22話 泉

紅子の母親は、ワッカと紅子が仲良く

口笛とオルガンを合奏している姿をみて

正直、いい気持ちはしなかった。

しかし、何と言っても紅子の命の恩人であったので、仕方ないと考えていた。


時が経つにつれ、ワッカの屈託のない大らかな人柄、なりよりも紅子が笑っているのを見るうちに頼りにするようになった。


ワッカさん、紅子にもう少し食べるように言ってくださいな。痩せてしまって、、。


だって、お母さん。ずっと家にいるのよ。

動かないんだもの。お腹も空かないのよ。


二人の会話を聞いたワッカは

ベニ、ソトニイクカ?

ワッカ、ナンデモスル。


えっ?外に、、。

、、、。

うん、ワッカさんが一緒なら、、。


紅子、大丈夫?


ええ、このままじゃいけないもの。

ワッカさんとならできそうな気がするの。


そう。

ワッカさん、お願いします。

紅子の母親は丁寧にお辞儀をして頼んだ。


ベニ、シンパイナイ。

ワッカ、ヤクソクマモル。


それからしばらくして、ワッカは木で作った車椅子を持って現れた。


すごいわ、ねぇ、お母さん!


本当ねぇ、これなら紅子、外にいけるわね。

お母さん、お弁当作るわ。

さあ、大急ぎ!


ワッカは紅子をヒョイと抱き上げ、車椅子に乗せてくれた。そして、アイヌの美しい織物を膝に掛けてくれた。


どこにいくの?ワッカさん。


ワッカノヒミツノバショ。


ゴロゴロ、ゴロゴロと車椅子の音は心地よい。

久しぶりの外の空気を思い切り吸い込んで

ふぅーーと吐く。

風が紅子の長い黒髪を靡かせる。


森の奥の奥。

そこには、ひっそりと隠れているように

泉があった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る