カボチャ売りと黒猫

 お日様ポカポカ。カボチャころころ。

 日の当たる路地裏でカボチャに囲まれて女の子が一人。

 うつらうつら舟を漕ぎながら、あぐらをかいている。


 風はふわふわと吹き、柔らかな栗色の髪を揺らす。カボチャたちも心なしか、眠たげな表情で、ごろんと転がっている。


「ニャア」


 のんびりした鳴き声。女の子はくすりと起き、寝ぼけまなこで「にゃぁ」と返事をする。するとでっぷりと太った黒猫が「ニャア」と言葉をラリーする。


 黒猫はそのまま赤玉カボチャと茶玉カボチャの間に空いたスペースに陣取り、ぐでんと座り、次いですやすやとする。

 それを見届けると女の子もすやすや。


「おぉい」


 今度はしわがれた呼びかけだ。浅黒く日焼けした老人が、穏やかな笑みを浮かべながら、女の子を見下ろしている。


「こんにちは。今日も良い天気ね」


 なんて生返事をしながら、女の子は商人らしいスマイルをして

「おじさん、お久しぶり!今日は何にする? ヒメカボチャ? ドデカカボチャ?」

 老人は少し首をひねり笑いかける。

「じゃ、こいつ、幾らだい?」


 指さされたのは、すやすや黒猫。日溜まりの中、丸くなっている。ひげが少しピクリと動いたのは気のせいだろう。


「そうねぇ」

 女の子は愛しそうに黒猫を見つめ、次いで視線を宙に走らせ

「非売品ってことにしたいけど。おじさんが大切にしてくれるなら」

 ううんと伸びをして、顔をむずむず。

「ええい、時価500円!」


 老人は笑いながらこんな感じに。

「ちぃと高いが、買ってみるか」

「うん」

「そんで猫鍋ってどうやって作るん? うまいんかい?」


 女の子は慌て駆け寄り

「たったた、食べちゃダメよ! 食用じゃないんだから。ネコちゃん、こんなにカワイーし、丸々してるけど、ふわふわ毛並みだし。えと、おじちゃん、お腹壊しちゃうし」


 ささやかな冗談への、女の子の大きなジェスチャーに、黒猫もパチリ。

 ゆっくりと起き上がると、何事も無かったかのように、のそのそと歩き出す。


 女の子と老人は、それをただ見つめながら、同時につぶやき合う。

「よかったぁ」

「まっ、それが猫ってもんだ」


 暖かな午後の太陽を浴びて、黒猫は次の昼寝場所へと姿を消す。

 次いで老人が反対方向に、大玉カボチャをぶら下げて、ふらふらと歩む。


 女の子は満足げに頷いて、次いでまたうつらうつら。

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