24話 石文

こうして月日は過ぎていった。


ワッカの父はいった。


ワジンノオンナトアッテルナ?


ハイ。


ワッカ、オマエ二ハイイナズケガイル。

オマエ、ユキフレバ、ケッコンノギシキマッテル。ワカッテルナ。


ワジンノオンナダカラダメナンデスカ?


ワッカ、、。ヤハリソウカ。

ワッカ、オマエハ、コノムラノオサニナルノダ。

ワジンノチハダメ。

アノオンナハキムイカムイヲシナセタ、、。

ヤマノヌシ、、。

アウコトハユスサヌ。


ワッカは黙ったままだった。

わかっていた事だった。

あの山はアイヌの村人にとっては神聖な場所であり、キムイカムイは守神だったのだから。

そこへ、勝手に女性が入った事は

大事だった。許されない事なのだ。

ワッカの家は代々のムラオサの家系であり、

ワッカもやがて父の跡を継がなければならかった。

その姿を見て母親は言った。


ワッカ、ワカレヲシテオイデ。

フレノコトヲオモウナラ、ワッカ、ワルモノニナル。ソレモ、アイノカタチ。


ワッカはその晩眠れなかった。

そっと姿を消せばいいのではないか?

そうすれば月日がお互いの感情を過去の思い出にしてくれるのではないか?

いや、バニは、、。

きっと自分を待ち続けるのではないだろうか?

ベニに幸せになって欲しい。

ならば、、。

ワッカは決心した。


翌日、いつもの泉にふたりは佇んでいた。

ワッカは話し始めた。

自分には村に愛する女性がいて結婚すること。

彼女と一緒なり、ムラオサになるのが

夢なんだと照れながら話した。


紅子は驚いた。

悲しかった。いつの間にかワッカの事を愛するようになっていたから。

けれど、自分のような足が不自由な人間が

ムラオサになるワッカには相応しく無いと思った。


そう、ワッカさん、結婚なさるのね。

じゃあ、こうしてお会いしてるのは

お相手の女性にご迷惑ね。

今までありがとうございました。

あっ、でも、ここの泉にはきてもいいですか?


イイ。


ワッカさん、あのね、石文ってあるのよ。


イシフミ?


例えば、これ大きくてワッカさんみたい。


コノアカイイシ、ベニ。


じゃあ、これは、元気。

これは、楽しい。

こんな風に石文を置いておきます。

お返事は無くても大丈夫ですよ。


ワカッタ。


そして、ふたりは二度と会う事はないだろうと思い別れた。

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