第5話 呪われた魔術師④

 

 何も悪いことなんてしていないのに、どうして呪われなければいけないのか。


 一生懸命生き残ろうと頑張っただけなのに、こんな運命はあんまりだ。


 今すぐ普通の人間に戻りたい。


 早く解呪方法を見つけないと。



 そう強く思ったオフェリアは塞ぎこむことを止め、解呪のために動き出した。

 両親と弟は呪われたオフェリアを受け入れ、師匠ウォーレスと弟子仲間は解呪の研究を手伝ってくれた。

 幸いにも魔塔はオフェリアの『不老』については隠して事件を処理してくれたようで、他国の魔術師にまで彼女の噂が広がる様子はない。実験体として狙ってくる魔術師も、命を狙ってくる王侯貴族もいなかった。



 ただ不老というのは、想定していた以上に不便だった。


 同じ土地に長く留まれば、年老いない姿を気味悪がられた。気が付けば、若作りでは誤魔化せないほど同世代とは容姿に差が生まれていた。



「オフェリアはどうやって若さを保っているの? 魔法? 羨ましいけれど、ちょっと怖いくらいよ」



 偶然会った幼馴染が、心配するような視線を送ってきた。なにか悩みがあって若さに執着していると思っているらしい。

 その頃にはシミひとつない顔のオフェリアに対し、幼馴染の顔にはすっかりそばかすが目立つようになっていた。オフェリアの見た目年齢は、その幼馴染の子どもの方に近いくらい。

 ゆっくりと、本来の時間から外れていくのを感じる。


 幼馴染が心優しい人であり、今は心配程度で済んでいるが……もう少ししたら、他の人のように気味悪く思うようになるだろう。

 呪いを疑うようになり、悪魔が原因と憶測し、噂は広がり……いずれ家族に迷惑が及ぶのは目に見えた。


 オフェリアは解呪のヒントを探す名目で、旅に出た。

 故郷に戻ってきたときは変装をして遠い親戚と偽り、帰って来ないと思われているオフェリアは親不孝者と……近所の顔見知りの口から何度も世間話として聞かされた。

 仕方のないことだと耐えながら過ごしたが……師匠も、兄弟弟子も、両親も、弟も、弟のこどもも先に天に召されてしまった。


 時間は残酷にも、オフェリアだけを置いていった。

 オフェリアを、オフェリアと正しく認識できる人は時間とともに減っていくばかり。

 それでいて、解呪の目途はまったく立っていない。

 意地だけで、オフェリアは解呪のための旅を続けた。少しでもヒントが見つかれば良いと、大陸の端から端まで足を運んだ。野宿なんて当たり前。


 しかし解呪には至らず……気が付けば、百年が経ってしまった。




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