影の策士

日曜日の午後は余り人が少ない、この駅前通りの店は、お昼から焼肉を食べる人などそうはいない、そんな中眞鍋と壮真が会うのは久しぶりだった、「眞鍋さんの肉もそこの皿に置いてあるんで先食べちゃってください」 「おぉ、悪いな」 余り昼からの肉に気分の上がらなかった眞鍋だが肉の香りが顔まで来ると腹が空いてきた、上着を脱いで席に座り食べ始めた、眞鍋は肉を食べる時も余り表情を変えることはない、壮真はその顔を見るとクスッと食べながらにやけた、「なんだ?」 眞鍋はその笑みに疑問を感じた「そういえば、一昨日、内の仕切る店に乗り込んだらしいじゃないですか、しかも神田に取り調べさせたようで」 壮真は笑いながら話した、「取り調べなんかじゃない、様子をただ見に来ただけだ」 「又そんな冗談を」 そんな話を続けているとあっという間に、さっきまで小皿に溜まっていた肉は無くなった、すると壮真は勝手に女性店員を呼び出し又ハラミ二皿を注文した、「眞鍋さん今酒は禁酒注でしたっけ」壮真は苦笑いしながら問いかけた、「いや、今日は禁酒を解く、生2つ」そう店員に伝え、注文を終えると店員はすぐに厨房へと向かっていった、しばらくハラミ二皿が届くまでの間二人はとんだ世間話をした、「フッ、なんか又こうして二人っきりで話すのも何か懐かしいですね」 「まぁしばらく会ってなかったからな」


七年前、かつての暴力団組織は血で血を争う、長い抗争が続いていた、当時眞鍋は北中央署での暴力団壊滅へと警察内部で動いていた、かつて関武連合が分裂状態のとき、白岩組と神田組の二組織に別れ戦争が続き、大勢の犠牲を持った後、白岩組トップ富岡の死によって抗争は幕を閉じた、後に捜査記録では白岩組のナンバー2であった東條という人物と神田組トップの蛯沢が契りを交わし今の関武連合へと変化していった。

白岩組との抗争に終止符を打った富岡の殺害は、今目の前にいる壮真が富岡を暗殺したことにより終わりを告げたことでもある、暗殺が起きたその夜眞鍋達は直ぐに殺害された道路の現場ヘ直行し、その時服は血だらけでやけに平然としていた壮真を逮捕した、そして長いこと刑務所生活での間眞鍋はよく壮真の取り調べを受けた。




「所で今日急に呼び出したのは何か理由があるんだろ」そうなげかけると壮真は、直ぐには応えず、手元にあるまだグラスに残ったビールを飲み干した後、急にさっきまでの壮真のにやけた表情が変わった、「やはり、眞鍋さん感が鋭いのは変わって無いようですね」

「理由はなんだ?」 「実は来週の水曜深夜の時間帯で、内の組員が横浜の港でブツを受け取りに行く情報を掴んで」 その話しに眞鍋の手が止まった、「神田の兄貴が指揮していた計画が実は台湾マフィアからのブツを簡単に入手するために政治家と接触した可能性が考えられると思いまして」すると眞鍋は咄嗟に話を遮るかのように壮真の襟を掴んだ、「おい!それってもしや?」 すると壮真はゆっくりと頷いた、「今警察が追っている、東京湾のあの事件、あれですね」 するとそんな緊迫した空気の中さっきの女性店員が注文していたハラミを運んできた、「お待たせしました、そちらのお皿お下げしますね」店員が入ってきた時間はごちゃごちゃとした感情になり、眞鍋は壮真の発言を一先ず店員が下がるまで冷静に保った、「失礼いたしました」。


店員が下がると二人はまたさっきの緊迫した面持ちで話し始めた、「どうしてお前は、自分の組が不利になることを警察官の俺に話したんだ?」眞鍋は壮真の思惑にただ疑問だけが浮かんでいた、「まぁ、簡単な話ですよ、実は今親組織の会長が末期のガンを患ってもう長くはないみたいで」 「あの蛯沢か」

「会長は次の候補を内の組長を選んでるらしいんです」 すると壮真は注文で受け取ったビールのジョッキを握った、「だけど、あの神田の野郎は部下に汚い仕事は押し付け、組員をただの出世道具にしか見てない野郎で、そこで眞鍋さんに提案があるんです」 眞鍋はその提案に息を飲んだ、「水曜に行われる、台湾マフィアの交渉で受けとる大量の薬物を、事務所に届ける前に、直接眞鍋さんに私にいきます、そしたら組長の推進する計画は失敗し」 「薬物を食い止めることができるのか」 そう言うと壮真はニヤリと笑い強く握っていたビールを勢いよく喉の中に通した、「計画が失敗すれば幹部達も後ろにバックしてあげる程神田を信頼する事はデメリットになり、警察も事件解決に一歩近づける、お互いに利益のある物だと思いませんか」 壮真の話した計画にしばらく眞鍋は考え込んだ、しばらく注文してからテーブルに置かれたままのハラミに壮真はきずくと、眞鍋の応えを待ちながら又炭火で焼き始めた、しばらくして2分後、ようやく眞鍋は口を開けた「わかった、お互い目的は神田と言うことならば俺も手を貸そう、だが、どうやって薬物を持ち運ぶんだ?」 「例の日には、自分と、もう一人組員がワゴン車で事務所に届けることになってる、ブツを受け取ったら同乗する組員は自分が始末してそのまま眞鍋さんと合流その後事務所に戻る流れです」 「お前は大丈夫なのか?」 心配そうに眞鍋が問いかけると壮真は余裕そうに応えた、「その時には、敵対する組の襲撃に出くわしたと誤魔化します」

眞鍋はその壮真の話しに不安が募るなか、残っている肉を食べ始めた。





深夜の11時、病院の受付から突如ブザーが鳴り響いた、「先生、12番の蛯沢さん、容態が急変しました大至急お願いします」夜勤まで勤める医師や看護師達は慌ただしく直ぐに病室へと向かった、「蛯沢さん聞こえますか、蛯沢さん、蛯沢さん」 心拍数の数値は0のままただ時間だけが過ぎていった、医師は深刻な顔を見せ、そして名前を呼び続けるのを止めた、「11時38分、息をひき止りました」 その医師からの通達は亡くなってから数時間後、獅子神や幹部達に次々と伝わっていった、そしてその頃獅子神は都内のビルが建ち並ぶ町の道路脇に車を止めていた、獅子神はしばらくシートに背中を倒ししばらく目を閉じた、目を開けると携帯を取り出し、電話を掛けた、「もしもし、俺だ」 「おー獅子、話しは聞いたぞ会長はもう逝ってしまったんだと」電話の相手は関武連合の参謀でもある東條だった、 「あぁ、その事で少し話がある」深夜にも関わらず暗闇を知らない町の風景に目線を見つめながら、ひそかに通話を続けた。

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