『岡崎弘子しか知らない世界』
文房具が好き。
誰よりも。
本も、好き。
株式会社有隣堂事業開発部商材開発・店舗プロモーション課、岡崎弘子。
文房具バイヤーです。
商品の情報や金額から、良いと思った文房具を仕入れて、商品を店舗に陳列してもらうことがメイン業務です。
この時辛いのは、新しい商品を置くには、他の商品をどかさないといけないこと。
売場も限られています。仕方のないことだと割り切るしかありません。
誰よりも文房具を愛して、毎日文房具を探し、仕入れ、販売しています。
好きなことをしていて、さも幸せそうに見えるでしょうが、実は、苦しんだ時期もありました。
ここは本屋さん。本がメインです。
しかし、私の業務は文房具一色。
元々本も好きだった私ですが、気が付けば本に対する愛情はどんどん色褪せていって、いつの間にか、本は背景と化してしまったのです。
そうなると、つい思ってしまうのです。
「私はここにいていいのかな」
誰しもそういう時期はあります。
文房具のことでいっぱいの私が、本屋にいて良いのか。
私よりもぴったりな人が他にいるのではないか。
もっとふさわしい人が来る為には、私がいなくなるべきではないか。
一度落ち込んだ人間というのは、どこまでも落ちてしまうものです。
あの頃の私は、本気で自分は必要ない存在だと思い込んでいました。
そんな状態が続いていた時、企画開発部の渡邊郁が声をかけてくれました。
その内容には驚かされましたが。
「YouTubeに出てくれませんか」
私の悩みは、結果あっさりと解消されることになりました。
文房具一筋。文房具に注いでいた私の愛情を、彼らは必要としてくれたのです。
渡邊曰く、商品に対する”熱”を求めていたとのこと。
自分を肯定する理由を失っていた私にとって、こんなに嬉しいことはありませんでした。
思えば、私の好きなものへの愛を、肯定してくれたのは2人目です。
入社する前。当時面接官だった松信からの質問は「あなたの好きなものを私に紹介してください」だった。
その時の松信の言葉が、入社の決め手となった。
「あなたには深い愛情と、それを伝えられる素直さがある。岡崎さん。私達は本屋です。数ある本屋の中、私達は、私達にしかできない価値を生み出し、単一であり目的地とならなければならない。私達が目指すのは、誰かの隣にいつまでも寄り添い続けられる会社です。岡崎さん。私たちにはあなたの熱意が必要だ。」
渡邊曰く、YouTubeを始めるきっかけも、松信の一言からだったらしい。
「ふふふ」
二度も同じ人に助けられてしまいました。
さて。
そろそろ私も、ずっと止まっていた執筆活動を再開しようかしら。
押し入れにずっと入れっぱなしだった、書きかけの本。
文房具が大好きで、一度は本への愛情を失いかけていた、私なりの抵抗。
本を通して、私は声を上げます。
私は、ここにいる。ここにいて良いのだと。
書いていたのは、絵本です。
表紙には、丁度この本を書き始めた時、気持ちが落ち込んでいた時に開店した店舗の、ロゴマークのキャラクターを参考にした絵が、大きく描かれています。
この動物は、ギリシャ神話で、知恵の象徴だそうです。
年数が経っていて、紙が傷んでしまってる。
途中まで書いてはいたけれど、もう一度最初から書き直す必要がありそうです。
書きかけの本と、新しく用意した真っ白な本。それとお気に入りの文房具を持って、机に向かう。
先ずは、書きかけの本の表紙に書かれているフクロウの絵を、新しい本に書き写します。
ふと。
フクロウの頭に、カラフルな羽を付け足してみました。
どうやら、羽角と呼ばれるその耳のような羽があるかないかで、フクロウかミミズクかを呼び分けるそう。
かくして、表紙のフクロウは、ミミズクへと生まれ変わりました。
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