レベルアップは見た目だけ ~ 世界に平和をもたらすべく懸命に努力を続けてきたのにレベルアップしても全然強くなれず、落ち込んでいたのだけれど……。どうやら顔面偏差値のみ大きく上昇していたもよう ~
第7話 初めて出会った日の事(side クローディア)
第7話 初めて出会った日の事(side クローディア)
草の上に腰を下ろし、眠るハル様の綺麗な寝顔を見つめながら。
私は、初めてハル様にお会いした時の事を思い出していました。
そう、あれは今日の様に良く晴れた、とある午後の事でした。
******
「喜べクローディア、お前の結婚相手が決まったぞ! 魔王討伐を目指す勇者パーティーの剣士の男だ」
国王であるお父様から突然そんな事を言われ、頭の中が真っ白になりました。
王家に生まれた以上、いつか国益の為に嫁がされる事は覚悟していたつもりではありましたが……。
でも父は私を溺愛していましたから、政略結婚なんてもっとずっと先の話で。
嫁ぐとしても相手も家格と年の釣り合った、幼い頃より親交のある誰かだとばかり思っていました。
それなのに、聞けば、相手の方は小さな村の生まれで、何の後ろ盾も持たぬ無学な男なのだとか。
世界平和の為、我が王家がまだ幼い勇者を全面的に支援すべく組まれた縁談だという事は頭ではわかりますが……。
何処の馬の骨とも知らない、冒険者上がりの粗野な男にこの身を好きにされるのかと思えば鳥肌が止まらなくなって。
パニックになった私は、気づけば着の身着のままお城を逃げ出してしまっていました。
******
初めて訪れた下町の道は、左右対称に建造されたお城やお庭と異なり複雑に入り組んでいて。
気づいた時、私は自分がどこから来たのか、それすら分からなくなってしまっていました。
「お嬢さん、何かお困りですか?」
どちらに進んでも、戻っても、どんどんと道は狭く汚く物騒になっていくばかりで。
進むことも戻る事も出来なくなって立ち竦んでしまった私に、そう声をかけたのは、綺麗な身なりをし、優し気に目を細めた眼鏡をかけた細身の男性でした。
きっと、どこか良い商家の方なのでしょう。
助かたと思い、道に迷ってしまった事を告げれば
「それはお気の毒に。どうぞこちらですよ」
そう言って。
彼はここより更にくらい路地裏を掌で指して見せました。
酷く嫌な予感がして。
走って逃げようとした私の手を、男がバシッと掴みます。
「おっと、何処に行こうと言うのです? こちらですよ」
「離してください! 誰か! 誰か助けて下さい!!」
必死になって周りに助けを求めましたが……。
周囲の人々は巻き込まれるのを恐れたのでしょう。
こちらからサッと顔を背け、皆一斉に足早に立ち去って行きます。
男が私の肩を掴んで、路地裏に向けてグイと押しました。
「嫌! 誰か!!」
絶望に目の前が暗くなった気がすると同時に、余りの恐怖に涙が零れかけたその時でした。
「嫌がっているだろう。その手を離せ!」
突如誰かが私と男の間に割り込んでくるなり、私をその背に庇ってくれました。
「何だお前、俺が誰か知らないのか?」
先程までの猫なで声から一転、眼鏡の男が低いドスを聞かせた声で言いました。
「その長剣、冒険者か。死にたくなければ、その女を置いて失せろ!」
男の怒声に合わせ、現れた男の仲間が、私を庇ってくれているその人に向け一斉に剣を構えました。
長い長い打ち合いの末――
「覚えてろよ!!」
そんな古典的な捨て台詞を残し去って行ったのは、眼鏡の男達でした。
ホッとして、こちらを振り返った彼を見れば。
彼は肩で大きく息を切らせながら、驚いた事にその肩や足を自らの血で濡らしていました。
てっきり腕の立つ冒険者故、あんなにも当然の様に私を庇ってくれたのだと思っていましたが。
どうやら彼は純然たる正義感から、困っている私を見捨てることが出来ず、わが身の危険を顧みず飛び込んできてくれたようでした。
「怪我はないか?」
そう言いながら。
彼が剣だこのあるその大きな手で優しく私の頬に触れました。
こんな風に男性に触れられるのは初めてで……。
思わず赤面しつつ、オロオロと視線を泳がせながら
「は、はい、大丈夫です! 助けて下さって本当にありがとうございました!!」
なんとかそう言えば。
「そうか、それならよかった」
怪我を負ったのは自分の方だというのに。
彼がホッとしたように、それでいてまるで恋人に向けるような酷く甘い笑顔をいきなり向けてくるものだから。
私は、またどうしようもなく顔に熱が集まっていくのを意識せざるを得ませんでした。
恥ずかしさを必死に我慢して、改めて彼を正面から真っすぐ見れば。
私の目の前に立っていたその人は、私より整った顔立ちをした私よりも少し年上とおぼしき青年でした。
「ここは女の子が一人歩きするには危険だ。送るよ」
お城で合う貴族や騎士とはまるで異なる飾らない物言いに、日焼けした肌に、無駄のないしなやかな筋肉を纏った逞しい腕に、そしてその真っすぐで優しい眼差しに。
私は今度は顔を通り越して耳までがカッと熱くなるのを、止める事が出来ませんでした。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
久しぶりの更新にも関わらず、また読んで下さり本当にありがとうございます。
このお話の他にもう一つ、
『あの子を甘やかして幸せにスローライフする為の、はずれスキル7回の使い方』
https://kakuyomu.jp/my/works/16817330655928626017
というお話も連載中です。
もしよろしければこちらも更新までの暇つぶしに読んでいただければ嬉しいです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます