第8話 大型連休にBBQをすること確定!
「月末か……」
指導開始から、しばらく経った。週に四回授業というリズムができあがり、指導方針も固まってきた。
いまのところ、東雲姉妹には英語しか教えていない。それ以外には、手が回りそうになかったからだ。
高校では、小テストがそこそこの頻度で課されているらしい。文法や単語のような暗記事項において、東雲姉妹はかつての倍近い点数を叩き出している。
元々の点数が低かったので、点数の上がり幅はそう高くないかもしれないが。
本日は別に教える日ではない。平日だが、ほぼ休日だ。大学の講義が一限のみだったからな。朝起きるのは辛かったが、一日を有意義に過ごせそうだ。
授業を一緒に受ける級友は増えてきたが、まだ遊びにいくほどまでの関係には至っていない。サークルは入ったが、きょうは活動日ではない。
そう、つまり一限が終わったいま、滅茶苦茶フリータイムなのだ。
「授業準備でもしておくか……」
大学の課題について考えるより先に、東雲姉妹の指導について考えていた。家庭教師としては、いいことかもしれない。
苺によると、午前中に授業が終わるという。なので、このまま直帰すると苺が家にいるかいないか、くらいの時間になるだろう。
ピコン、とスマホの通知音が鳴る。
「噂をすれば影、ってか」
苺からのメッセージだ。
『じゅぎょおわー! そろそろ大型連休だし、予定決めちゃいたいな〜。東雲ちゃんたちも呼ぶから、できるだけ早く帰ってきてね!』
そうか、いよいよ大型連休か。
家族の予定を組むだろうに、なぜ東雲姉妹も呼ぶのか不明だな。後でわかることだ。気にしないでおこう。
「……ただいま〜」
「おかえり!」
「おかえりなさいませ、純矢先生」
「お兄さん先生、いらっしゃいました」
リビングから、三人の声が聞こえた。すでに三馬鹿トリオは帰宅していた。
「きょうは授業はお休みのはずだと思うんだけど」
「マブダチを家に呼ぶのって自然なことじゃない? 兄貴にとっては生徒かもしれないけど」
「ここ、居心地いい。毎日来てもいい」
「そりゃどうも」
「褒められてるのは兄貴じゃなくて家だから」
マブダチだったな、そういや。別におかしなことではないか。死語であるはずのマブダチという言葉を、現役女子高生が使っていることに比べたら。
「苺、大型連休の予定を決めるんだっけか?」
「うん。兄貴、そろそろ月末だし、会社なら給料日に相当する時期じゃん?」
「おう」
四月の給料が四月の末に出るようなもんじゃないよな、と思いつつ、うんうんと
「兄貴の月謝は、お金じゃなくて東雲ちゃんたちで支払うって話、覚えてる?」
「もちろん。なにせ、インパクトが強すぎたもんな」
「そこで、大型連休のうち一日を、四人のお出かけに充てたいなーって、思ったの」
「四人でお出かけ。なるほどな」
女子三人に対し、男ひとり。
「どこに行きたいんだ? ショッピングモールとか、ボウリングとか?」
「そんなのいつでも行ける。それにたぶんめっちゃ混む。私は反対」
「私も愛弓にさんせー。家族で行くとき、ただでさえ休日は混むもんね」
「うみゅにゅみゅ!」
東雲姉妹の中では、意見が一致したらしい。
「じゃあ兄貴、別の案はある?」
「そういう苺はノーアイデアなのか」
「質問を質問で返さない。うーん、でもそうね……」
考えるそぶりを見せる。
「たとえば、キャンプ場とか? レッツバーベキュー、河原に向かって石をシュート。大自然に囲まれて、マイナスイオンを感じてみない?」
「いいな。キャンプ場の回し者っぽいってのをスルーすれば」
「素晴らしい。決定。異論は?」
「李里花もさんせー! 楽しそう。いまからワクワクしてきた!」
最後にキャンプ場へ行ったのはいつだろうか。小さい頃、連休のときのことだったかな。家族で、大人数でワイワイやるのは楽しかったな。
「バーベキューするなら、食材費はどうする?」
「赤坂家全負担で確定」
「俺の月謝はマイナスかよ」
「愛弓、
「私のお金……食材に散る……」
苺が説得して、食材費は東雲姉妹負担となった。
「その分、量は期待しないでね。純矢先生?」
「安心してくれ。俺は少食家だ」
「痩せぎすのよわよわお兄さん先生だもんね」
「余計なことをいうんじゃない。課題を倍にするぞ」
「うげ、それは嫌」
久々に愛弓の失言が飛んできた気がするな。
「今回は九連休だものね。楽しみたい!」
「ん?」
今年のゴールデンウィークは五連休のはずだが。
「李里花、どういうことだ」
「二日くらい学校を休んでも、卒業できるでしょう?」
「そ、その手があったか! 学生時代にその禁忌は犯せなかったな……」
「兄貴、根
「まるで俺が真面目じゃないような口をきくな」
「違うの?」
「違うといってほしいものだよ」
なんともひどい妹である。
「仲がいいのね、赤坂
「そうでありたいものだね」
「現実は違うの、兄貴?」
「苺の行動次第だよ」
そんなこんなで、無事に大型連休の予定は確定したのだった。
大型連休前、初めての土曜日だ。実際にはまだ大型連休が始まっている時期ではないが、東雲姉妹にとってはスタートの日だ。参入してもいいだろう。
キャンプ場も決まった。俺の知っているところではなく、東雲姉妹イチオシのところだ。調べてみたところ、なんとも魅力的なところだった。
いままで姉妹そろって勉強を頑張ってきた。自画自賛だが、俺も指導を頑張ってきたつもりだ。
大型連休を活用して、おおいに羽を伸ばそうじゃないか。
考えれば考えるほど、俺も苺も東雲姉妹も、テンションが上がってくるというものだった。
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