第34話 復讐

「……やった……のか?」


 全身から力が抜け、その場に座り込んだ。鉛のように四肢が重い。魔力切れ特有の気怠さに襲われていた。


「やった……やった……! やったぁ! 私たちやったんだよ! カズキ! クイーンホーネットを倒したんだよ!!」


 今にも倒れそうな俺をアンナが背中から支えながら、無邪気に喜んでいた。

 女王の頭部は地面に切り落とされ、残された巨躯は完全に静止している。最後の土壇場、遮二無二になりすぎて記憶が曖昧であるが、『クイーンホーネットの討伐』という揺るぎない結果が目の前にある。

 実感と達成感が徐々にこみ上げ、次第にアンナと喜びを分かち合った。


「ああ……成し遂げたんだ……、俺たちで……」

「うん!」

「カズキさん……やりましたね」

「ふたりとも、よくやったな! おかげで誰一人犠牲者を出すことなく収集がついた。本当に……本当によくやった!! うおおおおおッ!」


 エミリィさんも同じく魔力切れでボロボロだが、心底安堵して微笑んでいた。

 自分以外の全員を助けようと、一人犠牲になることを選んだライアン様も無事生き延びることができた。

 全てが丸く収まった。まさに大団円の結末だった。



 ――ゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさない!!!

 どうして私たちの家は壊されなきゃいけなかったの!?

 どうして私の姉妹たちが死ななきゃいけなかったの!?

 どうして私の“だいすきなおかあさん”が殺されなきゃいけなかったの!?

 ゆるさないゆるさないゆるさないぜったいにゆるさない。

 誰がいちばん悪いんだ?

 誰が……誰が!

 おかあさんを捕まえたリーダーのオス?

 いや、違う。あのオスはあのままおかあさんに殺されるはずだった。

 駆けつけたときにはもうおかあさんが殺される寸前だった。だから知っている。それを邪魔したのは、あの三匹のニンゲンたちだ。さらに言えば、おかあさんを直接殺したのはあのオスだ。ならばいちばん悪いのは、あのオス?

 いや、違う!

 ――あのメスだ。あのオスを助けた長い髪のメスだ。あのメスの回復魔法さえなければ、一匹でも多くのニンゲンを殺せた。なのにアイツが邪魔をした。

 あのメスがオスを助けたから、おかあさんが殺されることになった。

 憎い、憎い、にくいにくいにくい!!!

 殺す……殺してやる。ころしてやる!!!



「え?」


 気付いたときには手遅れだった。

 聞き覚えのある重々しい羽音。おぞましい轟音。

 突如として現れた新女王が、死の槍を構えながらアンナ目掛けて突進していた。


「アンナ様ぁ!!!!!」


 エミリィさんが悲鳴をあげる。もう間に合わない。

 猛スピードで迫り来るそれを、アンナは躱すことができなかった――

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