3 殺されかけた



 


 殺されかけました。


 俺が見つけたのはそこまで大きくはない村のような場所だったのだが、そこにいた人が俺を見た途端、警告音のような音を出した。

 そしてもう夜だったというのにその音に気付いた村人たちが一斉に村の外に出てきたと思ったら、石とか槍のようなものを思いっきり投げつけられたのだ。

 中には火の玉も混じっていたので、この世界には魔法が存在している可能性が出てきたわけだが、できれば穏便な感じでその存在を知りたかった。


 まさかあそこまで攻撃的な反応を返されるとは思っていなかったのだが、とりあえず1つわかったことはある。


 俺にとっては絶望するような内容ではあるが、あれ程過剰な反応を見れば馬鹿でもわかる。


 この世界は人間と獣人は敵対しているらしい。それも見つけた瞬間に殺そうとするほどに敵として、いや、それ以上に憎むべき存在、駆除する対象と言わんばかりのレベルでだ。


 多少敵対している程度なら、友好を示せばどうにかなったかもしれないが、あれはどう想定しても不可能としか思えない。


 とりあえずこの体の身体能力が高かったおかげで、怪我をするようなことはなかったが、あのまま村に入ろうとしたら確実に殺されていただろう。

 いくら身体能力が高かったとしても、数の暴力には勝てないのだ。


 そんなわけで元居た森の中に戻ってきたわけだが、これからどうすればいいのか。


 この体は相当燃費がいいのか、未だにお腹が減ったような感覚はないので食べ物に関してはすぐに必要というわけではない。しかし、問題は寝床である。


 寝るだけならその辺の地べたに横たわって寝ればいいだけなのだが、それをするには俺はこの場所を知らなすぎる。

 今は何も出てこない、いやむしろ俺を怖がっているのか、生物らしい生物が出てこないので安全ではあるのだが、寝たらどうなるかなんてわかるわけがない。


 普通であれば警戒対象が寝たところで近づいてくることはないだろうが、ここは俺みたいな獣人がいる世界だ。元の世界の感覚で過ごしたら速攻で死ぬだろう。現に殺されかけたし。


 いっそのこと、この森の中に家でも建ててしまえば襲われる心配は減るんだが、家を建てるための材料がないんだよ……な…………


 さすがに無理だろう、と思いながら近くに生えていた周りに比べれば細めの樹を、少し力を込めて殴ってみる。


 ゴシャッ


 そんな感じの人体から出していいものではない音を立てて拳が樹の幹にめり込んだ。


 …………拳がめり込んだままなので、木の幹から拳を引抜く。それと同時に支えがなくなったからか鈍い音を立てながら、その樹は俺がいる方とは反対に倒れていった。


 自分の拳を観察する。

 木片が少しついているが怪我をしている様子はない。汚れたこと以外、殴る前と何1つ変わらない状態だ。


 倒れた樹を見る。

 周囲より細めと入ったが、太いところで直径40センチほどの巨木が無残にも地面の上に横たわっている。


 俺の体やばくね? 

 

 殴った方、右の掌の感覚を確かめるためにグーパーしてみる。なんの違和感もなく動かすことができるので、本当に怪我はしていないようだ。


 あのサイズの樹を殴り倒していて、なんの影響も受けていないのはおかしいよな? 反作用とかどうなっているんだ? 

 いくらこの体の身体能力が高かったとしても、大木を殴ってなぎ倒しておいてなんの怪我もしなかったということは、この肉体の強度があの樹よりも高いということになる。しかも抵抗らしい抵抗もなく豆腐を殴ったかのように幹の中に拳がめり込んだということは、ちょっと強い程度ではないのは明らかだ。


 獣人ってこれが普通なのか? 生物の域を超えているような気がするが、ここは元の世界とは違う世界だ。そんな生物がいないと断言することはできない。それに人が獣人をあそこまで嫌悪しているのは、こういう強い肉体だからなのかもしれないとも思う。


 しかし、考え方によっては木材を手に入れる方法が手に入ったことになる。丸太をそのまま使うことになるので、家らしい家にはならないかもしれないが、おおざっぱなログハウスくらいにはなるだろう。


 それに当初の目的だった、現地の人にいろいろ教えてもらうのは完全に不可能になってしまったので、この森の中でひっそりと暮らしていくのもいいかもしれない。というか、それしか方法がなくなってしまったわけだが。


 もともと、1人でいるのも慣れているし、1人で生活するのであればそこまで大きな家は必要ないから楽はできる。

 懸念すべきは今後の食料についてだが、この森には何かしらの生物はいるようだし、それを頑張って狩ればいい。最悪、その辺にある植物を食べて飢えをしのげばいいのだ。


「何もしないわけにもいかないしなぁ」


 いろいろ考えるべきことはあるが、とりあえず今は移動し続けたことで疲れがたまっていてそこそこ眠い。できれば安全を確保してから寝たいところだが、残念ながらそれを確保するほどの余裕はない。


 それで、できる限り安全な場所をと、考えたところで木の上で休憩すればいいのだと思いついた。

 そんなわけで樹に登ってみる。幹に手をかけ爪をひっかけ体重をかけても問題ないかを確認する。力をかけたことで爪は幹にあっさり食い込んだ。どうやら皮膚だけではなく爪も相当硬いらしく、幹に爪が食い込むごとにミシミシと樹が悲鳴を上げていた。


 死ぬ前は一度も木登りをやったことのなかった俺ではあるが、この体の身体能力をもってすればそんなことは関係ないとばかりにあっさり登ることができた。


 そして休憩しやすそうな太い枝選びそれに腰を掛け、幹に背中を預けると俺はゆっくりと目を閉じた。





 ―――――

 次話から新章です。タイトル通りちゃんと女の子が出てくるので安心してください。


 次回の更新からは1日1回12時10分ごろの更新になります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る