第11話 アンビバランス

申し送りのあと、リンコは環境整備にまわる。

505号室。

リンコは身構えた。


おはよーございます。

みんなー、今からお掃除しまーす。

よろしくおねがいしますねー。


かんきょうせいびでしょ?

わかってるって、やって、やって。


まあ!さすがねぇ。


なんせ、にゅういんはなんどもやってんだぜ。


そっかー、私よりここの事は良く知ってるのね。せんぱーい。


そそ。わかんないことはオレにきけ!


はーい。


そんなやり取りをしていていると背中に視線を感じた。

これは、ガクホ君。

胸がドキドキする。背中が熱い。


あ、ガクホ君、おはよう。

昨日は驚かせちゃってごめんなさい。


森野さん、もう大丈夫なんですか?


ガクホは真っ直ぐにリンコを見つめている。

まだ大人になりきってないカラダは

中性的で、面長に切れ長の目、サラサラとした黒髪。

リンコは視線を外せなかった。


うう、いけない、冷静に冷静に。

あの、ガクホ君、昨日ね、私が倒れた時に

「こんなところで逢える」とかなんとか呟いてたって聞いたんだけど。

どこかで出逢った事があったかしら?


ガクホはふふっと揶揄うように笑った。

そんな事言ったのかなぁ。覚えてないです。


そう?


どうしてそんな事を聞くんですか?


何でないの、、。

いや、実はね、ガクホ君を見た時に懐かしい感じがしたのね。

もしかしたら、患者さんの関係者の方だったりしたのかしら?と思ったのね。


ガクホは、落ち着き払って答えた。

同じだ。

僕もね、森野さんを見た時に、どこかで会った気がしたんだ。

森野さんが僕の手首に触れたでしょう?

あの時、おかしな物が頭の中に現れたんです。


ねぇ!それってどんな風に?


うーん。毛深い体格の良い男の人が、

ベニ、ベニって、僕を呼ぶんだ。

何だか泣いてるみたいだった。


、、、。


どうかした?森野さん。また、気持ち悪くなったんですか??


ううん、違うの。違う、、。

ありがとう、話してくれて。

さあ、お掃除はお終い。

ガクホ君は、今日は骨シンチって言う検査があったわね。

また、時間になったら呼びにくるわね。


リンコはこう話すのがやっとだった。

一体全体、私に何が起こっているのだろう。

不安とは違う気持ち。

こんな時は心理士さんに相談したいわ。


リンコは仕事に集中できないままだった。




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