第4話 追従(side ユーリ)

「……と、いう事でお前には抜けてもらう」


そう言って。

弱いままのハルトをパーティーから追放したら、


「じゃあ私も抜けます」

「では私も」

「私も~」


そう言って。

パーティーの主戦力である聖女のリリアと、賢姫のクローディア、そして漆黒の大魔導士メグがあっさりパーティーを抜けていった。


『ハルトと一緒にいたいから』


というのが、皆の脱退の理由だった。



……なんだよ。

何だよ??!!


ボク達の悲願は、魔王を倒し世界に平和をもたらす事じゃなかったのか?!!


世界の皆の為、憎まれ役を買ってまでハルトを追放したというのに、どうしてこうなる??


「後で戻って来たいと言っても復帰なんてさせてやらないからな?! 吠え面かくなよ!!」


ボクのそんな怒りに満ちた最期の忠告を歯牙にもかけず、三人はすぐさま荷物を纏めるとハルトの後を追って行った。







******



一日が経ち、二日経っても三人が戻って来ることはなかったから――

ボクは新たな仲間を募る事にした。


勇者ユーリの名前はこの街にも届いており、すぐさまボクの元にはボクを慕って強力な仲間が集まってくれた。



新たなボクの旅の仲間は元のパーティーと同じ四人。

戦士のヴィルヘルムに、回復魔法を得意とするマクシミリアン、補助系の呪文を得意とするブルーベールそして、こうげき魔法を得意とするアレクシス。


皆、歴戦の猛者達だと言う。





「ユーリ、そっちに行ったぞ!」

「私が障壁を作ります!」

「援護する!」


彼らの言葉に嘘はなく、互いに初対面だと言うのに連携はバッチリで


「とどめだぁぁぁ!!」


ボクはこれまで倒せずにいた宿敵ブラッディスコルピウスを、あっけなく討伐することが出来た。



ほら、やっぱり弱いハルトを追放したボクが正しかった。

強い仲間と共に戦う方ボクは、きっとこれからもっと強力な魔物を屠ることが出来るようになるだろう。


そう歓喜し、ボクのパーティーを抜けていった愚かなあの三人をあざ笑ってやろうと思ったのに……。


どうしてだろう。

ボクの胸に残ったのは意外にも寂寥感だった。







******



戦いですっかり消耗した体を休める為、近隣の街まで戻るその道すがら――

疲れ切って、ボクが思わず装備していた盾と荷物の重みにフラッとよろめいた時だ。


「この辺りの主を倒したんだ。周囲の魔物が殺気だっている。気を抜くなんて言語道断だぞ!!」


ヴィルヘルムの厳しい叱責の声が飛んできた。

それに被せるように、他の三人もボクを叱咤する。


『無理するな。荷物ならオレが持つ』


不意にハルトの、そんな優しい声を思い出した。



ハルトは弱い。

だから戦いの後はいつだって、自分が一番体が辛いはずなのに。


『よく頑張ったな』


そう言って。

戦いの苦しさも怖さも全て拭い去ってしまうくらいハルトはいつも温かく笑って。

ボクには酷く重く感じられるこの盾を、さも当然の顔をして持ってくれたのだ。


今のパーティーメンバー同様、ハルトはボクが本当は女の子である事なんて知らないのに、だ。





すっかり日が落ちた砂漠は、昼の灼熱地獄が嘘の様に冷えて。

ボクは足を引きずり歩きながら、かつてハルトと二人、洞くつの中雨宿りした事を思い出していた。


濡れ鼠になって震えるボクに、ハルトは彼が持っていた唯一乾いたシャツを羽織らせると、自らはびしょ濡れになったシャツを脱いだ。


出会った頃は、ボクと変わらないくらい線の細い少年だったのに。

旅をする間にハルトの体はボクとは違い、しなやかな筋肉に覆われるようになっていて、すっかりボクの知らない男の人になっていた。


思わず真っ赤になったボクに気づいたハルトが


『熱があるのか?』


そう言って額をくっつて来たから、ボクはますます顔に集まった熱を逃がす事が出来なくなって、湯たんぽ代わりにとハルトに抱きすくめられたまま、雨上がりを待つことになったんだっけ。



そんな事を思っていたら不意にハルトの纏うムスクのように甘い香りを思い出してしまって……。

ボクはもうハルトに会いたくなってどうしようもなくなってしまった。







******



「すまない! やはりこのパーティーは解散させてくれ!!」


そういって深々と頭を下げたボクをヴィルヘルム達は『何が不満だ』と責め立てた。


「皆は何も悪くない。ボクが……ボクがやはりかつての仲間を忘れられないだけ」


そう言えば


「気持ちは分からんでもないが……聖女も賢姫も大魔導士も、新たなパーティーに入ったと聞く。別に俺達を解雇したからと言って、皆がお前の元に戻って来てくれるわけではないと思うぞ」


ヴィルヘルムが厳しい顔をして、でも心からボクの事を思ってそんな苦言を呈してくれた。


「あぁ、それは分かっている」


「だったら……」


そう言いかけたヴィルヘルムの言葉を、ボクは首を横に振って制した。


「ボクの元に戻って来てくれない事は分かっている。だから……だから、今度はボクがハルトのパーティーに入れてもらう事にしようと思ってる!」







******



「ハルト! ボクが悪かった。これまでのことは全て謝るから、だから……どうか、またボクをお前の仲間にしてくれないか?!!」


やっとの思いで追いついて。

震える手でハルトのシャツの端を掴みそう言えば。


「ユーリ?? えっ? でも、本当にオレと一緒でいいのか???」


ハルトはしばらく混乱していたようだったが、泣き出しそうなボクに気づいたのだろう。


「あぁ、もちろん。これからもよろしく、ユーリ」


そう言ってどこまでも眩しく笑うと、またなんでもない顔をして当然のように僕の盾を持ってみせた。

ハルトはこういう所が本当に……本当にカッコいいと思う。



ちなみに。

ハルトのシャツの裾を掴んだまま、これまで通りハルトの一番近くを歩き出した僕を見て、リリア、クローディア、メグの三人がその眦を怒りに吊り上げていたのだが……。

その後の騒動の話はまた別の機会に。

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