第21話【罪】

 不気味な紅い月の夜、ある夫婦の間に新しい命が誕生しようとしていました。


 「ぐぅぅっ……!!」


 陣痛が始まり、納屋に入ってから一刻が過ぎようとしていた。

  女性は痛みを逃すために天井からつるされた産綱に掴まった。

 

「あぁ、逆子だねぇ。もう少しだから、頑張りぃ」


 産婆は額に汗が滲み、瞳が潤む女性をそう励ました。

 女性は歯を食いしばり、最後の力を振り絞ると、納屋中に赤子の高い泣き声が響く。


「私と磯吉殿の子……顔を見せておくれ」


 女性は産婆にそう言うが、産婆は一言も発さず口を噤んでいた。

 難産の末、産婆が母体から取り上げた赤子はが生えていた。



◇◇◇◇◇◇◇




「おーい、七瀬来たぜ」

「八百……私の大福よ。それ」


 八百は七瀬の前に供えられていた大福を頬張るとドカッと七瀬の前に座った。


「今回はどのようなご理由でこちらにいらっしゃるんですか?

「その呼び方やめてよ。

……今回は予言で村に災いが起きるだろうって出たのよ」


 七瀬の姿を見た村人は特別な力を持った子供だろうと産まれた七瀬を神格化し崇拝した。

 病が流行り始めた。村に雨が降らない。豊作が乏しい。洪水に悩んでいる。

 七瀬はそのたびに山の上に建てられたお堂に連れて来られていた。

 そして物事が解決されれば、村人は七瀬を迎えに来ると、村に戻されるが、それまでこの場に閉じ込められていた。


「うわー、今回は長くなりそうだね。

どんな災いかも分からないのに」


 八百はやれやれと首を振った。

 七瀬はこくりと頷くと、膝に置いていた右手の拳を鎖骨辺りまで上げると、ニッと八百に笑顔を向ける。


「今回で村の皆が気づいてくれたらいいんだけどね。

私には災いを抑える力はないって!」

「年々ポジティブになっていくな。

昔なんて早く帰りたいよ~って泣きべそかいてたのに」


 八百は泣く真似をすると、七瀬は頬を膨らませた。


「何年経ってると思ってるの?

もう泣いたりなんかしないようだー!

それより八百、今日はどんな話を聞かせてくれるの?」


 キラキラと目を輝かせ、七瀬は八百を見る。


「あ、そういえば最近違う村に行ったときにさ、変な噂を聞いたんだ」

「変な噂?」


 七瀬は首を傾げた。


「俺も食い物をこっそり頂戴してる最中だったから少ししか聞いてなかったんだけどさ、人が獣じゃない何かに襲われたんだって。

見つかった死体に人が齧ったみたいな歯形があったらしいよ」


 八百は七瀬に話をしながら、自身が持っていた包み袋から果物を取り出すと七瀬にも渡した。


「へー、本当に? だって少ししか聞いてなかったんでしょう?

なら聞き間違えたかもしれないじゃない。

この桃は盗んだもの?」

「それはここの山で実ってたもの。

熟してて腐る前にと思って摘んできた」


 七瀬はそれを聞くと、桃を一口齧った。


「……ふーん、人が人を喰ってるとでもいうの?」

「俺もそう思ったけどさ、もしかしたら本当に人食いがここら辺をうろうろしてたりしたらって考えると面白くない?」

「馬鹿らしい……そんなの怖いだけよ。

その村は近くの村なの?」


 八百は桃を食べ終わり、指に付いた果汁を舐めると、首を横に振った。


「いや、七瀬の村よりは遠いところ」

「じゃあ、心配ないわね」


 八百は立ちあがり、一度背伸びする。

 そして七瀬が閉じ込められているお堂にかけられている錠を引いた。

 お堂の扉は簡単に開き、七瀬は八百を見上げた。


「鍵も開錠してあげてるのに、ここから出ようとしないんだね。

どうせ村に戻っても閉じ込められてるのにこんな時くらい外に出たいと思わないもんかね」

「いいの。

私は此処にいないと村の皆が大騒ぎになっちゃうでしょう。

それに八百が外の世界の話をしてくれるから全然平気」

「……」


 八百は口を噤むと俯いた。



◇◇◇◇◇◇




「っくそが!!」


 ニアはユヅルのドール達に苦戦していた。


「くくくっ、まだ力が完全には回復してないようじゃのう。

それともあのぬいぐるみがないとまともに力が発揮できないのか?」


 マリアはニアと同様宙に浮かび、大きい欠伸をしていた。

 ニアはチッと舌打ちをする。

 向かってくるドール達にニアは指揮棒を振りかざす。


「第二楽章幻想交響曲 茨姫いばらひめ


 ニアは指揮棒を振るうと、ニアの後ろから大量の茨が現れ、トンファーを持つドールに巻き付く。


「第四楽章幻想交響曲 はいかぶりひめ


 サバイバルナイフを持った少年のドールの前に美しい白いドレスと金銀の靴を履いた女性が現れる。

 女性は倒れ込むように少年のドールに抱き着くと、みるみる内にドールが焼け焦げていく。

 ニアは自身の胸のあたりの服を強く握るとはぁはぁと荒く息を吐く。

 マリアはパチパチと拍手をすると、ニアはマリアを睨み、指揮棒を向けた。


「……次はお前の番だよ。暴食の悪魔マリアぁぁぁっ!!」

「くくっ、その体がいつまでもつか見ものじゃのう? ニア殿」


「第五楽章幻想交響曲っ!! ねむひめ


 ニアの後ろにパイブオルガンと目を閉じた長身の女性が現れる。

 女性は目をゆっくりと開けると、美しい音色に合わせて歌い出そうと息を吸う。


「それを待ってた」


 そう声がすると、藍を抱えたユヅルが女性の目の前に現れる。


「っは?」


 ニアは気の抜けた様な声を出し、振り向くと同時に藍の中から鍵盤が現れる。

 ユヅルはそれに触れる。


「やめろ!! それにっ!!!」

「儂を無視しないでほしいのぅ、ニア殿」


 ニアの左足にマリアが出したガラスのフォークが刺さると、ニアは振り向いた反動でそこから力が抜けたようにバランスを崩す。

 フォークはマリアの方に戻ると、マリアはニアから取った魔力をフォークでくるくると回し掬いとると口に含む。


「嫉妬と怒りの味がするのぅ……辛い辛い」


 マリアはヒィヒィと言いながら下を出す。

 ニアは藍に手を伸ばすが、間に見えない壁が張られてしまった。

 

「第五楽章幻想交響曲 ねむひめ

先ほどあやつらを夢に誘ったときはすでにこの部屋自体に能力を使っていたからすぐに能力を発動することができた。

個人に能力を使った場合その者の夢の中に入ることが出来るのではないかと主様が考えたらしいが成功したようじゃのう」

 

 マリアは目を細め、ニアを見ると、微笑んだ。


「……」

「お主もそろそろ本性を現した方がいいんじゃないかのう。

この子どもを使い続けても儂に傷一つも付けられんぞ? 


 獏のぬいぐるみはふよふよとニアに近付くと大きな口を開け、呑みこんだ。

 獏は形を変えると、すらっとした燕尾服を身にまとった青年が現れる。

 青年は閉じていた瞼をゆっくりと開くと、マリアの方を見つめる。


「いつから気づいていたの?

あの子にはちゃんと僕っぽくふるまうようにしていたのに……」

「魔力の味じゃのう。

お主の魔力が微妙に違う魔力と混じっていた。

強欲の悪魔は融合だが、お主は昔から寄生を繰り返していたからのう」


 マリアは腕を組むと、頷いた。

 青年はふっと笑う。


「寄生ね、でも一応この体は今までと比べると気に入ってはいるよ」

「あの少女に執着していたようじゃが、その様子だと宿主の方のようじゃのう」

「そうだね。時が来たら次は彼女にしようかなって思ってはいるけどね。

その程度にしか思っていないよ。

それよりも一度暴食の悪魔のアナタと戦ってみたかったんだよね。

アナタもその姿のままじゃ全力出せないでしょう?」


 青年は指揮棒を出すと、マリアに向けた。

 先程のニアとは比べ物にならない程の魔力オーラを纏っている。

 しかし、マリアは鼻から息を吐くと、唇を尖らせる。


「……ふむ、それが残念なことにお主と戦うことができぬ。

すでに決着がついてしまったからのぅ……」

「は?」


 マリアの放ったフォークが青年の胸、腹、首の三か所に刺さっており、そこから青年の身体はボロボロと崩れていく。

 マリアは崩れた怠惰の悪魔青年の残骸に横たわるニアに近付く。


「お主も散々だったのうあの怠惰の悪魔に魅入られて……それじゃあ、お主の中の怠惰の悪魔もいただくとするかのぅ」


 マリアはフォークとナイフを取り出す。


「むしゃむしゃ……うむ、やはり子供は甘くて美味いな!!

主様もうまい事やっているといいが……」


 マリアは手を合わせると、満面な笑みを浮かべた。


「ご馳走さまでした」



◇◇◇◇◇◇




「あぁ、鬼姫様。

どうか我々をお守りください」


 女性はそう言い、年月によって皺の深くなった両手の平を重ねると、駕籠に乗せられ、山のお堂に運ばれる七瀬に手を合わせた。


「隣の村の村人が一晩のうちに何者かに惨殺されたらしい……」


 鍬を左肩に担いだ男は隣に居る男に耳打ちした。

 耳打ちされた男は野犬の仕業じゃなのか、と返答したが、男は顔を顰めた。


「物騒で夜もおちおち眠ることもできない……」

  

 赤子を着物で包み、後ろで背負った女性は顔を青ざめ、そう言った。


「きっと、鬼姫様がこの村を災いから救ってくれるわ……」


 血の気の引いた顔を浮かべる女性の肩を優しく叩いた女性も少し憂わし気な表情をしていた。


「……そう夫も村の数人も言うけれど、本当に大丈夫かしら。

だってあの子只の女の子じゃない……」

「やめておいた方がいいわよ。

私もこの村に嫁いできた身だからあの子にすごい力があるなんて信じてないけど、誰かに聞かれたらあの子の代わりに人柱になるわよ……」


 駕籠に揺られながら七瀬は村人の声に耳を傾けていた。

 すると一人の小さな女の子が七瀬に近づいてきた。


「ねぇねぇ、鬼のお姉ちゃんまたお山に行くの?」

「こら、咲こちらに来なさい!」


 母親らしき女性が焦りながら女の子の手を引き寄せると、七瀬の顔をちらりと見る。


「……申し訳ございません。

鬼姫様……どうか私どもをお守りください」

 

 七瀬は膝に置いた手を強く握ると、言葉を絞りだす様に口を開いた。


「……ねぇ、貴女、今いくつになったの?」


 七瀬は女の子に笑顔で問いかけると、女の子は嬉しそうに指を七本掲げた。


「そう、元気にこの年を迎えられたのね……」


 女性は驚いた顔をすると、ぺこりと頭を下げた。


「鬼のお姉ちゃん、ばいばいー」


 女の子は七瀬に手を振る。

 七瀬は女の子に小さく手を振り返すと、真っすぐに行く道の方向へ顔を向けた。

 お堂の錠がガチャンと音をたて閉まり、七瀬を運んできた村人は七瀬の前に多めに果物や饅頭を置くと山を下りていった。

 しばらくすると木陰に身を潜めていた八百が姿を現し、お堂に近づいた。


「……膝抱えて俯いてどうした? ……泣いてるの?」

「……私って皆と何が違うの?

特別なこと何もしてないのに。どうして誰も気づいてくれないの?」


 七瀬はポロポロと大粒の涙を流す。

 八百はお堂の錠を外すと、俯く七瀬の頬に触れた。


「七瀬……あのさ、俺とどこか遠くに一緒に逃げよう」


 八百の声を遮るように山中の鳥達が鳴き出す。

 異様なほどの鳴き声に七瀬達は耳を塞ぐ。


「……様子が変だ。

七瀬ここに居てくれ俺は様子見てくるから!」

「ちょっと、待って八百!!」


 八百は呼び止める七瀬の声に振り向かず山を下り出した。

 七瀬も八百を追うように駆け出す。

 八百に中々追いつくことが出来ず、やっと八百の姿を確認すると七瀬は息を切らしながら八百の衣服を掴んだ。


「……はぁ、はぁ……っ、八百待ってよ……早すぎる……っ?!」


 七瀬は顔をあげると、目の前に変わり果てた村の風景が広がる。

 悲鳴がそこら中から聞こえる。


「何これ……っお母さん!!!」


 駆け出そうとする七瀬の腕を八百が掴む。


「っ、待て七瀬。なんでお前来たんだよ!!」

「だって……村がっ、お母さんと咲……妹を探さなくちゃ……!!」

「行くな!」

 

 七瀬は八百に捕まれた腕を離してもらおうと、強く左右に振る。 

 八百は当惑の眉を顰めたが、決して振り払われない様に七瀬の腕を強く握った。


「いやっ!! 離して、八百!!」

「お前はこの村の人達に酷いことされてたじゃないか!

お前が行く必要なんかない!!」

「っ、離して……!」


 七瀬は眉を寄せ、目の端に涙を浮かべた。

 八百は咄嗟に掴んでいた手の力を緩めてしまい、七瀬は八百の手を振り払うと、村の方へ駆け出す。


「っくそ、」


 悲鳴が響き、そこら中の建物に火が上がっている。

 七瀬は周りを見回す。

 進むにつれ、黒煙が至る所に上っている。


「お母さん!!! 咲!!! っ、何処にいるのー!!」


 七瀬は村中を駆け巡り、喉が枯れる程叫ぶ。

 目の端にが身に着けていた様な着物が映り、七瀬は歩みを止めた。

 その着物を着た子の上に男が覆いかぶさっている。

 七瀬は近くに落ちていた木の棒を拾い上げると、そっと近づき木の棒を男の頭上におとした。

 

 木の棒は衝撃で折れてしまったが、十分な打撃を与えられた様で男は倒れた。  

 男を払いのけると七瀬は女の子を抱きかかえた。


「咲! ……っじゃない?

っうぇ……!!」


 七瀬は喉の辺りまで上がってきた胃液を吐き出さないように口を噤む。

 七瀬が咲だと思い、抱きかかえた女の子の顔は抉れており、人間の歯形がくっきりとついていた。


「七瀬!! 後ろ!!!」


 八百の声にハッとし、振り向くと先ほどの男が七瀬に襲いかかろうとしていた。

 男は異様なほどの赤黒い爪をしており、口からは大量の血が混じった涎を垂らしている。

 七瀬はまるで自分の瞳に映る光景がスローモーションのようにゆっくりと鮮明に見えたような気がした。

 目の端にキラリと何かが通りすぎると襲ってきた男の腕から血飛沫があがる。

 男の背後から大きな鎌を持った青年が立っており、鎌を一振りすると男の首がコロリと地面に落ち、砂の様に朽ち果てた。


「雨宮、子供の前で刃物をちらつかせるな。

怖がっているだろう」

「へいへい、やぁ嬢ちゃん怪我はない?」


 地べたに座っていた七瀬の目線まで腰をおろした青年は癖の多い天パに普段から整えているのか不快には思わないほどの無精髭をしており、微かに煙草の匂いした。


「……」

「……あー、ラヴィの言う通り怖がらせた? 俺」


 雨宮は困ったようにラヴィに視線を向けた。


「とりあえず安全な場所にいこう」


 ラヴィは七瀬が抱えていた少女の亡骸に自身の着ていた上着をそっと被せた。


「七瀬大丈夫か?」


 八百は七瀬に駆け寄ると、手を差し伸べた。

差し伸べられた手を取り七瀬は立ち上がる。


「っ、痛い」


 七瀬は足に痛みの感じ、痛みの先に視線を向ける。

 履いていた草履の鼻緒が切れており血が滲んでいた。

 ラヴィ達についていくと、村で一番大きい家を持っている村長むらおさの家に辿りついた。

 家の周りにはラヴィ達と同じような服装をした人が何人かいるのが、七瀬は確認できた。


「まだデッドがうろうろしている。

雨宮ともう一度村中を巡回してくる。

この子達も入れてあげてください」


 家の中に入ると、包帯を巻いて横になっている村人や、子供の泣き声が聞こえる。

 村人の一人が七瀬に気がつき、七瀬の両肩を掴むと項垂れた。


「あぁ、鬼姫様! 我らをお守りくださる為においでくださったのですね!」


 その声に他の村人の気づき、七瀬の方に頭を垂れる。


「鬼姫様……息子が息子が目を覚まさないのです!!

貴女様のお力を私が疑っていたからでしょうか?

申し訳ございません……どうかどうか救ってください!!」


 女性は頭部に包帯を巻き、ぐったりと項垂れている我が子を胸に抱いており、充血し、潤んだ瞳で七瀬に懇願する。


「鬼姫様が来られたからには人の姿をした物の怪も退散してくれよう!! 」

 

 男は村人達を活気つけようと、立ち上がり声をあげる。


「鬼姫様どうかこの村を救ってくださいませ」


 村人の異様なまでの七瀬に向けられた期待の眼差しに七瀬は後ずさりした。


「わ、私には……そんな力なんてないの。

どうして、誰も信じてくれないの? 気づいてくれないの……っ?!」

「鬼のお姉ちゃん」


 着物のたもとを引っ張られ、七瀬は視線を横に向けると、泣きじゃくる咲がいた。

 咲は鼻を啜る音を時々させながら、目を赤く腫らしていた。

 咲の柔らかそうな髪が額から頬に貼り付いている。


「おかあさんがね、言ってたの……鬼のお姉ちゃんが咲の事や村の皆のこと守ってくれるよって……鬼のお姉ちゃんは特別な力を持った子供だからって……ぅぐすっ、おかあさん物の怪に襲われてたの……っ、鬼のお姉ちゃんおかあさん助けてくれるよね?」

「っ、お前らいい加減にしろ! こいつは、七瀬は……っ!」


 八百は村人と七瀬に間に割って入るが、七瀬は俯くと、くすくすと笑い出した。


「七瀬?」

「そうだね……私は特別な力を持ってる。

只、その力を使おうとしてなかっただけであんな人食いの化物なんてきっと私の力で殺れる……!」


 七瀬は落ちていた鉈を手に取ると、外に出た。

 ラヴィと雨宮を追い越すと村人をむしゃむしゃと食べているデッドに向かって鉈を振りかざす。

 デッドの返り血がびしゃっと七瀬の顔にかかった。


「化物め、コッチに来い!!

私が……一人残らず殺してやるんだっ!!!」


 七瀬の声に気づき、遠くに居たデッド達も集まってくる。

 

七瀬の頭上でどんよりと雲が空を覆い、ゴロゴロと雷が鳴りだす。


「消えて……消えろ消えろ!! 全部消えてなくなれ!!」


 次の瞬間、七瀬を中心に雷電が集まり出し、七瀬の方に集まってきたデッド達に雷電が降りかかる。

デッドは全身真っ黒に焼け焦げると、次々にバタバタと倒れていった。


「……七瀬」


 ラヴィと雨宮は茫然と七瀬を見つめた。

 後から追ってきた八百が七瀬に声をかける。


 振り向いた七瀬の額には菊の模様と長く鋭い鬼の角があった。

 七瀬は雲に覆われた空を見上げ、ははっと笑う。


「私、人間じゃなくて、やっぱりだったんだね。

さっきね、雷が落ちてくるってわかったの。

きっと私、雷が操れるのかも……」


 ラヴィが七瀬に近付くとぎゅっと抱きしめた。


「君は……他の子と変わらないよ。

俺には只の泣き虫な女の子にしか見えないよ」


 七瀬は驚いた様に目を丸くした。

 そして震える声で、ラヴィに尋ねる。


「……ねぇ、お兄さん。

私の事、ここから連れ出して。

私、もうあの村に帰りたくないよ」


 ラヴィはこくりと頷くと、七瀬は眉を下げ、顔を皺だらけにしながら大粒の涙を流し、赤子の様な大きな声で泣き出した。


「……っ」


 八百は唇を噛み、拳を太股の辺りで強く握ると、ラヴィと七瀬をずっと眺めていた。


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