第524話 気を抜いた隙に

その後は波乱も騒乱王命と言う名の無茶振りも無く孫や子供達とのほほんと暮らす7年が過ぎて行った。


あの幼かったマールは10歳となって学校へと入学した。


成人したマイクは婚約者が出来て既に大人の中入りである。



俺はマリリカとサクラに魔法を教える只の爺さんとなってレベル上げも為ずにノンビリ暮らしているのであった。


暇を持て余していると勿体無いので、新しく料理のレシピをドンドンと世に出してその過程で必然的に女神フェザー様の所に献上に行く。


すると料理は料理で喜んでお召し上がりになるものの、もっとスィーツを!と強請られる俺であった。



「スィーツは良いですが、その見返りと言ってはなんですが、我が一族に渡しと同じ『魔力超回復』ギフトを授けてください。スタンピードの対応の際に思いましたが私一人で全てを処理して対応するのは無理がありますので。」と此方も代わりにお強請り返しておいた。


すると、

「遺族全員にか? ・・・うーんしょうがないの~。その代わり美味しいしスィーツを持って来るのじゃぞ!」と言って取引が成立したのであった。


女神様相手に余り欲を出すのもどうかと思って自粛していたのだが、何でも駄目元で言って見る物である。


惜しむらくはもっと早くに強請って魔力超回復がケンイチやケンジ達に実装されて居ればあの地獄の様なスタンピードの対応ももっと楽に熟せていたであろう。と言う事である。



俺が教会から戻ってと暫くすると、興奮したケンジやケンイチが俺の元に魔力超回復ギフトが生えたと言う報告にやって来たのであった。



これでいざと言う時の引き出しが多くなったのは非常に心強い。


俺はお礼の為にセッセと何種類もの新作のスィーツを作ってフェザー様に献上しに持って行くのであった。




俺が孫に掛かりっきりになって居るのを見てケンイチとケンジが以前の様に一緒にダンジョン居行かないか?と誘って来るも、最近ではそのファイトが湧かないのである。


もう俺は枯れてしまったんだろうか?


確かに40代になったのは事実だが、些か枯れてしまうには早い気がするのは俺だけだろうか?


それに気が乗らないのには1つ理由があって、最近妻のケリーの体調が芳しく無くて休みがちなのである。


なので何かの際には最善の対処が出来る様に余り家から離れたくないと言うのが本音でもある。



■■■



愛妻のケリーがフト気を緩めて孫と遊んで居る隙に逝ってしまった。


知らせを受けて直ぐに戻って心臓マッサージと回復魔法とを併用してみたのだが、俺が駆けつけた時には心臓停止から15分以上経ってしまっていた所為か、息を吹き返す事も無くベッドの上で恰も眠った様に逝ってしまったのだった。



これからの事はあまりにも呆然としてしまったので正直何をどうしたのか全く覚えていない。



気が付いた時にはケリーの葬儀も終わり俺は1人夫婦の部屋に佇んで居たのであった。


まだまだ2人の時間は長く続くと思い込んでいたので、この突然の不幸に唯々呆然として、ケリーと過ごした日々の写真を見返しては思い出に浸る日々を過ごしていたのであった。


てっきり何時ものパターンで、死ぬのなら俺が先だと思い込んで居た。


だからこそ、戦争の時もスタンピードの時もちゃんとケリーの待つ我が家に戻ってくるまでが遠征だと気を引き締めてウッカリ死なない様にしてきたと言うのに、この仕打ちは酷い。



女神フェザー様にお願いに行ったが、流石に亡くなった者を甦らせる事は世の理に反すると一蹴されてしまったのだった。



こうして1人にしては広過ぎる夫婦の部屋で一日中ボーッと過ごす日が増えてしまい、息子達やマリアにまで心配されてしまい、無理矢理元気に振る舞う様に演技する俺であった。




ケリーの死後49日が過ぎても俺の喪失感が埋まる事は無く、オオサワ侯爵家当主の座をケンイチに正式に譲って、外に出て行く気になれないので俺は気晴らしになるようにと錬金に明け暮れる日々を送るのであった。




俺は今『時空間庫』に在庫として入っていた過去の人生で得た ホーラント輝石の在庫とコントローラーを使って気張らしになる様な飛行船を作ろうかと思っているのだ。


向かい何機も作った飛行船である。主要部品はギリギリ1機分あるので俺の心の穴を埋めるのに丁度良い大きさであるだろう。



俺は半年掛かりで飛行船の骨組みを組み立ててその間に『シルク・スパイダー』の糸製の絹を作らせて胴体に貼ってトータル丸1年を掛けて飛行船を完成させたのだった・・・。


初のテストフライトではケリーの遺影をコクピットに貼って一緒にフライトしたのであった。



前世で何機も作った飛行船は今世でも上手く機能してニュー・オオサワ・シティーの空に浮かぶのであった。


しかし、事前にケンイチに予告して無かった為、後で叱られたのはご愛敬である。

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