第8話 誓いのキス(side クローディア)

「それで? どこに行くところだったんだ?」


「えっと……その……」


「どうした??」


口籠る私を見て、彼が小首を傾げました。


「実は私、家出をしてきたんです。だから行先なんてなくて……」


思い切って行先を答えられない訳を話せば。

彼は私を安全な表通りの人通りの多い綺麗な公園まで連れて行ってくれた後、ベンチに座り優しく私の話を聞いてくれました。





結局、すぐに私を探しに来た兵に見つかって。

私はお城に連れ戻されることとなったのですが……。


別れ際


「大丈夫、オレが絶対にキミを自由にして見せるよ!」


彼が私に向かい優しく微笑んだまま、そんな思いもしなかった事を言ってくれました。


もしかして、絵本に出て来る義賊のように、私をお城から攫って逃げてくれるつもりなのでしょうか?


……馬鹿みたい。

おとぎ話じゃあるまいし。


でも……。

でも、なんて素敵な口説き文句でしょう。


「貴方のお名前は?」


「ハルトだ」


「ハル様、貴方を信じます。絶対私を自由にしてください、約束ですからね!」


そう言って馬車の中から彼に向かい懸命に手を伸ばせば


「あぁ、必ず!」


ハル様はそう言って私の手を取ると、ふっとその笑みを消し真剣な目をすると、私の手の甲に誓いの口づけをくださったのでした。







******



翌日――


「そう言う訳で、王女様との結婚のお話は無かった事に」


「そうか、クローディアもそなたの事を気に入ると思ったのだが……。振り回してしまいすまなかったな」


目の前で繰り広げられるハルト様とお父様のそんなやりとりを聞き、私はまた頭の中が真っ白になりました。


まさか……。

まさかハル様が父の言っていた剣士様だったなんて!!



何とか、結婚の撤回の撤回が出来ないかと粘りましたが。


「まぁ、王女様はなんて健気な方なのでしょう。でも大丈夫ですよ。私達はそのように支援していただかずとも、元より通行証さえいただければ十分ですから」


ハル様の仲間である聖女様に、慈愛に満ちた様ないかにも・・・・な表情で微笑まれ、実にいいように退けられてしまいました。


「違うんです! 国の為とか、世界平和とかそういうのはどうでもよくて!! 私はただ……」


『ハル様と一緒にいたいだけなんです! だから、だから私と結婚して下さい!!!!』


そう言いたかったのですが……。


聖女様の言葉にウンウンと頷き同意するハル様と目が合って、再びハル様に優しく微笑みかけられた瞬間、またボフンと顔が熱くなってしまい。

結局私はその日、その言葉を言う事が出来なくなってしまったのでした。





翌日――

再度結婚の約束を取り付けるため、王都を発つハル様を追いかけました。


思いを告げたらすぐハル様と城に戻り、そこで二人いついつまでも幸せに暮らすつもりだったのですが。


「どうした?」


ハル様にそう優しく微笑まれる度、条件反射の様に赤面して何も言えなくなってしまうばかりで……。



『明日こそはハル様に改めて結婚を申し込もう!』


そう決め、早何年が経ったでしょう。


始めは虫一匹殺せなかったのに。

ズルズルとハル様についていく内にいつの間にかインフェルノ・ブラッタも一人で倒せる程に強くなって、気づけば賢姫なんて呼ばれ、魔王討伐の夢を人々から託されるようにまでなってしまっていました。







******


そして、つい先日――


全く強くならず、でもそれに反してどんどんカッコ良く素敵になっていくハル様がパーティーから追放されたので、


『あぁ、これでようやくハル様とお城に帰る事が出来る!!!』


と、飛び上がって喜んだのですが??


何故かリリアさんも、メグさんもハル様と一緒に行くと言い出して、あぁ、どうしたものかと頭を抱えるうち、何故かハル様を追放した張本人のユーリさんまでもがパーティーに戻って来てしまい……。


あれよあれよといううちに、またハル様以外おそらく誰もそれほど強くは望んでいないだろう魔王討伐の旅が再開してしまったのでした。

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