30話 勿忘草

ガクホの手術は無事終わり、小児科病棟に戻り

抗がん剤治療が始まった。


ガクホの手紙は、その辛さに負けそうになっている気持ちが素直に書かれていた。


リンコはそれを受け止めて、努めて美しい花や空の話、失敗話など日常を書くようにした。


病室の中では、

患者と看護師の立場を守る。

特別扱いはしない。

リンコとガクホの約束だった。


ある日、ガクホのカンファレンスがあった。

主治医からの説明から始まった。


化学療法も終了して、現在のところリンパ、多臓器への転移全く認められません。

今後は、リハビリや補装具の選定が専門の病院への転院を考えています。


看護師集団からは

良かったわー。

辛かったよね、副作用。

見てて泣きそうでしたー。

 

リンコは安堵と共に、寂しさを噛み締めていた。

この日が来る事はわかっていた。

転院の前の日、病院の裏にある患者さんの為の小さな庭であって話そう。

手紙じゃなくて、たましいを込めた言葉を伝えよう。


ガクホ宛にワッカから手紙が届く。

勿忘草のイラストが入った便箋と封筒。


紅子さん、転院の前の日、お昼ご飯の後に

噴水公園に来て下さい。

お待ちしています。   ワッカ。


ガクホも気持ちは同じだった。

これからの事をどうしたいか?

自分の気持ちを伝えたかったのだ。


ワッカさんへ。

必ず、行きます。

大切な話をしたいんです。

必ず、必ず行きます。待ってて下さい。

           紅子。


ふたりが会う時がやってきたようだ。


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