第52話【審判】

「はぁ……はぁ……っ」


 顔に乱暴に巻き付けた包帯には血が滲み、走るたびに焼かれた皮膚に包帯の布が擦れて激痛に目が眩みそうになった。

 至る所から悲鳴や、仲間達が無差別に斬り合っている。


きっと奴の能力だろう。


 足首まで丈のある黒いワンピーススカートに身を包み、顔はベールによって隠されており、確認することができなかった。

 ワンピーススカートから見えた素足の細さ、形だと女性なのだとは判断は出来たが、指揮棒を振り、何かを唱えたと同時に顔を一瞬にして焼かれた。

 仲間にすぐに水をかけられていなければ、その炎は全身に広がっていたかもしれない。

 幸いなことに喉まで焼かれなかった為に息は何とか出来ているが、顔の大半は火傷を負い、髪も焼けてしまい、焦げた何とも言えない匂いが鼻にずっと張り付いている様に感じた。


「っ……早く、私も戻らなくちゃ……」


 0が仮面で素顔を隠した仲間の一人に心臓を貫かれ、息を引き取る最後の瞬間に抱き抱えているこの子をから隠さなくてはいけない。と言い、託された。

 その為に多くの仲間は盾になり、囮になり、自分とこの子が逃げる時間を稼いでくれている。

 この子を安全な場所に隠し、自分も仲間の元に戻らなくてはいけない。


――しかし、その間にもどれだけ死ぬ?


 仲間の中には幼い頃からずっと戦場を共にし、衣食住も共にしてきた者が大勢いる。

 長いときを過ごせば自然に情も絆を生まれてくる。

 家族よりも大切な仲間だ。


 それなのに、得体も知れない命じられただけの云わばなどを仲間の命をも引き換えにしてまで守る必要があるのか。


 そんな考えが過ぎり、頭を横に振るう。


「……こんなこと一瞬でも考えるなんて、また半人前の未熟者だって言われちゃいそうだよ。

先方の命令オーダーはこの子を必ず守ること。

それが彼らを従える為の絶対的な条件であり、約束であり、枷である。

なんて前に難しいこと言われたけど、純粋に小鳥くんと雨くんのこと少しは好意持ってるから命令でなくても守らなくちゃいけないよね。

それに、優しいお姉ちゃんと思ってくれたこの子を幻滅させちゃうからね……」


 溜息をつき、抱きかかえた夕凪をもう一度胸に抱きなおした。


「あの二人が戻ってくる前にこの子をなるべく安全な場所に。

こんな傷じゃ、大した戦力にはならないかもしれないけれど、あの子の傷も一緒にちゃんと引き受けて最後は笑ってお別れしたいな……チガネちゃん」


 大切な少女の名を呟くと、ジワリと涙が出てしまう。

 顔の火傷に涙が染み、少しピリと痛んだ。


「っ、」


 進む方向から嫌な殺気がし、立ち止まった。

 すると廊下の曲がり角から、長身の祭服を着た青年が姿を現した。

 貼り付いたような不気味な笑顔に、まだ出来たばかりの生傷からは血が地面に垂れている。

 一番酷い傷は口の中の内部が見えるくらい裂かれた口元だ。

 そこから息が漏れているが、青年は痛みなど感じてないかの様に口を開いた。



「はじめましぃ~

顔に包帯グルグル巻いてて、もしかしてニアちゃんに焼かれてもたの?

痛そうだなぁー可哀想に。

その大切そうに抱いてる子もどこか怪我してんの?

大丈夫?

それとももう死んどるのかな?

まさか、死体なんて必死で大切に抱きかかえとる訳ないか……

そうや、そうや。

僕、道迷ってしもてぇ~……親切そうな人に道聞いてるのにすぐ襲ってきて困ってて。

君さ、世釋様見かけてへん?

背はこのくらいで、赤髪の整うてる顔しとんやけど。

あれは、美形っていうのかな?

なぁ、君、知らん?」

「……っ、貴方も彼らの仲間だよねぇ?

きっと。

世釋……って確かあのとき行方不明になってる男の子のはずだよぅ?

貴方らは世釋っていう子に指揮してる人?

指揮されてる人?

どちらなのかなぁ?

教えてくれたら、嬉しいなぁ」


 青年はキョトンとした顔をすると、こちらに進む足を止めた。

 そしてにっこりと不気味にまた笑った。


「君がその情報について聞き出したい気持ち分かるで。

そこから僕らの目的とか自然に聞きやすくなるし、どうやって僕を避けて逃げるかとか考える時間できるもんね。

僕らが来たの突然やったもんね、驚いちゃったよね!

せやけど僕からは教えてあげないよー

世釋様に口止めされてるからねー……なんて、あれれ?

実質的に答え教えちゃったかもしれんね僕。

阿保やわ。

僕、うっかりしてもぉた!

あ、君のお得意の鎖鎌は今日は持ってへんのやね?

それはそっか、抱えたままじゃ戦えへんもんね。

それなら僕が一旦抱えてる子預かるよ~」


 青年は両手を広げる仕草をした後「なーんてな。君もそこまでお馬鹿さんやないよね」と笑った。


 世釋。その少年はエリーゼ・クロフォード、カイン・クロフォード両吸血鬼が消息が分からなくなったあの日から行方が分からなくなっていた少年だった。

 まさかノアの箱舟をカイン・クロフォードではなくその少年が襲撃してくるとは予想していなかった。

 吸血鬼達が作りだしたリビングデッドの討伐も今では彼ら二人とチガネが主に駆り出されている。

 他のノアの箱舟の関係者、自分の様に余った退魔師はこの様にいざという時に残っているはずなのに対応が遅かった。

 だから此処まで危害が大きくなってしまっているのは事実なのだが、今はそんなこと反省していても仕方がない。

 先程の指揮棒を使う女性、今、目の前にいる青年。

 その世釋という少年の他に何人此処に襲撃しに来ているのかも把握できない。

 先に進むにはこの青年と戦わなくてはいけないのは解っているが、指摘されたように今は眠っている夕凪を抱えたまま戦えず、そして今は分からないが彼らの目的がもし夕凪本人なのなら、この子をやはり隠さなくてはいけない。

 せめて、もう一人この場に居てくれれば……そう思ったと同時に青年の腹が黒い尾によって貫かれた。

 青年は大量に血を吐く。


「!?」

「あぁ、申し訳ございません強欲。

少しお話が長く感じてしまい、尾が勝手に動いて貫いてしまいました」


 青年の後ろからアオザイの青年が顔を出した。

 青年の背から伸びる尾は貫いている青年を空中に持ち上げた。

 貫かれた箇所から内臓が飛び出し、プラプラと動く。


「いきなり酷いわぁ、アイヴスくーん。

それにしても久しぶりやね、もしかしてビッチ女が瀕死になっちゃった感じ?

毎回毎回大変やねー、君らも」

「強欲ももう少しイヴに優しくしてあげて下されば嬉しい限りですが……

まぁ、強欲の自由ですし、ワタクシにはどうしようもないことでしょうからとやかく言いませんが」

「辛辣やね」

「そうですか?」


 アオザイの青年は首を傾げる。

 アイヴスという青年も此処ノアの箱舟に攻めてきた世釋側の人物。

 仲間割れなのか分からないが、今の状況なら逃げることができるであろう。

 彼らがこちらに意識を向けていない内にゆっくりと後退し、気づかれぬようその場を離れた。


「あ、しらん間にいなくなっとる。

もー、君のせいやからねぇ」


 腹を貫かれている青年は口を尖らせると、そう呟いた。

 その青年の発言にアイヴスは目を細めた。


「そう言いながらも余裕そうですね、強欲」

「ん?

まぁ、別に重要な用ではないし、それに戦えへん状態の子をいたぶる程いけずな趣味僕してへんからね」


 青年は呑気そうに受け答えしていた。

 そして遠く距離が離れた彼女らを見て不気味に笑った。



◇◇◇◇◇◇◇◇




 郁は只、その光景を観ることしか出来なかった。

 触れたくてもすり抜けていくのだ。

 しかし、過去の人物達には触れられないが、瓦礫を多少動かすことが出来ることが判った。

 エリーゼは、多少位置が変わっていたりしても過去に差ほど影響がない物なら触れられる可能性はあったのかもしれないね、と言った。

 郁は息を引き取った人の側に近付いては手を合わせる。

 エリーゼは郁のその行動にも嫌な顔一つせず、見守っていた。


「すいません……俺の行動は只の自己満でこの人たちにとって偽善で綺麗事なのは分かってるんです。

けど、過去このときその場に決して俺はいなかったとしても今はこの場に居るのなら彼らを看取ってあげたい……」

「……君が言うように結局は綺麗事だろうね。

でも君のそういう相手を思い、弔おうと思える気持ちは大切だよ。

それが欠けている人間も多く知ってる……いや、麻痺してそういう感情を無くしてしまったと言った方が正しいかもしれないね。

何に対してもね、誰もが完璧なんかじゃない。

欠けていてもそれが悪じゃない。

だけど欠けているのを他人のせいにする者は醜い。

他人に指摘され、他人に当たるしか能のない者はもっと醜い。

だから、君の綺麗事も自己満も別に他人に謝ることなんてない」

「……」


 郁は立ち上がると、前を見据えた。

 郁の前には包帯を巻かれた少女が全身の力を使って扉を開けている。


「彼女が抱えてるのは夕凪ちゃんですか……?

それにしたって……あの大きさは小さすぎる。

シキ・ヴァイスハイトは子供と言いましたが、俺には何かの紅い蛹にしか見えない」


 彼女が抱える布から見えたのは人間ではなく、腕に抱えられる大きさのまるで蝶の蛹の様に覆われた何かだった。


「……君の質問に答えるとあれは夕凪だ。

私達は身体を移し替えた後に、あの様に入れ替えた側の身体が一度状態になる。

完全変態状況の場合、長くて六十年はあのままだ。

その間は外部の情報も遮断される。

だから本来外敵からその蛹を守る為に安全な場所で作らなくてはいけない。

夕凪は移し替えても移し替えられてもいない。

個で自らその状態になった。

そこから羽化すれば完全な純血の吸血鬼の適応した身体になる」

「……六十年。

でも人が身に着けてる衣服や建物の感じではそこまで昔のように感じないのはどうしてですか……?

……アルカラの襲来で何かアクシデントが起こったとか?」

「君は冴えてるね。

むしろ想像力と発想がとても良いんだね。

そうだよ、羽化の時期がズレた。

まだ未熟なままあの蛹から孵ってしまった。

君もそれで思い当たることがあるんじゃないかい?」


 ――棺桶から目覚めた時からこの姿だったから実際の年齢は分からないけど、多分アンタよりは年上よ。多分


 ――アルカラには私の兄貴がいる


 ――ユヅルは創設時からいるメンバーだからな……昔からあんな感じよ。あの人は


 ――ラヴィさんの事、知らなかった


 ――……私の知らない事実があるかもしれないと思ったから……目覚める前の記憶がないの


 ――世釋が兄だということもラヴィさんから聞いただけで、自分自身だと自覚がない


 郁の表情を見て、エリーゼは目を細め、微笑んだ。


「どうして夕凪の記憶が欠けたていたのかその原因は彼女の開いた扉の先にあるよ」


 扉は大きな音を立てながら、少しずつ開いていった。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 扉の先は地獄絵図の様だったと、今もそう思う。

 壁や床は血に染まり、欠けた臓器の肉片が至る所に落ちている。

 天井からぶら下がる多くの人間。

 腕をクロスされ、標本の様に壁にはりつけにされている人間。

 ぶら下がる重力を無くした足がユラユラと揺れていた。


「……はっ、はっ……ッ?!」


 部屋の奥には黒く澱んだ生気を失った瞳をした女性の首筋に牙をたて、血を啜る赤髪の綺麗な少年がいた。

 少年は首筋から口を離すと、目を細め、ニコリと笑った。


 本能的に逃げろと体中が叫んでいた。

 けれでもその瞳に認識された今、もう動けない。

 動いた瞬間に私は天井にぶら下げられるのか、それとも磔にされるのか。

 それとも、もっと残虐なことだろうか。

 そんな考えに頭が埋め尽くされる。


「うん。

包帯で顔が隠れているけどその歪んだ顔はなんとなーく読み取れるよ。

その火傷はニアの仕業かな……?

でも、少し治癒してきているみたいだね……それは君のその特殊な身体のせいかい?」

「……」

「声も発せられない程、恐怖に蝕まれてるのかな…?

大丈夫だよ、今僕は君の血も吸わないし、首を折らない、磔ない。

どう? 少しは喋ること出来そうになったかな?」


 後退りすると、その反動で包んでいた布がスルリと床に落ちた。

 少年は布に包まれていたモノを見ると、目を驚いた様に見開き、すぐに歓喜したような表情をした。


「それは……エリーゼから産まれた個体だろう……!

そうか……産まれていたのか。

そう、まさか出会ってしまうなんて。

さぁ、それを僕に渡して?

そうしたら君だけは苦しまない様に手にかける努力をするよ」


 少年は既に目の前におり、笑顔で手を伸ばしていた。


 抗えない。怖い。この少年は何?

 この子を渡しても渡さなくても殺されてしまうんだ。

 頭に浮かんできたのは、あの子の顔だった。


 


「チガネ!!」


 後ろからそう声がすると、勢い良く後ろに引っ張られた。

 そして目の前の少年に向かって仲間達が数人向かっていく。

 皆ボロボロになりながらも、少年の方へ突進していく。


「その子ちゃんと抱えてるみたいね。ちゃんと、守って偉かったわね」

「…あ、」


 少女は歯車の髪留めを取ると、目の前に差しだした。

 片方の手には長年使い古した自分の鎖鎌を少女は持っていた。


「アナタはそのままその子抱えて逃げて。

そろそろ彼らも来るはずだから。

あの少年の相手は私らに任せて」

「…だ、駄目。やだっ、よ!

皆で逃げ……ようよ?

違……っ、逃げられないよ……皆死んじゃう……!

それに……これ!

この歯車……受け取れなっ……い……!」


 先程の恐怖で滑舌がままならないが必死に少女の服の裾を強く掴むと、首をブンブンと勢いよく振る。

 服を掴まれている少女は振り向き、大きく溜息をついた。

 そして泣きじゃくる少女の頬に両手を優しく押し付けた。


「最後くらいしゃんとしてください!

いつもの元気いっぱいそうなアナタらしくもない……!」

「違う……ぅ、違う!

貴女が、生きてて欲しい……っ!

私は……貴女にチガネとして生きて欲しいから名をあげたの……っ!!

あの忌々しいも私が背負うって……あのとき決めたの!

なのに……やだよ、死なないで……っ、私の知らないどこかに行かないでぇ……」


 少女の顔には包帯で顔を巻かれた少女と同じ箇所に火傷跡が少しずつ出現していく。

 まるで、片方が受けた傷がもう片方に移っていく様だった。


「……運命に抗おうとアナタが私に言ってくれたとき、嬉しかったです。

名前の無い、只の複製物当然の私に色んなモノを与えてくれたこと、そのせいでアナタが名前を無くしてしまったのに、ずっとずっと、私の事ばかり……馬鹿みたい。

返します、アナタにチガネと言う名を。

また元通りの13に戻る……ありがとう、チガネ。

強く生きてください」


 少女は眉を下げ、チガネに笑顔を向ける。

 そして鎖鎌の鎖を回し、こくりと頷いた。


「この鎖鎌、初めて持ちましたが身体にしっかりきますよ。

ずっと前から使用していたようです。

……チガネ、私達二人であのとき交わした約束、独りになるけど叶えてくださいね」


 少女はそういうと、少年が居る部屋の中に入り、扉を固く閉じた。

取り残された少女は落ちていたガラスの破片を手に取ると、蛹に突き刺した。


「……ぐっ、なんでこのタイミングだったの?!

起きてよ…覆す力は貴女にならあるんじゃないの?

ねぇ、起きてよ……手伝うから……起きてよ。

救ってよ……お願い」


 蛹からはドロリとした血の塊が流れたが、すぐに止まった。

 そして刺された箇所が修復する様に直っていった。

 少女は涙を乱暴に拭うと、扉に背を向け、駆けだした。

 途中息を切らし、ノアの箱舟に戻って来たであろうラヴィとすれ違った。

 その後に雨宮も向かってきており、雨宮は少女の前で立ち止まった。


「……お前、それ……夕凪か?」


 少女は何も発することなく、雨宮に夕凪を託すと、ノアの箱舟から姿を消した。




 後日戻って来た少女は伸ばしていた髪を短くしており、歯車の髪留めをしていた。

 包帯が取れた顔は以前の少女の顔ではなく、チガネと名乗っていた少女の顔になっていた。

 口調も仕草も以前の少女とは違い、ラヴィや雨宮のことに対しても敬語で接する様になった。



◇◇◇◇◇◇◇◇



「監視役なのは変わりない。

あのチガネという少女は変わらず命令に従い、夕凪やラヴィ達を監視している。

けれど、それはノアの箱舟の上の人間を欺いて、監視するフリをしているだけだ。

あの少女はあのとき夕凪に危害をくわえた。

それをあの少女自身も今も悔やんでいるだろう、だから昔の様に夕凪に接することを避けている。

真面目だなぁ、気に病むことなどないのに」


 エリーゼはそう言うと、ふぅと一息ついた。


「……チガネさんが蛹を傷つけたから記憶が欠落する原因になったってことですか?」

「いいや、外傷が原因じゃない。

羽化する前に感じ取ってしまったあの少女の感情を夕凪が受け取ってしまったからだ。

内傷だな」

「……」

「でもそれだけが原因じゃない。

これが起こったのは彼らがノアの箱舟を初めて攻撃してきた一回目の出来事だ。

もう一度彼らはノアの箱舟を攻撃してきた」

「……もう一つの支部の壊滅。

でも、そんな簡単に何故ノアの箱舟の場所が割り出せたんですか?

信じたくないですけど……ノアの箱舟内部にアルカラに情報を渡した人がいたとかですか……?」


 エリーゼはフッと笑う。


「ワンコくん。

勘が良いな、とは言いたいけれどその予想は外れだよ。

君はラヴィ達は信じてるけど、ノアの箱舟に対しての疑心が強くなってきているね。

そういう黒い部分が君に有ると再確認出来て良かったよ。

この四年後あのとき彼ら達によって殺害された退魔師達を従えて、二回目のノアの箱舟に対しての襲撃が行われた」


 郁はエリーゼの言葉ですぐにアルカラに居る色欲の悪魔を思い浮かべた。


「色欲の悪魔イヴの能力で死体を従わせたってことですか」

「リビングデッドにするという手もあったが、彼女の能力の方が数が確保できると世釋カイン・クロフォードが判断したんだろうね。

彼女はいわばネクロマンサーみたいなものだろう、しかし作りだした骸の身体は脆くてすぐに倒せただろうが、ノアの箱舟に居る面々は元々の仲間をもう一度殺すのは辛かっただろね」

「……っ、そうですね」

「その襲撃時に蛹から孵る様に夕凪が目覚めた」


 郁達の目の前に広がる風景にノイズが混じり始め、足元もグラグラと揺れだした。

 すると、郁の耳元で微かに声がした。


「……か、おる」


 郁はその声の主が夕凪だと分かった。

 エリーゼも気づいたようで、郁に向かって頷いた。


「夕凪の魂までの距離が近づいてきたみたいだ、ワンコくん」

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