第33話 慚愧

 そんな……儂が……死ぬ……のか?

 一瞬の閃光とともに泥と砂利の上に落っこちた。

 体に力が入らない。いや、もはや儂の体はこの頭しかなかった。

 意識が遠のいていく。二百四十年間の走馬灯が駆け巡った。

 新女王として育ち、自我を手に入れた瞬間の光景。

 母の元を離れ、このリースの森を新たな故郷とした日。

 育てた子供たちのうち、優秀な個体は魔王軍の元へ送った。

 しばらくして魔王様が討伐され、その必要も無くなった。

 魔王様亡き後、人間が魔王軍残党狩りに躍起になるなか、儂はリースの森のコロニーを必死に守り続けた。

 そうして今日まで生き延びた。たくさんの可愛い子どもたちを愛で、育てた。

 だが、それも今日で全部終わり。

 もうじき儂は死ぬ。

 子どもたちも散り散りになって、いずれ野垂れ死ぬ。せめて女王の器が一匹でも多く生き残っていることを願うばかりだ。

 溜まり積もった疲れを癒やすように、ゆっくりと意識が遠のいた――


『――やだぁ……やだあああああ!!! 死にたくない! 死にたくないよおお!!! お願いします! 助けてぇ……助けてくださいいいい……お願いしますっ! 助けて助けて助けて、痛い痛い痛い痛い痛いいたあああああ』

 

 ……え? ……なん……で……?

 

 ――女王が最期に思い出したのは、かつてひとりの人間を生きたまま幼子の餌にする光景だった。

 泣きながら許しを乞い、それでもなお無慈悲に、悶絶するのも構わず、四肢を食い千切られる人間を見下ろす瞬間だった。

 何故それを最期に思い出したのかは分からない。

 その理由を知る前に、彼女の記憶は永遠に失われてしまった。

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