プロローグ⑥
俺は神様からの人生をやり直すという慈悲な提案を断った。この世にそれを欲している人がどれほどいることか。だが、それほどまでに俺の人生は空虚で価値のないものなのだ。
俺が神様から死を告げられた時に、特に悲しんだり絶望したりしなかったことが何よりの証拠だった。自分がどれほど自分の人生に価値を見出していなかったのかが一番実感できた。
俺が死んでも瀬良さんやおかきが無事幸せに人生を送っていれば、それで充分だ。
「それでいいのかい?未練とかはないのかい?」
すると、神様はフランクに聞いてきた。
「それは、ない、です」
俺が詰まりながら返事をすると、神様はそれを見て大きくため息をついた。
「言ったはずだよ。私は君のことを熟知していると、それは君に関する情報全て。君が今考えていることもそうだ。だから、君が今嘘をついたことも分かっている」
どうやら、全て見透かされていたようだった。だが、そうだとしても俺の決断が揺らぐことはない。
「果たして、今から言う事実を言っても、そう思っていられますか?」
また俺の考えを見透かしながら、神様はまた敬語で話す。
「君が死んだあの事故で、
その言葉を聞いた俺は開いた口が塞がらないまま言葉を失った。
一瞬にして頭の中はそのことで飽和していき、溢れ出た分だけ「瀬良さんが、死んだ?」と口から言葉が漏れてきた。
俺は瀬良さんが死んだことなんて全く想定していなかった。なぜ想定できなかったのか。それは恐らく瀬良さんの死が自分の中で最悪の想定だったからだ。考えないようにしていたからだ。起こりえないことだと思って不吉なことから避け続けてきたからだ。
だが、起こってしまった。起こらないと信じていた、考えないようにしてきたことが起こってしまった。自分の死ならまだいい。ただ、瀬良さんの死だけは、俺には受け入れることができなかった。
「嘘だ。嘘だ。嘘だ」
壊れたように口から言葉が出て止まらない。もう神様に敬語を使う余裕もなかった。それどころか神様を疑いもしていた。
「私が嘘をつく意味なんてない。真実だ。何ならここで証拠のVTRでも流してやろうか?私ならそんなこと造作でもない」
「いえ、結構です。信じます」
そんな映像が見られるほど俺のメンタルは強くない。口ではそう言ったが、完全に受け入れたわけではない。前を進み続けていた俺の背後から引力によって引っ張られて進行を妨げられるようだった。そんな俺に神様は再び告げた。
「それと、まだ君に報告しなければならないことが二つある」
声を出す気力もない俺は無言で神様の目を見ることで聞く意思を示した。
神様が最初に告げたのは俺や瀬良さんを襲った事故についてだった。
俺達が乗っていたタクシーはスリップを起こした対向の乗用車と衝突して、事故は起こった。タクシー運転手と乗用車の運転手は一命を取り留めたものの、重傷を負った上に死亡した俺と瀬良さんの親に多額の賠償金を支払うこととなってしまった。
「今言ったのが一つ目」
一つ目から重い話を告げられたが、畳みかけるように神様の話は続いた。
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