女の子ですか、そうですか
4 ぶっ殺すぞイノシシ
森の中に住み始めてから1週間ほどが経過した。
あれから一応家らしきものはできたので、今はそこで生活している。木組みというには大雑把なものだが、作ってから形を保ち続けているので問題はないだろう。ついでに入口にドアはない。
俺に開き戸を作る技術はないし、そのための工具もない。硬い爪を使って木材の表面を整えるくらいはできるようになったが、さすがに木材で
食料は近くを通った鳥などを石で撃ち落として確保している。他にもウサギらしき動物や、イノシシらしき存在も確認しているが、そちらまだ食べたことはない。
そもそも、火のない環境なので肉はすべて生食だ。最初は嫌忌していたが、空腹に耐えられず意を決し食べた。さすがにそのままは無理だったので、最低限下処理をしたうえでだが。
人生初の生の鶏肉は正直おいしくはなかった。しかし、食べられないほどではなかった。どうやら獣人は肉を生で食べても問題ないらしい。お腹を壊すこともなかったのでそれ以降は気にすることなくそのまま食べている。
今も雉っぽい鳥を撃ち落としたところだ。投げた石の威力が強すぎて貫通してしまっているが、そのあたりはご愛敬である。
早速これを家に持ち帰って捌いて食べよう、そう思ったところで何か重たいものが盛大に崩れる轟音が森の中に響いた。
まさか、そう嫌な予感を覚えながら俺は急いで家へ向かう。そして家の前に着くと、俺が
「嘘だろ……」
崩れた家を見て呆然としているところに丸太の山の影から巨大な影、体高が優に1メートルは超えている巨大なイノシシが姿を現した。
「ブギイイイイィィイイイ!!!」
あの姿には見覚えがある。ここ2、3日、俺に対してちょっかいをかけてくるようになったイノシシだ。最初は警戒していて出てこなかっただけのようだが、今では俺を追い出すように攻撃してくるのだ。
その行動から、もしかしたらもともとあの辺を縄張りにしていたのかもしれないが、今そんなことは関係ない。あそこは俺の家であって、あのイノシシが壊していいものではないのだ。
「とうとうやりやがったな! あのくそイノシシ!!」
俺の家を破壊したのは十中八九あのイノシシだ。そう判断して俺はあの家を壊して歓喜を上げるように鳴き声を上げたイノシシを追いかけた。
イノシシを負い森の中を爆走する。走力だけで言えば俺のほうが速そうだが、勝手知ったる森の中といった様子で、巨体のわりにイノシシは木々の間をするすると駆け抜けていく。
そのせいでなかなか追いつけない。それどころか微妙に距離を離されつつある。
「待てぇえぇぇぇえええ!」
俺のそんな言葉をあざ笑うかのように森の中にあのイノシシの鳴き声が響き渡った。
追いかけ始めてからそう時間もたたないうちに、初日の鳥に引き続いてあのイノシシまでも見失った。
ただその代わり、地面に倒れている女の子と、それを嬉々として見つめる2人組の男を見つけた。
男たちは余裕というか地面に倒れている女の子をあざ笑っているし、女の子の身なりはかなりボロボロの状態だ。
状況がよく呑み込めないが、おそらく男2人が地面に倒れている女の子を襲っている感じなんだろうか?
正直こういう場には居合わせたくないが相手の視界にも入ってしまっているし、気絶して動けなくなっている女の子を見捨てて逃げ出すのも良心が痛む。
「おいおいおいおい! 今日はなんだ? 入れ食いだなあ!」
俺のことに気づいた男が嬉々としてそんなことを言う。何が入れ食いなのかはわからないが、少なくとも俺のことも倒れている女の子と同じように見ているのはわかった。
「あー、完全獣系、純血か。しかも男。奴隷としての価値はあんまりねぇなぁ。よくて実験用か?」
「奴隷?」
奴隷といえばあちらではだいぶ昔にあったやつだよな? ファンタジー系の物語では割と出てくる設定だが、この世界にもそういうのがあるんだな。
「奴隷を知らないとか、どれだけ田舎から出てきたんだろうな。この獣」
「奴隷っていうのはね、俺たち人間様がお前たち獣を飼ってあげる、君たちにとってありがたい制度のことだよ」
この世界に来て最初に言葉を交わした相手がこんなやつかぁ。できればまともな人間がよかったんだが。
しかし獣ねぇ。要するにこいつらは俺、というか獣人のことを人として認識せず、別の生物として見ているってことだよな。よく見たら倒れている女の子、顔は普通の人っぽいけど頭に犬なのか猫なのか大きな耳がついているし、この子も獣人ってことなのかね。
「ほら、奴隷にしてやるから早くこっちに来い」
俺が奴隷という存在を知らないと思い込んでいるのか、男は当たり前のように奴隷になることを要求してくる。
やたらと上から目線だし、してやるっていう言葉がかなりイラっときた。
「嫌だって言ったら?」
「はは、獣は人間様に逆らうのは禁止されてんだよ。それともなんだ? こいつみたいに無理やりいうことを聞かせてもらいたいのか?」
やっぱりこの女の子はこの2人に暴力を振るわれていた感じか。
再度倒れている女の子を見れば、血が出るような傷はないものの、肌が露出している部分には痛々しいほどに青あざがあることに気づく。気を失うほどに暴力を振るわれたことを知って苛立ちがさらに募る。
「決まっているということは、法律なんかでそう決まっているということか?」
「おーよく知ってんじゃん。そうだよ。だからお前は俺たちの言葉に従わないといけないの」
本当に法律とかそういうものでそう決まっているのなら、今の俺に対して友好的な人間に会うのは絶望的だな。やはりこのまま森の中で生活を続けるのが一番か。
まあ、そのあたりは追々考えるとして、今はこの場を切り抜けなければ。女の子の方もどうにかした方がいいだろうし、この男たちのことも何とかしないといけないから、マジでめんどくさいな。
そんなことを考えていたら、面倒だと思っていたことが顔に出てしまっていたのか、それに気づいた男たちが不快そうな表情をした。
「なんだよその目は。もしかして本気で逆らうつもりなのか? お前バカだろ。本気でこいつみたいになりたいのか?」
そして片方の男がそう言うと倒れている女の子をげしげしと足蹴にする。
「おい、気絶している人に攻撃するのはやめろよ」
さすがに女の子が目の前でけられているのに耐えられなかった俺は、男と女の子の間に体を割り込ませることで、男の暴力を強引に止めに入った。そしてできるだけこの男と女の子の距離を離そうと、男の体に拳を叩き込んだ。
「おまっ?! うぐぇっ!?」
あ、やば。ちょっと払うだけのつもりだったのに、イラついてたから普通に殴ってしまった。
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