18 うなれ風魔法

 


 俺は席を立ち、近くに置いておいた丸太。過去にイノシシに壊された家の残骸、後に薪にする予定だった物のうち1本だけ手に取る。


「ソクサさん?」

「何しようとしているの?」


 俺の行動を見て何をするのかと戸惑いながらミシャとアンジェが声を上げる。


「あの、その丸太って前に使っていたものですよね? 乾燥させてから薪にすると言って取っておいた」

「そうだな」


 レナの問いに短く返事をし、俺は手に持った丸太をそのまま地面に思い切り突き立てた。

 ズドン、という衝撃とともに丸太は地面に突き刺さった。これくらいであれば魔法なぞ必要はない。


「えっとぉ?」


 本格的に理解できなくなったレナたちから困惑の声が漏れた。


 まあ、ろくに説明もせずいきなり丸太を地面に突き立てたんだからそうなるのも無理はない。


「先ほどの言葉からして、風魔法で何かをするということでしょうか」

「そうなるな。まあ、ちょっと見ていてくれ」


 何をするのかと近づこうとしていたレナたちを手で制して俺は目の前に突き立てた丸太の前に立つ。

 そして、風魔法を発動し、それを利き腕である右腕に纏わせる。


「はっ!」


 呼吸を合わせ、風魔法をまとわせた右腕を丸太に向かって横なぎで思い切り振るった。


 腕が丸太に触れ、さらに振り切られると同時にズゴンという鈍い音が周囲に響く。そして丸太は俺の腕、正確には手が当たった部分を境に上下に分断された。


「は?」


 その光景を見て信じられないものを見たといった表情でアンジェが抜けたような声を上げる。


 少し力を入れすぎてしまったようで上の部分の丸太が少し飛んでしまったが、それを回収して断面を確認する。

 丸太の断面は今まで加工してきた丸太よりもだいぶ綺麗な仕上がりになっていた。


「予想通りうまくいったな」

「え?」


俺以外いまいち状況が呑み込めていないようでいまだにぽかんとした表情を浮かべている。


「え、っと、今のは要するに、風魔法を纏って、その力を使って丸太を切断した、ということでしょうか?」


 考えをまとめながら言葉を出しているようで少しぶつ切りになりながらもミシャがそう聞いてきた。


「そうだな。ミシャが見せてくれた中に風魔法で物を切断するものがあっただろ。それの応用、みたいなものだな」

「え、あの。あれは丸太を切断するほどの力はないのですが。精々草葉を切断するくらいの能力しか…なかったはずで」


 俺の説明を聞いてやや処理落ちしたような様子で切断された丸太を眺めていた。

 確かにミシャが見せてくれた風魔法はよくて柔らかそうな草が切れるくらいだったしな。不得意と言っていたが、見せてもらった魔法は得意だったとしても丸太が切れるほどの力はなさそうだった。


 それなのに突然その魔法を参考にして、丸太を切ってくるとはさすがに想像できないか。


「それって本当にできるものなんですか?」

「現にできているからな」


 まあ、こんなことができるのは俺のフィジカルあってのものだと思うが。


 今見せた魔法は言うなれば風魔法式のチェーンソーみたいなものだ。刃がぐるぐる回転しているわけではないが、イメージとしては一番それが近い。


 今は3人にわかりやすい様に上下に両断したが、加減次第では木材の表面をきれいに加工することもできるだろう。


 試しにまだ地面に刺さっている丸太に風魔法を纏わせた手を使って加工を施していく。


 先ほどとは違い少しずつ表面を慣らしながら丸太の先端から50センチほどを角材風に仕上げていく。細かい作業は初めてで慣れていないこともあり、少しゆがんだ角材になってしまったが、意図したとおりの加工は成功した。


 今まではただ無理やり樹をへし折りその断面をギリギリ使える程度にならしただけの加工がせいぜいだった。丸太組で家を作ったときも、雑に溝を作ってそれで組んだだけで、結構丸太同士の間に隙間が空いている状態だ。


「えぇ……。風魔法をこのように使うのを見るのは初めてなのですが、よくできますね? これほどのことをするとなるとかなりの集中力と魔力が必要になるのですが」


 ミシャにはもう俺の魔法の使い方が認識の外にあるのか、驚きを通り越してもはや遠い目をしながら俺のしていることを眺めている。


「ミシャが魔法は想像力って言っていただろ。要はしっかり想像して魔力が足りてさえすればどうにかなるんじゃないか。魔力に関しては使った感じ、減っているような感覚がないから、俺が保有している魔力が普通よりも多いのかもしれないな」


「想像できるのだから実際にもできる、という理屈はわかりますが、こうもあっさりやってのけられるのは教えた身からすれば複雑ですね。しかし、魔力量に関しては確かにソクサさんの保有している魔力は多いのかもしれません」


 馬鹿体力と合わせればなかなかいい感じになりそうだな。できる範囲はかなり少ないが、レナもミシャもいるんだ。これで十分だろう。


「これ、結局私だけ無能ってことじゃない?」


 俺が木材を加工しているところを呆れた表情で見ていたアンジェがため息をつきながらそう呟く。


「さっきも言ったがそれはない。それに、これからは結構手伝ってもらうことになると思うから、そこはよろしく頼むな」


「手伝う……? 何を?」


「家づくり」


 レナとミシャは種族的にも歳的にもあまり肉体労働にはむいていないからなぁ。貶すつもりはないが家を建てることに関しては、あまり役に立たない。

 その点、アンジェは純粋な獣人だけあって、女性でもかなり力が強いから頼りになる。


「ん? ああなるほど」


 俺が言いたいことを理解したのか、レナとミシャを見た後、納得といった表情で小さくうなずいた。

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