第29話【堕ちて這い上がって、さようならに敬意を添えて】
瞳が好きだ。
特に幼い子供の瞳が好きだ。
無垢で純粋で、まだナニモノにも染められていない、あの瞳が好きなのだ。
それが
知りたい。
触れてみたい。
願わくば自身の手でソレを完成させてみたい。
「淋しいお人」
そう言うと、ポタリポタリと涙を流した。
何故、そう涙を流すのかが私には理解できなかった。
異常者を見る眼差しや怯えた瞳をすると思っていたのに、静かに愁うように涙を流すだけだった。
「これからもずっと貴方は自らの欲を満たして、けれど渇いていく一方なんでしょうね」
あぁ、涙を流し続けるソレは、何を言っているのか考えているのか。
伝えたいのか。
理解ができない。
自身を誰かに理解してもらわなくても構わない。
しかし誰かを自身が理解できないのも何て気持ちが悪いものか……
そうだ、ソレをまた同じように呑み込んでしまえば、ソレは溶けて融合して、自らの糧にすれば解かるのではないだろうか。
自分の事の様に私へ涙を流す、
「 ×××× 」
◇◇◇◇◇◇
「君らさ、どうして堕ちてこないのかな?
堕ちたら楽になるのに……どうしてまだ抗う気力が生まれるのか。
君ら馬鹿やないから理解しとるよね。
今の状態で僕には敵んって本能が警告出しとるやろ?」
シキは笑顔に戻ると、リリィ達を指差した。
すでにシキの周りには先ほどよりも多い氷柱がリリィ達の方に向いている。
「正直、俺は手負い状態で足手まといになるかもしれないな。
けど……」
東雲はそう言うと、リリィはブルブルと首を振った。
「一人じゃ低い勝率でも二人なら少しは上がるでしょう?
そうだよね真緒ちゃん」
「ちょっと不安ではあるけど……アイツ倒して郁さん達に合流しないといけないから。
リリィ、もう大丈夫なんだよね?」
リリィは瞼を閉じた。
そして一息つくと、ゆっくりと長い睫毛を揺らしながら開いた。
「さっきの言葉で十分。
ちゃんと向き合うって決めたから……大丈夫だよ」
「はぁ、本当嫌な子らやわ。
それなら這い上がれやへんように徹底的に堕とすまでや」
シキは弾くように人差し指を動かすと、猛スピードで氷の柱に穴が空く程の威力で
冷気が蒸発したように煙が上がると、そこから東雲に掴まれたリリィが姿を現した。
「あら、可愛らしい。
鷹に捕獲された小動物みたいやわ~リリィ」
シキはリリィのその姿を見て、顔に喜色を浮かべた。
「鋭い牙も爪も持った獣を小動物に見えるなんて、本当に頭イカレてるわね!」
東雲はリリィをシキの方に投げると、リリィは鋭い爪をシキにむける。
「リリィ。
僕を仕留めるのに勢いだけで突進してきても、意味ないと思うけどなぁ」
シキは口笛を吹くように、冷気をリリィに向かって吐いた。
リリィの爪から二の腕辺りまで一瞬にして凍てつくが、怯むことなくシキの頬に打撃を当て、シキは壁にまで吹っ飛んだ。
シキの吐いた冷気の霧が晴れていくと、狼の大きな耳とふさふさなシッポはそのままで人間の姿に戻ったリリィが現れる。
リリィは地面に着地すると、ニッと笑った。
「私、馬鹿だから、考えて動くこと苦手なの。
だから爪が届かなかったら拳を振るう。
それだけよ!」
「それでもちょっとは考えてくれよ。
勢いよく飛ばしてって言うから飛ばしたけど……ヒヤヒヤする」
リリィは両手の平を合わせると、目をしわくちゃにし、東雲の方に顔を向けた。
「ごめん、真緒ちゃん」
東雲はリリィの真上で翼をバサバサと大きく羽ばたかせながら、溜息をついた。
「ははっ、君ら連携ピッタリやね。
壁に飛ばされたと思うたら大量の羽根飛んでくるんや
もん。
避け切れんで左腕めっちゃ刺さっとるし、痛いし……
これラヴィ・アンダーグレイから前に受けた矢に似てるね。
腕の感覚完全に麻痺しとるわー……」
シキは東雲が放った黒い羽根を刺さっていない右手で引っこ抜くが、だらんと力なく左腕は項垂れるとピクリとも動かない。
「麻痺?
違うよ、もう左腕は壊死してる。
もう一生使えない」
「……へぇ、真緒くんの翼凄いわぁ……やけど、甘いなぁ」
シキは自身の左腕を勢いよく引き千切ると、ポイっと床に投げ捨てた。
そしてダラダラと血が滴る傷口に触れる。
手をスライドさせる動きをすると、氷の腕ができる。
「僕は別に自身の体に躊躇せぇへんよ。
こうやれば元通り、壊されたらまた作り出したらええからね」
シキは肩を竦める仕草をすると目を細め、ニタリと不気味に笑った。
東雲は深く舌打ちすると、シキを睨みつけた。
「……だろうなとは思ってたよ。
でもアンタがそうやって簡単に捨てるのを見ると胸糞悪いわ……」
「それにしても呼吸器官辺りとかに攻撃向けて来んかったよね?
そうすればすぐに僕のこと止めさせたかもしれへんのに……もしかして今の姿やからかなぁ?
君ら本当ユキノくんのこと好きやったんやね。
こうやってユキノくんの体から血を拭き出したりするの……辛いの?」
シキは自身の耳を引きちぎるように力を加えようとするが、リリィはそれを止めようと突進するように向かっていく。
シキはリリィの悲しそうな苦しく歪む表情を横目に見て、嬉しそうに口角をあげた。
シキは耳から手を離してリリィ達から距離を取った。
「これはやっぱりリリィの方が特にしんどいみたいやね。
それなら君らに攻撃せんとこの体を傷つけるようにすれば、精神的に攻撃できるかなぁーなんて、もしかして僕ええ事考えちゃったね」
リリィは唇を噛む。
その表情を見てシキは再度嬉しそうに笑った。
「さっき倒すとか可愛らしく啖呵切ってたけど、やっぱり本音は辛いかな?
だって見た目も攻撃スタイルもユキノくんやもんね……今の僕は」
「そうだね。
けど、君は僕じゃない。
只の真似事に過ぎない」
「……は?」
唐突に耳にそう言葉が聞こえると、シキは首を傾げた。
シキは首を傾げたつもりでいたが傾げておらず、胸の方に強い痛みを感じ、視線を痛みの方に向ける。
「氷の造形するのも荒い。
自身の出した冷気を身体で処理出来てない。
脆い、肺もボロボロ……全然駄目。
身体のパーツが揃えば、使えるとでも思ったの?
雪女の血縁者でもない奴が扱えるわけないじゃないか」
刃物の様に氷柱が心臓に突き刺さっており、しっかりとシキ自身の両手が添えられている。
引き抜こうと力を加えるが、反抗するかのように氷柱はそれを阻止する。
氷柱は少しずつ奥へ奥へと埋め込まれていく。
「どういう事や?」
突然のことにシキは困惑した表情をする。
「どういう事かなんて、分かっているだろうに」
ぞわりと冷気の膜が身体中に纏わりつくような感覚が静かに襲いかかってくる。
シキの額からポタリと水滴が肌をつたい、床に落ちる。
「……まさか、」
「もし、こうなってしまったら、と。
ずっとその為に僕は、用意してきたんだ」
「……ははっ、まさか君ずっと息を潜めてたんか?
シキは笑いながら、膝を地面に着いた。
しかし立ち上がろうと、震えながら足を片方立てる。
「ずっと見ていることしかできなかった。
けれど、リリィと真緒なら大丈夫だって信じていたから……」
「……ユキ兄?」
東雲の声にリリィも驚きで目を見開く。
顔を上げたシキは優しそうな瞳でリリィと東雲を見ると、悲しそうにほほ笑んだ。
「リリィ、髪伸ばしたんだね。
やっぱり思っていた通り
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