25話 結婚

紅子は自分で車椅子を扱える練習をして

ひとりで泉に行けるようになった。


石文で

ワッカさん、私は元気です。

と伝える。


すると次の時には

ベニ、ヒトリ、ココ、キタノカ

と返事が置いてあった。


それだけで紅子は生きる喜びを見つけていた。


しかし、やがて厳しい冬がやって来た。

雪が降りだすと、車椅子では泉には行けない。

紅子は部屋の中で過ごすようになっていった。


ある日、父が母と話している声が聞こえてきた。


ワッカ君の結婚式が明後日あるらしい。

最近はアイヌの人達とも交流しようと思ってね。お互いの文化を知ろうと言う授業を

提案したんだ。

それが上手く進んだんだよ。

この度、私にも式のご招待を頂いたんだ。


そうなんですか、、。

貴方、この事は紅子には秘密にしてくださいね。

もう、あの時の事を思い出すような話は

、、。


うむ、そうだな。

わかった。そうしよう。


父親はワッカと紅子が仲良くしていたのを知らなかった。

母親は厳格な性格な夫が許すと思えず

黙っていたのだった。


紅子が結婚式の事を知れば、ますます

生きる気力を無くしてしまうわ。


紅子は父と母のやり取りを聞いて、

心がザワザワした。

苦しくて、涙が流れた。

紅子は苦しいけれど、愛する人が幸せになるのを呪うような人間にはなりたくないと思った。

痩せ我慢をしても、ワッカが笑っているなら

それでいいと思った。


そうだ!明日、泉に行こう。

石文でおめでとうを伝えましょう。


紅子のこころは弾んだ。

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