特別エピソードⅡ【分岐点】
(注意: 本編内に異なる分岐点がもしあったとしたらの話になります。
北村 猿間が鹿山 真由に襲われましたが、ノアの箱舟によって回収された為、世檡によって混血の吸血鬼にされなかった分岐点になります。
ノアの箱舟により全員が狗塚 郁という人物の記憶や存在を完全に抹消されています。)
ピッ、ピッ……
窓の外が赤くなると、病室は少しずつ暗さを増していく。
「……っ」
北村 猿間は重い瞼をゆっくりと開くと、病院の天井が目の前に広がる。
猿間は視線だけを横に向けると、ベットの傍らにある椅子には、目の下に薄く隈が出来ている女性が座っていた。
その女性は猿間が中々帰省できずにいた実家に居るはずの母親だった。
「……かあさん」
猿間は呟くように声を出すと、女性は目を覚ました。
目を覚ました母親は猿間を見ると、目の下いっぱいに涙を溜め、顔をくしゃりと歪めた。
その後、ナースコールが鳴らされ、医者や看護師が猿間の病室に慌ただしく駆け付けた。
女子大学生の警護中にその女性のストーカーらしい男に猿間は後ろから鋭い刃物で刺されたようだった。
目撃者が偶然近くに居合わせ、すぐに通報が入った。
女性は無傷だったが、ストーカーにより、何ヶ所も刺された猿間は救急で病院に運ばれ、処置された後に今まで意識が戻っていなかったようだった。
「ストーカーは逃亡したが、すぐに駆け付けた警官によって捕まったよ。
北村、お前のことを女性の彼氏だと勘違いしたらしい。
やれやれ、災難だったな北村」
佐伯はそう言うと、持ってきた見舞いの果物をベッドの傍にある机に置いた。
「いい機会だから十分療養して、休め」
「ありがとうございます。
ご心配かけてしまい、すいません。
少ししたら、復帰できると思いますので」
佐伯は眉間に皺を寄せると、頭を掻いた。
「ゆっくりでいいよ。
急いでねぇから
千草は北村さんまだ戻って来てくれないっスか? って口尖らせてたけどな。
あいつは本当に子どもじみてるというか……」
「……千草。
誰でしたっけ? 」
猿間がそう言うと、佐伯は驚いた顔をする。
「おいおい、俺みたく北村もボケ始めたか?
千草だよ、俺の班に配属されてお前に異様に懐いてる新米刑事の
「……狗塚 郁ではなくですか? 」
佐伯は首を傾げると、口を開く。
「狗塚 郁? むしろそいつ誰だよ。
そんな刑事いたか? 」
「……いえ、すいません。
俺の勘違いかもしれません」
猿間は佐伯にそう謝ると、佐伯は「邪魔したな、また署でな」と言い、病室を後にした。
猿間は佐伯を見送った後、俯いた。
自らの口から出た狗塚 郁という人物の顔をそしてどういった人物なのか猿間は思い出せなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
北村 猿間が療養を終え、現場に復帰してしばらく経った頃。
捜査で外に出て署に戻って来た佐伯と北村の所に千草が慌ただしく駆けてきた。
「やっと戻ってきました!
北村先輩―」
「どうした、千草。
そんな額にべったり前髪つけて走って来て」
佐伯にそう言われ、千草は慌てて前髪を直した。
「すんません、佐伯さん!
あ、そうっス、そうっス!
北村先輩宛にクリーニング屋が来てるんすよ!
なんか、療養入る前にスーツクリーニング出してましたぁ? 」
「クリーニング……?
悪いけど、覚えてないな」
北村はそう言うと、少し離れた所にクリーニングしたモノを持って立っている配達員の方を見た。
「なんで自宅宛てじゃなくて、署宛てなんだよー北村。
まぁ、なかなか帰れない自宅よりは署の方が確実っちゃ確実か。
俺もたまに嫁さんに内緒にしたい荷物届けてもらってるし」
佐伯ははははっと笑うと、千草は苦笑いした。
北村は覚えがなかったが、配達員が待つところまで歩いていく。
配達員の青年は北村より少し背が低く、帽子を深くかぶっていた。
「わざわざすいません。
北村 猿間です」
「いえ、こちらもすいません。
では、スーツ一点ですね。
こちらにサインお願いします」
届けてもらったモノを見ると、確かに自身のスーツだった。
しかし、何故このスーツをクリーニング出したのか実物を見た今でも思い出せない。
「あ、ペンがないな」
「でしたら、こちらをお使いください」
北村は配達員からペンを渡されると、伝票にサインする。
そして配達員にペンを返す際、指を少し触れた。
北村はふとその指の感触に懐かしさを感じた。
「……ありがとうございました。 猿間さん」
「えっ」
北村は顔を上げると、配達員の青年は北村の方に微笑んでいた。
「……郁? 」
青年はぺこりと頭を下げると、立ち去っていった。
スーツを持ったまま茫然とした顔で立っている北村に佐伯と千草は不思議そうに近付いてくる。
「どうした、北村。
知り合いだったのか? 」
「……いえ、知らない青年です。
多分ですけれど」
北村 猿間はあの青年を知らない。
だけど、何故か知っているような気がした。
警察署を後にし、車に乗り込むと助手席に座る少女が溜息をついた。
「郁、貴方本当に泣き虫よね。
それで、恩人には会えた? 」
目元を自身の袖で郁は拭くと、大きく頷いた。
後部座席からリリィが顔を出すと、何も言わず、郁の頭をポンポンと撫でた。
おわり
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