20話 しらべ

紅子は泣いて、泣いて涙も枯れてしまった。

退院してからは自宅で療養していた。

母親は一階の庭から外までが見渡せる部屋を紅子の療養場所にしてくれた。


紅子は惚けたようにぼんやりと過ごしていた。

家族は優しくしてくれたが、それに感謝できる程の気力も湧かなかった。


ピィーピューーー。


ん?何をかしら、小鳥?

違うわ、口笛。

この調べ、、。どこかで聴いたわ。

そう、ワッカさん!


独特の調べは穏やかで紅子は目を閉じて

聴き入った。

しばらくすると、口笛は去っていった。


それからは毎日、毎日、口笛が聴こえるようになった。

紅子はその調べを心待ちにするようになっていた。


お母さん、私のオルガンをここへ持ってきて欲しいの。


紅子、オルガンって、、。


大丈夫よ、片足が無くなってもオルガンは弾けるわ。

やってみたいの。お願い。


そう、うん、うん。紅子がそういう気持ちになってくれたのなら、この部屋に置こうかね。




紅子はいつもの時間にオルガンの椅子に腰掛けて待っていた。


ピィーピューピピピーー。


紅子は合わせるようにオルガンを弾いた。

すると一瞬、口笛は止まったが、また直ぐに

ピピピー。


ふたりの調べは流れていった。


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