最強のカードゲーム魔法~カードは何億通りの魔法を生み出す~

喰寝丸太

第1話 異世界転移

 今日は友達の家でゲームやり過ぎた。

 ちょうど夕日が落ちたところだ。

 空が段々と暗くなり、蒼に染まっていく。

 急がないと。

 そう言えばおばあちゃんが言ってた。

 『逢魔が時おうまがときに気をつけるんだよ』って。

 妖怪でも出るのかな。

 妖怪が出てくる漫画は面白いけど、あまり怖くない。

 一番怖いのはホラー映画だ。

 特に日本のは怖い。

 外国のは肝心の幽霊がCGとか分かっちゃって、ちょっと興ざめになるのとかが多い。


 あれっ、アスファルトが何時の間にか土の道になっている。

 狐に化かされた。

 ないよね。


 都会には狐はいない。

 狸ならたまにニュースで見る。

 でも実物を見たことはない。


 木々の隙間からチラっと灯りが見えた。

 妖怪がいたらどうしよう。


 口裂け女だったら、ポマードと唱えたらいいんだっけ。


「ポマード、ポマード、ポマード」


 言いながら進む。

 森が開けて広場になっていて、灯りは焚火だった。

 お父さんぐらい歳をとった外国人の男の人と、僕ぐらいの女の子が座っている。


「見ない顔だな。この辺の人種と違うようだ。大人は?」


 そう男の人に話し掛けられた。

 良かった話が通じる。


「大人はいない。道を歩いていたらここだった」

「迷子か?」


 どう言おう。


「うん」


 とりあえず頷いた。


「そうか。じゃあ朝になったら帰り道を探してやろう」

「ありがとう」


「おう。坊主、お礼を言えて偉いぞ」

「僕は大森おおもり翔太しょーた。坊主じゃない。12歳だよ」

「家名持ちか。家名は隠せ」


「ええと、家名って名字だよね。じゃあショータだ」

「俺はロックス。こっちは娘のアデル」

「アデル12歳」


「じゃあ、同い年だね」

「うん」


 地面の上は硬かったが、緊張して疲れたのかすぐに眠りにつけた。

 そして、肩を揺すぶられて目が覚める。

 辺りをみるとまだ真っ暗だ。

 焚火の火はチロチロと燃えてはいたけど。


「声を出さないで」


 アデルが小声で言う。

 理由はすぐに判った。

 暗闇に目がいくつも光っていたからだ。

 唸り声も聞こえる。


 ロックスさんは剣を抜いて構えている。


「モンスターよ。フォレストウルフだと思う」


 アデルがやはり小声で言う。

 モンスターがいる場所は地球のどこにもない。

 ここってどこだろう。


 ガサっと音がしてロックスさんがトラぐらいある漆黒の狼に組み伏せられていた。

 フォレストウルフは牙をむき出しにして唸っていて、ロックスさんは剣で何とか防いでいるところだ。

 剣がなければ頭からがぶりとやられてしまったと思う。


「逃げろ! 二人だけでも逃げろ!」


 逃げたらどうなるのだろう。

 目の数から考えると少なくとも4頭はいる。

 とても逃げられない。


 物語の主人公なら秘められた力が現れるのに。

 ポケットを見るとカードゲームのスターターパックが入っているのに気づいた。

 このカードゲーム名はエグゼエレメンタル。

 このゲームの存在を忘れるなんて。

 エグゼスピリットを持っているなんて言えない。


 このゲームはとにかく多彩なんだ。

 カードの種類も豊富で、なにより戦術があるのがいい。

 自慢じゃないが僕は大会で優勝したこともある。


 これが使えれば。

 一枚カードを抜き取った。


 次は【サモン・ファイヤーエレメンタル】。

 これはファイヤーエレメンタルを召喚できる。


 次に引いたのは【ループ】と【ループエンド】のカード2枚。

 これは特殊カードだ。


 次に引いたのは【アタック】。

 コンボが完成した。


「プロセス・スタート、【ループ。サモン・ファイヤーエレメンタル。アタック。ループエンド】……これで戦えるわけないか」


 駄目元で無限増殖コンボを口に出した。

 手の平ほどの炎の玉が生まれて、静かに燃えている。

 どうやら、ファイヤーエレメンタルらしい。

 ファイヤーエレメンタルは分裂と体当たり攻撃を始めた。

 どうなっているの。


 攻撃するたびにファイヤーエレメンタルが激しく燃え上がり、分裂していく。

 ロックスさんを押さえつけていたフォレストウルフもバーニングウィプスに焦がされた。


「ギャン!」


 ロックスさんの手が自由になり、なんとかフォレストウルフの口に剣を刺し込むことができたようだ。

 フォレストウルフから黒い霧が立ち昇り、毛皮と何かをバラバラと落とした。

 そして、フォレストウルフは少し縮んで、白い狼になって逃げて行った。


 モンスターが死ぬと、生き返るんだな。

 いいや死んでないのか。

 あとで詳しく聞いてみよう。


 ファイヤーエレメンタルはというと、数が百はゆうに超えてた。

 ファイヤーエレメンタルの体当たりに、フォレストウルフ達が次々に白い狼になっていく。

 やがてフォレストウルフはいなくなった。


 ええとそうだ。

 カードを何度も引く。

 そしてお目当てのカードを見つけ出した。


 【リターン】のカードだ。

 従魔を還せる。

 リターンのカードをループの中に入れる。


「【リターン】、プロセス・エグジット。ファイヤーエレメンタル、ありがとう」


 ファイヤーエレメンタルが消えた。

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