第397話 捻れた男 その1

私はロケティシュ・・・。そう、フローツマン王国とアムール王国に恨みを持つ元男爵家の者である。



我が一族は代々アムール王国の一貴族として暮らして来たが、俺の親父の代に起きたフランツ王国との戦で上官の作戦ミスによって親父は戦死し、その作戦失敗の原因を作ったと汚名を着せられて我が家はお取り潰しに在ってしまった。



そして逃げる様に隣のフローツマン王国にやって来て真面目に生きようと努力したが、産まれがアムール王国の為に方言があると馬鹿にされ虐めに遭ったその後数年掛かって必死で方言を直しフローツマン王国弁を喋る様にした。



その頃、憎きフランツ王国とアムール王国との間で戦争が勃発したものの、何か良く判らない内にアムール王国の完勝と言う形で戦争が終結してしまった。両国共に滅んでくれればどれだけスッキリするかと言うものを・・・。



そして、苦しい生活の中でたった一人生き残って居た母が病気で亡くなってしまった。もう何もかもが馬鹿らしくて、真面目にやるのが嫌になってしまった。


そう、俺には魅了と扇動と言うスキルがある。この2つを使えば真面目にコツコツ働かないでも幾らでも適当に稼ぐ事も政権をひっくり返す事もかのなので在る。


何故それをしなかったか? 母に真面目に生きろ!と日頃から口酸っぱく言われていたから、真面目に生きれば良い事があるかと真面目に生きていたのだ。



その結果どうなった? お金が出せずに母を病で亡くし、店外孤独の身になってしまった。


こうなったらもう失う物は何も無い。何も怖く無い。


アムール王国も嫌いだが余所者に優しく無いこの国の事も大嫌いである。そうだ!フローツマン王国を使ってアムール王国を滅ぼしてしまえば良いじゃないか!?



俺のスキルを持ってすれば人心掌握もお手の物である。


今に見てろよ!!



俺はまず貴族に出入りして居る大きな商会に近付き、魅了スキルを使って会長のお気に入りとなって信用を得た。


なーに、大番頭共にもみりょうを掛けて手柄を献上させれば、ちっとやそっとでも解けない魅了の効果の出来上がりである。



そして、貴族との商談に帯同して貴族の当主にも魅了を掛けて信用を得て他のより高位の貴族を数珠繋ぎに紹介させて行き、扇動スキルを使って、アムール王国を打つべし!と吹き込んでやる。


更にフローツマン王国の王宮まで潜り込んでしまえば後は簡単である。適当な作戦を信じ込ませ、完全勝利が約束されてると思い込ませれば良いだけである。


方法は簡単で、秩序を乱す教えを教義とするマーダム教なる邪教を1つ適当に作ってやって、それをアムール王国内に浸透布教して行くのである。


何なら俺も布教に参加して扇動しまくっても良いな。


俺の扇動は大当たりし、数年振りに戻ったアムール王国内でマーダム教は貧民層や後ろ暗い連中を中心に当たった!爆発的に信者の数が増えて行き、アムール王国の主要都市に教会を設立した程であった。


ケチが付いたのはマーコスと言うショボい地方都市に入り込めなかった頃くらいから、邪教禁止令なる物が公布されて、取り締まりが強化されてしまったのだ。


俺は慌ててフローツマン王国に、『今が出兵の好機だ』と電話をした。


この電話と言う魔動具は非常に優秀で、高い物だがこう言う作戦には持って来いの物である。


そして俺は1人アムール王国内の隠れ家に身を潜め、更なる混乱を招く為に扇動スキルを日々使うのであった。


各地の領内で邪教狩りと言う殺戮が行われ、信者の数こそ減ったものの、その殺戮の容赦無さが原因で軽い暴動が起こる様にちょっと扇動するだけで面白い様に、領主軍と領民が対立した。


これを各地で行った結果、各領主が国の防衛の為に送る予定だった兵は送るに遅れず、王宮との関係に亀裂が入った事だろう。


特に俺の親父を嵌めた貴族の領地では念入りに扇動してやった。



どいつもこいつもざまぁみろ!である。




が、しかしである。ここまでキッチリお膳立てしてやったのに、フローツマン王国の馬鹿共は戦争にアッサリ負けやがった・・・・。


しかもまたしてもアムール王国の完勝とか噂が流れてやがる。


一体どうなっているのやら?


俺は噂の詳細を知る為にアムール王国の王都へ最近出来たと言うゲートなる物を使ってと向かうのであった・・・。



俺はこのゲートと言う物を見くびっていた。


瞬時に何百kmと離れた所に移動出来るこの魔動具・・・そして、通信出来る魔動電話、どれもこれも調べると、『オオサワ商会』や『オオサワ公爵』と言う名が出て来る。


調べて見るとオオサワ公爵の立ち上げた商会が先の商会で、オオサワ公爵がどれもこれも作ったと言うではないか!?


しかもである。今回の戦も前回のフランツ王国戦でも一騎当千以上の働きをして第一王女と結婚して公爵位に着いたとか。

俺と真逆の超幸運に恵まれている奴が原因で今回の戦争にも負けた事が判った。


しかも、オオサワ公爵の領地はあのマーコスらしい。



くそぉ~!どうしてくれよう!? 俺は持って行き場のない嫉妬心と怒りでワナワナと震えるのであった。

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