協力者

翌日の午前中から北中央署の捜査員は被害者中田の自宅に向かい、妻の中田 薫の夫が失踪した当時の状況を聞くため事情聴取をしに伺った、中田宅は流石政治家というものとても広々とした豪邸な建物だった、思わず驚いてしまう刑事も多々いた、現場には眞鍋や市川、そして警部の羽鳥など一課の人間も潜入している、一課の刑事二人はリビングのテーブルに資料を置き薫を椅子に座らせその資料の写真を見させた、「当時ご主人に何か不審な点はありませんでしたか?」 すると中田 薫は顔をしわ寄せて首を横に振った、眞鍋は部屋を見渡しながら彷徨き、ときどき一課の隙間から薫を見たがその顔は亡くなってから余程眠れていないんだろうと直ぐに把握した、「早く犯人を捕まえて下さいお願いします」 薫は涙ぐみながらその後しばらくの間聴取に協力した、一課の仕事が終わるとすぐさま眞鍋は二人の間を横切り薫に質問し始めた、「おい!眞鍋何やってる」 慌てて止める一課の二人を羽鳥は冷静に制止した、「まぁ待てや、すぐに終わるだろう」 「いや、しかし」

「一課はさっさと本部に戻れ」

眞鍋は困った様子を見せる薫をおかまないなしに一枚の写真を突き出した、「この刺青、見えますよね」眞鍋は強い口調で話し始めた、眞鍋が見せた写真はあの中田 徹の遺体を発見したあの日に鑑識に取らせた腕元の薔薇の刺青が映る写真だった、写真を見ると突然薫は驚いた、「私これ知らないです、こんな刺青があったのきずかなかったです」 薫は眞鍋に必死に知らないことを訴え続けた、「この刺青は暴力団組織に属している証しとも言える刺青で、ご主人はどこで闇組織に接触したんだ」 強く迫るが、中田 薫は何も知らないの一点張りだった、市川や羽鳥が止めようとするなか、眞鍋はまだ追求を続けた、「もしご主人が暴力団との関係があったならば、政府の人間として国民にとっては大きな事件だと言うことに関わるんだぞ!」 「もういい落ち着け眞鍋!」 羽鳥は慌てて眞鍋を掴みそのまま自宅から出ていった、市川は散らばった写真を拾い集め、終わると軽く薫に会釈し自宅から出ていった、「馬鹿な真似しやがって、奥さんも知らなかったんだ、今はもう殺されて取り返しのつかない事になってしまって一番辛いのは奥さんだ!」 「すいません羽鳥さん、ちょっと頭を冷やしときます」

羽鳥は困惑そうな表情を見せたまま外に止めてある警察車両に乗り込んだ。





3日後、蛯沢の急死からまもなく葬儀、お通夜が行われた、葬儀には大勢の人だかりが集まり皆が蛯沢の死を痛んだ、そのくらいかつては影響力のでかい人物だったのだろう、親族の席には神田や獅子神が居座った、「会長も随分とでかい人間だったみたいですね」神田は参列者に挨拶をするのを獅子神や他の2人と共に並び間の時間に度々獅子神に話しかけた、「これから先代の後はどうするんです?」神田はしらじらしく聞くが獅子神は黙ったまま反応しなかった、葬儀場の回りには遺影の所で泣き崩れる組員だったりヤクザ物ではない人物も多々参列している、すると、入り口付近の道路から何台かの黒いベンツの車が葬儀場の前に止まった、車のドアから先に運転手が降り後部座席の扉を開けると、一人サングラスを掛け黒スーツを着こなした男が降り、そしてこちらにきずくと笑いながら歩いてきた、「えらい来とるな、流石会長や」

獅子神はすぐにその男が誰かわかったが神田はまだ認知しきれなかった、「東條、遅かったな」そう言うと神田は驚いた、「いやー驚いたなまさかとうとうこんな日が訪れる日が来るとは」東條は度々笑みを見せながら話しかけた、「東條さん、親父に顔を見せてやってください」 神田はそう言いうと軽く頭を下げた、すると東條は遺影のある方に顔の向きを変え、手を軽く二人の前に振り上げると中に入っていった、「あの人が東條ですか」 東條が去ると神田は肩の力を抜いた、東條といるときの圧が何故かわからないが不思議とあちら側の空気感に持っていかれる気がした、「昔、敵対していたときはなかなか厄介な男だったからな、東條からは余り近づき過ぎない方が身のためだ」獅子神はそう呟くと神田は余計にゾワゾワとした感情になった。




「どうか神田組に令状を出せませんか」 北中央署の会議室へ西 警視正を呼び込んだ市川はこっそりと眞鍋と追っている捜査状況を西に報告していた、「確かに神田組が事件に関与している可能性は高いが何か物的証拠がなければまず捜査に踏み込むのは難しいだろう」西は困惑した表情を見せる、「しかし遺体の中田の腕に刻まれた刺青は確かに神田組の物です」 なんとか市川は食い下がろうとするが西は首を横に振った、「まず神田組が関与していたとされる証拠を見つけ出せ、話は以上だ」

市川は会議室を出ると納得のいかない顔を見せ、苛立った、「証拠探しているうちに、逃げられるだろ!」思わず持っていた紙切れを床に投げつけた、苛立っているとポケットにいれていた携帯が突然鳴り出した、「はい、市川です」 「おう、羽鳥だ突然悪いな」

市川は慌てて口調を正した、「警部どうしたんです?」 「今眞鍋と一緒か?」 そう聞かれるとすぐに、いないと否定した、「眞鍋さんが一体何か?」すると電話越しの羽鳥の声が重い口調になった、「つい数時間前まであいつを見たんだが、妙な男と会っていたぞ」

「一体何してるんですかねあの人は」市川は疑問を感じながら話した。





その頃当の眞鍋は人だかりの少ない道路に車を止め、助手席に座る人物に話を持ちかけていた、「事件から前の中田 徹の失踪した日の行き先を何か知らないか?」 そう言うと眞鍋は捜査で調べた資料をその人物に渡した、「政治記者なら中田の怪しい動向を調べてたんじゃないか、阿部川さん」助手席に座っていたのは中田 徹の遺体が発見されたあの日現場で探っていた時、記者達の中にいた阿部川という男性記者だった、阿部川は渡された資料目を霞めながらめくりめくり目を通した、「えぇ、確かに私は中田が例の暴力団との癒着か何かあるのではと探ってたんですが、それがどうやら違うかもしれないと感じまして」そう話すと眞鍋はふと阿部川の顔を振り向いた、「違うとは?」 「親しい関係を持っていたのではなく、簡単に言うと脅迫されていたのではないかと」 阿部川は険しい表情をしながらページをすべて読み通した、「自分もいくつか調べてると、疑問に感じた点は幾つかありました、神田組以外の奴も手を貸しているかもしれませんよ」確かに神田組だけで政府の人間に接触できるほどの力は無い、だとすればもっと巨大な組織が手を加えた可能性がある、眞鍋はふと考え込んだ、「自分も一応神田組については探ってみます、又何か分かりましたらすぐに連絡しますよ」 そう言い終えると胸ポケットにメモ帳をしまい阿部川は車から降りた、「他に関与しているとすれば誰だ?」しばらく窓を見つめながら車の中に居座っていた。






午後6時壮真に計画された当の日がやってきた、先に壮真は例の取引のため港へと向かっている、そして眞鍋は壮真との合流地点である高架下の駐車場へ車を止めその時を待っていた、座席に体を倒し携帯で時間を確認するため取り出すと、電池は後僅かになっていた、

一方壮真と組員の前田はワゴン車を走らせ横浜港に向かっている、「どんな奴らなんだろうな壮真?」 「あぁ、そうだな」壮真はおかしな汗をかき始めただじっと外を見つめた、ワゴン車は間もなく港へと到着しようとしている。

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