31話 はたち。

噴水公園でりんこベンチに腰掛けて、

舞い上がる水の球が光や影、木や花の色を浴びて虹のようなってるのを見つめていた。


リンコさーん。


脱毛した頭にバンダナを巻いて、器用に車椅子を操作して、まるで走ってるように

こちらへ向かってくるガクホを見つけた。


すごいわ。あの子、ここまで車椅子を自分のものにするなんて!

これなら、義足を付けたら杖無しで歩くのも夢じゃないわね。


ねぇ、リンコさん!どう?


すごいわよ!ここまで良くぞ、やりましたな!


へへへ。嬉しいなぁ。僕、褒められると伸びるタイプ。


何か飲もうか?

ガクホ君はジュースでいいわね。


リンコは自動販売機で自分にはコーヒー。

ガクホちはグレープの炭酸にした。


リンコさん!僕だってコーヒー飲めるのに?


いいじゃない。ふふふ。

そろそろ本題に入るわね。

ガクホ君、退院よね。

次はリハビリの始まりね。


うん。やってみようって思ってる。


そう。

ガクホ君、退院したらね、お互いの道を歩いて行こう。

確かに不思議なえにしだったけど、、。


えっ!もう、リンコさんとは二度と会えないって事?

手紙はいいの?


ううん。手紙も辞めましょう。

あのね、お互いの魂が求め合ってもね、

今、私達が生きてる世界のルールがあるでしょう?

私が君と付き合ってたら、ほら、未成年への

淫行ってのになっちゃうのね。


、、、。

なんで、そんなものに縛られるの?


それに、ガクホ君はまだ未熟。

これから、リハビリも勉強も、新しい友達も

色んな経験をしなきゃいけない。

私だってそうよ。

看護師として勉強したいもの。


そうなんだ、、。

でも、励ましてほしいんだ、僕。


いい?大人になって行くのには、誰かに頼ってばかりじゃいけないのよ。

私はね、自立した人が好きなの。


、、、。


ガクホはペットボトルを握りしめたまま沈黙していた。

決心したようにリンコに向かって言った。


わかった。僕、カッコいい大人になるよ。

だからね、20歳になった時には

会って欲しいんだ。

その時まで待ってて欲しいんだ。


えー?ガクホ君が二十歳。

私はー、31歳ーーっ。

うーん。きついわねぇ。

あははは。

わかった。じゃあ、その日まで暫くのお別れね。


うん。僕、リンコさんが好きな高倉健みたいになってるよ、きっと。


ほんと‼️そりぁ、惚れちゃうなぁ。


場所はここにしようよ。

僕の二十歳の誕生日。

今日の時間。


うん。わかった。

最後に握手しよう。


ふたりは手を合わせたけれど、前みたいな

不思議な事は起こらなかった。


翌日、ガクホは病棟のみんなに見送られて去っていった。


ワッカさん、紅子さんはもう大丈夫ですよ。

リンコは空を見上げて呟いた。






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