第41話 聖闘祭開催!

『――今年で魔王討伐からちょうど200年。人類史上類を見ない、奇跡のように長い平和の時代が続きました。そんな記念すべき節目の年、第二十一回エルスニア聖闘祭の開催をここに宣言します!』


 アルルの街の教会の長であり、エルスニア聖闘祭の主催者でもある『ヴェルナ・ミーゲル司祭』が傍聴席から、拡声魔法道具を使って闘技場全体に宣誓を響かせた。

 人で埋め尽くされた観客席中から大歓声が沸き上がる。その熱気は舞台はおろか街中をも轟かせる勢いであった。


『ヴェルナ司祭、ありがとうございました! では前二十回開催に引き続き、私『ダーネット・ヨハン』がこれより進行および実況を務めさせていただきます! それでは皆様お待ちかね、選手ッ! 入場ッ!!!』


 ダーネット女史の力強く突き抜けるようなハスキーボイスを皮切りに、舞台入出口から男女十三名余りが姿を表す。彼らを歓迎するかのように会場のボルテージが増し、選手紹介がはじまった。



『まず一人目は! 今回惜しくも聖闘祭出場を辞退なされたライアン様が直々に代理を指名したという鳴り物入りでの参加となります! Cランク冒険者、カズキ・マキシマッッ!! ……っと、あらら!? 会場の反応は微妙といったところでしょうか!? ま、それも致し方なし! Cランク冒険者という反応に困る肩書き! あのライアン様の代わりというにはあまりに役不足かもしれません! ……がッ! 彼は魔法戦士というなかなか珍しい職業であります! 予測不能! 実力未知数! そういった意味で一番期待できそうな選手ですッ! トトカルチョに挑む皆々様方は彼で一発大勝負を仕掛けるのも一興かもしれませんよォ!?』


『続きまして! 漁師から冒険者になったという異例の経歴の持ち主ッ! Aランク冒険者、アクバー・アドミルッッ!! 漁師時代から使い続けているという彼にしか扱えない巨大銛が最大の武器ッ! 今日は誰が彼の漁の餌食となってしまうのかーッ!?』


『そしてッ! 観客席にいらっしゃる修道女ならびに教会騎士の誰もが知ってるあの御方! アルルの街の教会騎士長(テンプルナイトマスター)、ミズーリン・マズカッッ!! 騎士とは名ばかり! 剣も盾も鎧も、彼にとって足枷にしかならないッ! 己の四肢こそが究極の兵器ッ! エルスニア最強のモンクといえば彼を置いて他に居ませんッ!』


『ローブを身にまとう謎めいた人物! アクア・メイジ、ネフェルト・イッソッッ!! 攻防一体! 質実剛健! 変幻自在! 水属性魔法が相手を完膚なきまでに叩き潰すッ!』


『兎にも角にも、その巨人の如き体躯が目を引く! 超重戦士、ゴッゾ・フロマージュッッ!! 全身ミスリル製の重甲冑で完全武装! それだけでも恐ろしいが、彼の身長を悠に超える大盾がますます威圧的だァッ!』


『翻って、こちら小柄です……が!? 秘めたるは熱い闘志は誰にも負けない! 元アルター王国騎兵隊出身、ウェッジ・ビッグスッッ!! 残念ながら規定により騎馬は持ち込めなかったが、彼の槍捌きは侮りがたいはずッ!』


『おっとぉ!? こちらの御仁、今大会でぶっちぎり最高齢の参加者でございます! エルスニア地方極東に居を構えるシンハン寺院の総元締め! リー・ナムッッ!! 一見して枯木の如く御老体でいらっしゃいますが、果たしてどんな戦いぶりを見せてくれるのか見ものですッ!』


『ホーネットのように舞い、ドラゴンのように喰らうッ! 双剣使い、ケイト・アンジュッッ!! 数多の魔物の血を啜ってきた双剣が、これからこの聖なる戦いの祭典を冒涜し尽くすッ! 震えて待てと言わんばかりに刃が妖しく輝いておりますッ!』


『この男! なんと、あのボナハルト騎士団所属騎士ですッ! クロスボウの名手、ジャッキン・ボクスッッ!! 百発百中! 一撃必殺! エルスニアきっての狙撃技術を持つ男が、聖闘祭に殴り込みをかけてきたぞぉッ!』


『うおおおお!! なんと美しい! 同性ながらドキドキが止まりません! 流浪の女闘士、リンファ・メイルッッ!! その妖しい肢体から繰り出される業の数々! 一体如何様なものか今から楽しみですッ!』


『美しさならこの御方も負けておりません! ルマンド男爵家令嬢、フルール・ルマンド様ッッ!! まさかの参戦に驚きを隠せません! しかし侮ることなかれ! 彼女はあらゆる剣術大会で輝かしい功績を残してきた剣の達人なのであります!』


『見るからに危険人物! まるで生ける幽鬼! ガルダ・ミュンヘンッッ!! 彼は人間狩り(マンハンター)の異名を持つAランク冒険者で、その名の通り対人間に特化した戦術を得意とします! 武術大会というこの環境、ある意味彼の独壇場となりうるかもしれません!』


『――さぁ! 皆さんお待たせしました! いよいよ彼のご紹介!! トトカルチョ一番人気!! 彼に賭ければド安牌!! 前回準優勝者!! 我らがクザ・トリガーーーッッ!! 今日一番の盛り上がりとなっております!! 最大のライバル不在の今大会、果たして彼の一人勝ちとなってしまうのでしょうかーー!?』



『――選手紹介が終わったところで、デモンストレーションを交えてのルール説明となります!』


 紹介が終わると選手たちが捌けていき、代わりに教会騎士の装備をこしらえた男二人が舞台上に現れた。


『まず選手はお互い首に“白磁のネックレス”を掛けて頂きます! このネックレスは転んだ衝撃でぶつかったりした程度で壊れないほど頑丈ですが、鍛えられた拳や武器の一撃の前では容易く砕け散ってしまいます!』


 二人の男をよく見てみれば、首元に白く美しい装飾品が取り付けられているのがわかる。彼らは互いに剣を構えたまま向かい合った。


『相手のネックレスを先に破壊したら勝利となります! 逆にネックレスを破壊されるか、降参を選んだ場合敗北となります! 制限時間はなし! 武器の使用は予め認められたものであれば自由! 他諸々の仔細なルールはありますがここでは割愛させて頂きます。……そしてッ!』


 形式張った軽い剣戟を演じるなか、片方が相手の首を狙って思い切り刃を振るう。相手はそれを避けようともしない。


「――があっ!!」


 男が苦悶の叫びを上げた瞬間、会場に短い悲鳴が上がる。

 剣が男の首をネックレスごと深く切り裂き、鮮血が撒き散らされたのだ。普通に考えれば致命傷、どうあがいても助からないはずだ。……だが、男は痛みに呻きながらも平然としている。

 すると会場に大型ビジョンの技術そのものともいえる投影魔法によって、彼の姿が映像として大きく映し出された。なんと、彼を死に至らしめるはずの切り傷は既に完治している。相手から手渡された布で流血を悠々と拭き取っている様子に、観客席から感嘆の声が響き渡った。


『ご覧いただけましたでしょうか! これが聖闘祭最大の醍醐味!! 超回復結界です!! これのおかげで、かつて行われてきた聖闘祭で死者は一人も出ておりません! ガチ殺し合いでも絶対安全! 武器を交えた全身全霊の闘いを思う存分楽しめるのです! 滅多に見れない平和なバイオレンスッ! 最高ですねッ!!』


 ダーネットの煽りを受け、大歓声が沸き起こった。

 

『では! 次はいよいよ! トーナメント表の発表となりますッ! ただいま図版を映像に出力致しますよ! 刮目してください! 一回戦目の組み合わせは……これだッ!!』



【第1試合】

カズキ・マキシマvsミズーリン・マズカ


【第2試合】

ネフェルト・イッソvsゴッゾ・フロマージュ


【第3試合】

ケイト・アンジュvsリー・ナム


【第4試合】

アクバー・アドミルvsジャッキン・ボクス


【第5試合】

リンファ・メイルvsフルール・ ルマンド


【第6試合】

ガルダ・ミュンヘンvsウェッジ・ビッグス


【シード】

クザ・トリガー



「いきなり俺の出番か……」


 舞台控室の壁にも投影されたトーナメント表を見て緊張が増す。相手は現役教会騎士長のミズーリン・マズカ、あの精強な教会騎士たちの頂点に立つほどの実力者。優勝候補に数えられてもおかしくないだろう。だが、アンナとの手合わせのおかげで、モンクである彼の戦法はある程度把握しやすいはず。――相手にとって不足はない。


「一回戦、頑張れよ!」


 クザさんは緊張で強張った俺の肩を軽く叩くと、小さく手を振りながら去っていく。彼の激励のおかげで心なしか緊張感が薄らいだ気がする。


「……ありがとうございます! クザさん!」


 目指すは優勝。そのためにはまずは目の前の相手を叩き伏せる!

 熱い闘志を滾らせ、舞台へと向かうのであった。

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