第3話 追補(side リリア)

ハルトは昔から、村の少年にしておくにはもったいないくらい綺麗な顔をした男の子だった。

そしてハルトはとってもカッコいいのに、皆に分け隔てなく優しくてそしてひたむきな努力家だったから、皆ハルトの事が大好きだった。


だから魔王を倒す為、ハルトが村を出ると言い出した時には皆酷く悲しみ、どうにかしてハルトを引き留めようとしていたから。

私は皆を出し抜いて、彼についていく事に決めた。







******



街につくなり、ハルトはあっという間に綺麗なお姉さん達に囲まれた。

質素なシャツと使い古した防具を纏っているにも関わらず、ハルトのカッコよさは華やかな街でもすぐさまいろんな人の目を引いたらしい。


だから


「ねぇハルト、薬草の採取依頼だって! まずは装備を整えるためにもこういった依頼を地道にこなしていこうよ」


垢抜けた都会の女にハルトを取られたくなくて、私は街を離れる少し骨の折れる依頼をハルトとともに率先して受けた。


そのせいだろう。

ハルトと一緒にいられれば、世界がどうなろうと私の知った事ではなかったというのに、あっという間に私は強くなってしまって……。

勇者のユーリにパーティーに誘われ、ハルトと一緒との条件の元、魔王討伐の旅に出るはめになってしまった。





ユーリのパーティーに入って旅を続けるうち、ハルトは全く強くならなかったけれど、そんな事どうでもよい事など全く気にならないくらい、本当にカッコいい男の人になっていった。


それが如何ほどのものかと問われれば、とある国王を訪れた際、ハルトに一目ぼれした箱入り娘の王女様が無理やりパーティーに押し掛け、危険でハードな冒険にめげもせず居座ってきたくらいだ。


他にも、同じ人間でありながら、人の世の醜さに絶望し世界を滅ぼさんとしていた魔女の凍った心をその笑顔一つであっさり溶かして、仲間にしてしまった事もあったっけ。







******



ハルトと二人、魔女メグにより拓かれた焦土と化した地平線の先から上る朝日を眺めていた時だった。


「……リリア。本当にユーリと共に行かなくて、オレ何を仲間に選んで本当にいいのか?」


ハルトに改めてそんな事を聞かれたから、前を向いたまま


「いいに決まってるじゃない」


そう即答した。

するとハルトが


「オレ、リリアの期待に応えられるよう頑張るから」


そう言って、少し悔し気に下を向いたから


「別に、そんなに頑張らなくったっていいよ」


思わずそんな本音を漏らしてしまった。



ハルトは努力する度、相変わらずちっとも強くはならないが、ビックリするくらいどんどんカッコ良くなっていく。

この調子でいけばそう遠くないうちに後光でも差すのではないだろうかと、割と真面目に思う程だ。


そうなったら、今度はどんなとんでもない大物がハルトのカッコよさにつられてパーティーに乗り込んでくることやら……。


努力するハルトの姿もまた眼福ではあるのだが。

たまには、ライバル達に抜け駆けされぬ様、日々神経をとがらせている私の身にもなって欲しい。


それに、勇者ユーリなんかいなくとも、このままハルトが魔王の元にたどり着くまで努力を重ねていったら、きっと魔王だってハルトのファンになってしまってあっさり終戦に合意するのではないかと、私は割と本気でそう思ってる。



そんな複雑な思いを込めて


「ハルトなら大丈夫」


そうハルトに告げた時だった。


「いつもオレを信じてくれてありがとう、リリア」


そう言って。

クローディアとメグが立てるスースーという寝息をBGMに、ハルトが私だけに向かい、どこか可愛かった昔のハルトを思い出させるような酷く無防備な笑顔を見せたから。


私はその尊さに、思わずドキリとこれまで以上に強く跳ねた心臓がその衝撃で止まってしまうかと、まだハルトと結ばれてもいないのにこんなところで死んでたまるかと、酷く焦ったのだった。

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