第366話 告白

さて、俺は今壮大に悩んで居る。ここまで親しく撓ったマーガレット殿下に俺の転生と前世を斯くして置く事が非常に心苦しくなってしまったのだ。


結婚するにしてもしないにしても、まずは正直に俺と言う人物を曝け出してからじゃないと痼りを持ったままの様で拙い気がしてならないのだ。


こんな状態で流されるがままに結婚しては両者に取って不幸なんじゃないかと思ったのだ。



良くも悪くも裏表の無いマーガレット殿下に対して俺だけが『前世の記憶』と言う腹に一物を持っていては不誠実に感じる。


言い換えるとそう感じてしまう位にマーガレット殿下の人格を気に入ってしまったと言う事である。


長い人生できればパートナーには裏腹無く誠実でありたい。



そんな訳で、今日はマリー抜きでマーガレット殿下と静かに話せる場所をと言う事で、普段使ったいない応接室に防音のシールドを張って、


お茶を飲みながら向き合って居るのである。


「マーガレット殿下、折り入って話が在りまして、こうした場を設けました。まずは聞いて頂き、気に入らないと言うのであれば、婚約破棄になても仕方無いと考えて居ります。」と話始めると、

『婚約破棄』と言う単語にピクンと反応しつつ、黙って話の先を聞く姿勢のマーガレット殿下。


「まず、私ですが、前世の記憶を持って居りまして、前世では、結婚して子供も居りました。」と言って話を続ける俺。


「前世の記憶か?それは凄い事なのじゃな。して、何故前世では死んで死んでしもうたのじゃ?」と身を乗り出して聞いて来るマーガレット殿下。


「ええ、ダンジョンからのスタンピードと言う魔物の暴走が起きまして、そこで、待ちを守ったまでは良かったのですが、幼い子供を助けるのに魔力を使い果たしてしまって魔物に食い殺されました。」と言うと、「それは・・・」と言いながら息を飲むマーガレット殿下。

「それで、ここの世界の創造神であるナンシー様に呼ばれて此方の世界にに転生したのです。この事は両親も含め誰にも話した事がありません。もし気味悪くてこの婚約は無しにしたいとお思いなら謹んでお受け致します。こんなイレギュラーな事はそうそう普通ありませんからね。」と俺が締め括ると、


「それは壮絶ではあるが、トージなら然もありなんと思ってしまうのじゃ。道理で魔法の凄さが半端無いのじゃ。我が婚約者殿は希有な体験をした、女神様の御使い様なのじゃ。そんな事で婚約破棄等はせんぞ?」とあっけらかんと断言するマーガレット殿下であった。


その後、前世の事を色々と、めをキラキラさせながら尋ねられて思わず、2国間の戦争に介入した『魔王』の一件まで全て話してしまったのだった・・・。



「と言う事は前回の戦も、『魔王』が全開で登場すればもっと素早く終わって居たのじゃ?」と尋ねて来るマーガレット殿下。


「今回は如何に無駄に殺さずに未来永劫に大人しくさせるか?が主眼だったので、血を流す気は無かったのです。まあ、やろうと思えば敵の王城ごと瓦礫に帰る位簡単ですが、そうすると、後が大変ですからね。虐殺者にはなりたくないですから。」と付け加えたのであった。



「流石は妾の婚約者で師匠のトージなのじゃ。」と全く前世の事を気にした様子も何も無く逆に、どんな世界だったのかをお伽噺でも聞くかの様に、楽し気に聞いているのであった。



どうやら、婚約破棄もそれによる処罰も回避出来た様である。




それからと言うものは、お互いにより親密に慣れた様な気がしないではない。勿論、16歳と15歳の清い関係での話であるが・・・。







それ以降、マーガレット殿下は2人の時でも殆ど前世の事を聞いて来る事も無く、下手に答える事に困る様な事(前妻の事)等全く触れる事がなかったのだった。


実際の所、これには本当に助かったと言うのが俺の偽りの無い本心である。


アリーシアの事を100%忘れたか?と問われれれば否と答えざるを得ないし、『どっちが好きか?』等と聞かれたら比較したくはない・・・。


もう戻れない過ぎ去った世界の事なのだ、どうしようもない事なのである。



多分そう言うおれの心の奥底の悲しみや何かを推測してくれているのだろう。感謝しかない。




そんな訳で、2人の共通の秘密と言う扱いになった前世の事には全くあれ以降触れられないのであった。




俺の告白から3ヵ月が経った頃、王宮から呼び出しがあって、具体的な結婚の儀の日取りや段取り等の打ち合わせを受けるのであった。


結果、結婚の儀は来年の4月に決定した。


王族を妻に迎えるに際して、王族の末端となるので『公爵』になる事は決定で、王都の屋敷も今のじゃ格が足り無いとかで、新しい屋敷を用意してくれると言う事になった。


更に領地云々の話になって、公爵となって国庫から年金が殆どで無くなる代わりに領地からの税を取れる様になるとの話であった。


尤も当面は大変だろうから、支度金名目でいくらかのお金を出すので、それで10年以内に領地を軌道に乗せる様に厳命されたのであった。


そうは言われても、貰う領地次第である。「善処致します。」としか現状言えない。


まあ俺の場合、マジックバッグや魔動具の売り上げ分があるので何とでもなるだろうが、最悪の領地で無い事を祈るしかない・・・。


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