第525話 抜け目がない

ケリーに見せたかった空からの景色を堪能して地上に降りて来ると、領民が大騒ぎして居て衛兵が対応でてんやわんやしていた。


幼い孫や嫁以外の我が家の家族は全員自力で空を飛べるので感動が薄いかも知れないがそれはそれこれはこれで、折角なので全員を呼び集めて試乗会を開いたのであった。


もう1年早く作っておけばケリーにもこの景色を見せてやる事が出来たのにと一人心のなかでグチグチとして吹っ切れる事の無い俺であった。



家族との試乗会を終えた後は、我が家の従業員の家族のとの試乗会を開いてやってその喜びはしゃぐ姿を目を細めてみていたのであった。



そんな数ヶ月が過ぎた頃、ケリーの死後久々の義父から連絡が入り王宮に呼び出されるのであった。



どうやら飛行船が王宮にバレた様でその件での呼び出しらしい。



「オオサワ侯爵よ、久々じゃな。なにやら最近面白い者を建造したとの噂を耳にしておるが、どうなのじゃ?」と言う国王陛下。


「ええ、恐らくそれは飛行船の事かと存じます。漸く1機分だけ原料になる動力源を偶然発見したので、試行錯誤の上で作ってみました。」ともう他に作る原材料がない事を暗に仄めかす俺。


奥歯に物が詰まった様な直接的な集り発言こそ出ないものの、つまり手っ取り早く言うと『よこせ献上しろ!』と言う事らしい。


其処で、俺は献上するのは良いが何時まで動力源のホーラント輝石が使えるかは判らない事、最悪乗っていた者は全員墜落死する事を何度も説明した上で献上為ざるをえなくなったのであった。


ケリーの事を吹っ切る思いで建造したあの飛行船であるがそれさえも何だかんだで取り上げるつもりらしい・・・。


俺は少し嘘を付いていた。『1機分だけ』と言っているがそれは手元の原材料として持って居る物は1機分のホーラント輝石しかなかったのだが、そのホーラント輝石を


鑑定EXで確認すると、

***********************************************************************************

【ホーラント輝石】:異世界で採取される高魔力エネルギー源の魔力鉱石。

当世界では、マギ鉱石に匹敵する。互換が可能。

赤いく輝く魔力鉱石である。

マギ鉱石は高魔力の鉱脈の地層やダンジョン内部の壁や宝箱等から採取される事がある。

***********************************************************************************


と言う鑑定結果が出て居たのである。


なので、ホーラント輝石の互換としてマギ鉱石を発見すれば面白い事をもっと出来そうだと言う事である。


まあ少なくともマギ鉱石を探すと言う壮大な生きる目的が出来たのは良い事だ。


人間生きる目標は大事である。


こうして俺は次なる生きる目的を得てケリーが亡くなってから初めて自嘲気味に微笑むのであった。



冒険者ギルドで、マギ鉱石の情報を得ようと聞いて見るとホンノリ赤く光る石という事で、『赤輝石』と呼ばれていた事が判明した。


このマギ鉱石こと『赤輝石』は結構出土しているらしく、価格帯も安い宝石として取り扱われて使われていた。


おれはニヤリと笑って拳大のマギ輝石を買い占めルテ続きを取って自宅戻るのであった。


ケリーの死後子供等が俺の事を心配してくれて良く顔を見せる様になったのは嬉しい事だが、「もう大丈夫だから。」と強がりを言って何でも無い様に振る舞うのであった。




■■■


漸く2機目の原材料が揃ったのでマギ鉱石で彦応戦の製造に取り掛かる今回は工房のスタッフやケンイチにも立ち会わせて必要な手順や技術を伝授しながら製造して行く。



その為2機目は1人でサクサク作った1機目より時間が掛かって、3年の歳月が掛かったのだった。


そのお陰もあって工房の子供等やケンイチ達でも飛行船を作れる様になったのは大きい。


2機目の飛行船には『ケリー号』と名付け絶対に手放さない様にと言い付けたのであった。


尤もそんな我が家の2号機を嗅ぎ付けて王宮から次の機体の注文が入ったのは流石は王家と言う事だろうか。


弔問分の機体には目の玉が飛び出る位の金額を吹っ掛けて献上した1機目の分の損失をコッソリ薄めたのは言うまでも無い。


なんせ、スパイダーシルクやミスリル線等のレアパーツをふんだんに使うので普通にオーダーしても1機の値段は高額なのである。



一応そこら其処辺の原材料が高額な事もキチンと説明したので義父も青くなりながら納得してくれたのであった。


俺はこの2機目のオーダー品を工房とケンイチ達に製造を任せて要所要所で確認をするくらいにする事にしたのであった。


そうそう義父と言えば、ケリーの死後3年が経ったので後添えを娶らないかと諭されたのだが、ケリーの死が未だにショックでそんな気になれなかった俺はソッと断ったのだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る