晒して、酷く真剣な表情をして言うから。

やっぱり私はまた、自分の本当の願いをハル様に伝える事が出来なくなってしまったのでした。

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