第2話 モンスター
「ふぅ、カードが実際に使えるなんて、どうなっているの」
「魔法使いだったとはな。それにしても変わったスペルブックだ。カード型なんて初めて見たよ」
「スペルブック?」
「呪文書だよ。魔法使いが自分で開発した魔法の呪文を書いておく奴だ。呪文は【火よ点け】とかこんな簡単なのでも良いがな」
「【火よ点け】」
ライターぐらいの火が灯った。
僕でも普通の魔法が使えるみたい。
しばらくして火は消えた。
「あれれ、消えちゃった」
「たぶん、魔力切れだな。火点けの魔法なら俺達にも使えるぞ」
「ロックスさんも魔法使い?」
「馬鹿いうな。俺達だと火点けの魔法を10回も使うと魔力切れだ」
「そうなの」
「ショータ、凄い。私、ショータに弟子入りする」
「アデル、無理を言うな。普通の人は人の背丈を超えるような火球を召喚出来ない」
僕って魔法使いの素質があるのかな。
魔法を使うのにカードを使う方が何となく恰好良いな。
ちょっとやってみよう。
「【サモン・ライトエレメンタル】。さっき魔力切れになったけどもう魔力が回復したんだな」
握り拳ぐらいの光の玉が浮いている。
体感では魔力が減っている気配がない。
いつまで出しておけるか計ってみよう。
「アデルさえよければ、カードの使い方を教えるよ」
「お父さん、ショータもああ言っているし、いいでしょ」
「まあ、いいか。害になるわけでもないし。アデルの夢が破れても、それはそれで大人になったということだ」
「お父さん、酷い。私の失敗するのを望んでるの」
「いいや、大人になるとな。夢と現実が分かるようになるんだ。まあそういうことだ」
「モンスターって死なないの」
「あいつらは狂った精霊なんだ。学者の説によれば、負の感情に精霊が染まるとああなるらしい」
「毛皮と何かを落としたようだけど」
「これか」
ロックスさんが牙と赤い透き通った石を見せた。
「ええと、戦利品?」
「精霊は物質ではないのだが、狂うと動物を襲い肉をまとう。ダメージを受けるとそれを切り離して、正常に戻るってわけだ。これらは道具に加工されて高く売れる」
アイテムをドロップするなんて、まるでゲームみたいだ。
しばらく雑談したが、ライトエレメンタルが消えない。
「従魔が消えないんだけど」
「おかしいな。さっき魔力切れになったのにな。となるとショータ、お前のスペルブックはたぶん特別だな」
「別に普通の紙で出来たカードなんだけど」
「見せてみろ」
カードを1枚渡した。
「読めん。どこの文字だ?」
「日本語」
「そんな言葉は知らん」
「知らんて、いま喋っている。あれっ、そう言えば違う言葉で喋っている」
「神の仕業かもしれないな。そんなことができるのはそれしか思いつかない」
日本語の呪文が凄いのかな。
「【火よ点け】あれっ消えた」
日本語で唱えたのに一瞬で消えた。
ライトエレメンタルも消えている。
考えるのは苦手だ。
でも、たぶんカードが凄いんだと思う。
僕がいま持っているエグゼエレメンタルのカードは12種類。
レベル・インクリメント、これは従魔やプレイヤーをレベルアップさせる。レベルの文字とラッパと紙吹雪の絵だ。キラキラしている。
ループとループエンド、これは対になるとループする。輪とジャンプする絵が描いてある。
サモン系、僕のスタータパックはファイヤーだけど、水と土と風も存在する。絵柄は、僕のは炎。ああ、光と闇もあった。光はデッキに入っている。
ネームド系、呼び出す従魔をネームドに変える。従魔によって絵が違う。
ブランチ、分岐カード。使いどころが難しい。分かれ道の絵が描いてある。
スイッチとケース、これはブランチの上位版。好きなだけケースカードとカードを付けられる。スイッチと配線の絵だ。
アタック、言わずと知れた攻撃。剣の絵が描いてある。
ディフェンス、防御力2倍。盾の絵が描いてある。
リターン、従魔を還せる。Uターンの絵だ。
ブレイク、スイッチとループを壊せる。ハンマーの絵が描いてある。
「目がトロンとしてきてるぞ。お子様達は寝る時間だ。見張りは大人に任せておけ。ちょっとは恰好良いところを見せないとな」
「うん、おやすみ」
「おやすみなさい」
そして、気がついたら朝だった。
フォレストウルフの毛皮を手にしてニコニコしているロックスさんがいる。
とっても嬉しそうだ。
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