2 謎 

 当然衝突するはずの二台の車が衝突しなかった。いや、それより、二台の車が何故か一台に擦り替わってしまったという私の目撃した事実は、そのとき味わったぞっとした感覚だけは強く記憶に残ったものの、翌日の昼までには、多分酒のせいだろうと私の中で合理化されていた。

 私は昼食時、前夜一緒に酒を飲んだ同僚のひとりにその話をした。

「光の加減ということもあるからな」

 と、その友人はこともなげに私に答えた。

「街灯もないような狭い道だったんだろう。……それに、二台の車が同じ速度で走ってきたとも限らない。一台は、お前がいったように、すいとお前の脇を擦り抜けて走り去り、もう一台は、たぶんその後で、はじめの車がやってきた方の道に曲がっていったんだろう。お前は気が動転していたんで、それに気がつかなかった。どうだい、これで辻褄が合わないか?」

「いや、おれは地面にへたり込んだその後で、二台の車がはじめに走って来た両方の道を見ている。もしも、おまえのいうように後から来た車がそんな風に曲がったんなら、少なくともおれはその車のテールランプを見ているはずだ。だが、おれにはその記憶はない」

「酒飲みの視野だとか記憶とかは当てにはならんよ」

 私を見て、片目を瞑りながら、

「昨日はどれくらい飲んだんだっけな?」

「ビールから初めて、三人でボトルを約二本。それでも、終電にはぎりぎり間に合うように帰ったんだから、確かに、いつもよりピッチは速かったかもしれんが……」

「つまり、ベロベロだったわけだ!」

「そうだな」

 つくづくと昨夜のことを思い返すと、私は答えた。

「それじゃ、おれは幻覚説を取ることにするよ。お前は車の幻を見たんだ! ……ちなみに、ピンクの象は見なかったかね?」

 冗談めかして、友人がいった。

「残念ながら、おれは、おまえと違って現実主義者なんだよ。酒に酔っても、この世にないものは見ない」

「面白みのない奴だな。……もっともおれにしたって、ピンクの象よりはピンクの太股のほうが好みだけどな」

 私たちは笑った。そして、その話はそこで打ち切りとなった。

 だが――

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