第352話 呼び出し

王宮に召喚された俺だが、怒られる様な事をした覚えが無い。もしかして、マーガレット殿下に下手に魔法を教えたのが拙かったとか?


最悪の場合逃げる先の候補地は何処にすれば良いか?頭の中でグルグル考えてみても候補地は全く安全でもない魔宮の森ぐらいしか思い浮かばない。


人が来ないと言う点では安全かもだけど、魔物が危険過ぎるので却下だな。


等と考えてる内に王宮に到着して、案内の侍従が俺の元にやって来て先導されるままに付いて行くと国王陛下の執務室へと通されたのであった。



「オオサワ子爵、お召しにより参上致しました。」と片膝を付いて頭を下げると、


「おお、オオサワ子爵よ、よくぞ参った。」と朗らかな笑顔で俺を迎え、ソファーの椅子を勧める国王陛下とその後方に控える宰相閣下。


「恐れ入ります。」とソファーに座りつつ、何時でも逃げられる様に気を緩めずに居ると、


「まずは機を張らずにリラックスして欲しい。呼び出したのは、他でもない、マーガレットに其方が教えた魔法の事じゃ。あれは素晴らしいの!!改めて例を言いたいのじゃ。」とお叱りでは無い事が判明してちょっと一息付く俺。


国王陛下曰く、現在の魔法師団にも、王国騎士団にもあれを教えたいのだが、マーガレット殿下では上手く伝承出来ないので困っていると言う事だった。



つまり、要約すると、短期間で良いので講師をして欲しいとの事であった。



「しかし陛下、私の様なポッと出の平民上がりに教えられるのを屈辱と受け止める生粋の貴族の方達が多いのでは無いでしょうか?」とお恐れながら聞いてみると、



「確かにそれはあり得るのじゃ。特に騎士団にそう言う面倒な奴が居りそうじゃな。」とぶっちゃける国王陛下。



「では、こうしては如何でしょうか?王宮魔法師団の方に私が軽く教え、それを魔法師団から、騎士団の方に教える2段階方式を取ると言うのは如何でしょうか?どちらにしても、私1人で全員に教えるのは非効率的ですし。」と言うとそれで行く事となった。


「但し陛下、大前提ですが、幼少の頃ならいざ知らず、成人した今から本当に素養の無い人には魔法は難しい可能性があるのは御了承下さい。これは教え手の能力の問題で無く、学び手側の才能の問題なので。」と一応念の為に釘を刺して置くのであった。


斯くして宰相閣下に連れられて、王宮魔法師団の詰め所へとドナドナされるのであった。



「紹介しよう、彼が王宮魔法師団の長である、ヘイズ伯爵だ。魔法師団長、彼が先日話して居た件のオオサワ子爵だ。」と運動不足を絵に描いた様な肥満義気の魔法師団長を紹介する宰相閣下。


「儂が王宮魔法師団長のヘイズ・フォントビウス伯爵である。」と俺の事を上から下までジロジロと値踏み刷る様に見て『ガキか・・・』とでも飯田そうな感じでにらみつけて来る。


「初めまして、トージ・フォン・オオサワです。宜しくお願い致します。」と会釈をする俺。



「・・・魔法のプロの方に恐縮ですが、今回身体強化と、魔装の2つをお教えするとのご命令を国王陛下より受けてります。」と言って念を押して置いた。


「うむ、宜しく頼む。」と言葉とは裏腹な口調のヘイズ伯爵。



引き合わしが終わった後、サッサと帰ってしまった宰相閣下。



「ではまずは無属性魔法の習得から始めたいと思います。皆さん、魔法のプロなので魔力操作はお持ちですよね? もしお持ちで無い方が居たら教えて下さい。魔力操作はこれからの作業場重要です。」と居並んだ王宮魔法師団のメンバーを前に声を張り上げる俺。


結果、全員『魔力操作』は出来る様で、魔力を体内でグルグル廻させて、身体強化実感させた。


「おお!ほんとうだ。ちょっとジャンプしただけで、こんなに飛べる。」と魔法師団員達がジャンプしたりしてはしゃいでいる。



ただ肝心の魔法師団長は余り身体強化が上手くいって無い様で、ジャンプしても殆ど変わらない様子・・・。



「ここまで良いでしょうか?兎にも角にもこれからの全てはこの『魔力操作』が最大のポイントとなります。もし『魔力操作』が弱いと感じる方は独自に練習をして下さい。」と言って、敢えて面倒そうな所にあしを踏み入れず先に進む事にした。



「次に、『魔力操作』を使って体外に魔力を出して、魔力の硬化を行います。」と言って、俺がフォース・フィールドの足場を作って登って見せると「オーーー!♪」と言って盛り上がる魔法のプロ集団。


「こんな事考えた事も無かった。」とみんなが必死で体外での魔力の硬化を試みて居るが、魔法師団長だけがムスッととしていてやっている気配が無い。


実際、見た感じ魔力が全く動いて居る気配が無い。


このままでは拙いので、

そっと、魔法師団長の傍によって、

「魔法師団長、もしかして魔力操作余り得意ではありませんか?後で少々お時間ただけますか?」とそれとなく個人レッスンを申し出ると、「心配は要らん大丈夫だ。」とだけぶっきらぼうに告げられたのだった。



30分ぐらいの初回の指導が終わって、本日の訓練が終わった後、


「もし今日の所までで判らない所があったら、少し時間を設けますので聞いて下さい。」と言うも『誰も』手を挙げる者も居らずにこの日のレッスンは終了したのであった。



これさ、非常に拙い感じなんじゃ無いだろうか? てか、魔力操作出来なくて魔法師団長出来る事がそもそもおかしい気がするのだが・・・。


もしかして、実力でなくて世襲制で魔法師団長になったってオチは無いよな?と疑わずには居られない俺だった。



団員の方は如何にも魔法オタクって感じで好感が持てるだけに非常に残念である。


俺は、初日のレッスンの評価を告げに宰相閣下へのお目通りを願い出て宰相閣下の執務室へと通されたのであった。


「どうしたのじゃ? 如何であったかな?」と俺の面会の理由を察してか尋ねて来る宰相閣下。


「ええ、大半は問題無く進んでますが、一つ最大の問題が。」と言って魔法師団長の出来なさ振りを嘆いてみせた。



「まさかとは思いますが、実力主義で長を決めて居るのではなくて、世襲制とかは無いですよね?」と聞くと。


苦い顔をする宰相閣下。


「もしその実力も無くその座に座らせて居るのであれば、国の一大事に誤った結果を齎す事になりますよ! 私如きが言える立場では無いですが・・・。ハッキリ言って、本職のプロでもないマーガレット殿下の方が実力は上だと断言いたします。」とハッキリと断言すると、


「それ程か・・・」と絶句して居た。


「なので、他の魔法師団員達は物になりそうですが、トップの方は責任持てません。一応個人授業も申し出たんですが、断られたので。この先は多分無理だと思いますし、ちゃんと実力で長を選ぶべきだと思います。それを御了承下さい。」と進言しておいたのだった。


■■■


2週間の間連日王宮の魔法師団の方で講師をやって、日々魔装の訓練をしているが、やはり、身体強化と魔装の併用は難易度が高い様で単体で成功する物は多いが併用となると、2,3人と言うところであった。



勿論、件の魔法師団長は初っ端の魔力の硬化が出来ないので、魔装の『魔』の字すら出来ていない。


幾ら、威張ってみても、出来て居ないのは誰の目にも明らかで毎日1時間位のレッスンの間中ただボンヤリと見て居るだけで居たたまれない感じであった。


だから最初の段階で言ったのに・・・。とちょっと可哀想に思う俺だった。


団員の1人から

「トージ殿、この訓練を行う様になってから、前より他の魔法の威力が増したのですが。そう言う事もあるのでしょうか?」との質問が飛んで、


「そう言えば、同じ様な事をマーガレット殿下も仰っておいででしたね。魔力操作が緻密になるので必要な魔力を具現化し易くなるんじゃないでしょうかね? このまま魔力操作を上げて行けば、無詠唱で魔法を撃てる様になるし、発動時間も短縮出来ますよ。」と答えると、流石魔法大好きな集団だけあって、異様に盛り上がってヤル気を漲らせているのであった。


但しただ1人を除いて・・・。



こうして、殆ど者が身体強化と魔装の併用が出来る様になったところで俺のお役は御免となって、

「トージ殿、卒業後は魔法師団に!」とのお誘いを笑顔でスルーしつつ、宰相閣下に、魔法師団長以外の『全員』が習得した事を報告に行くのであった。


流石にこの期に及び魔法の最高責任者『だけ』俺の教えた事が出来なかった事が問題となり騎士団も魔法師団も長を襲名する際の選考基準を世襲制から実力主義に変更する事になったのであった。



長の変わった魔法師団によって、騎士団に身体強化や、魔装を教え込むのだが、出来る者と出来ない者とで大きく別れ、結局出来ない者のみを第ニ騎士団とする案が出た。



この後、騎士団の方でも、身体強化の使えない騎士団長や体調クラスの退任劇等があったのは言うまでも無い。



結局、魔法師団では剣が振るえないとの事で、また俺の招集が掛かってしまったのだった。



「この度、魔装と身体強化を用いた剣術の見本と言う事で招集を受けた、トージ・フォン・オオサワ子爵です。宜しく。」と皆の前でペコリとあたまを下げた俺をみて、


『子供だ・・・』とざわめく騎士団の訓練場。


悪かったな、子供で。中身っはオッサンなんだけどな。と心の中で呟く俺。


剣術が駄目な魔法師団に変わって剣術の当たり稽古を行う事になった訳だが、


ここでもパパンの閃光流剣術は異様に強く、全戦全勝をもぎ取った。


勿論、身体強化に慣れて居ない騎士団員だった所為もあるだろうが、『子供』に負けた事は騎士団に取って良い刺激になった様で在る。


結果として、この騎士団にも卒業後のスカウトを受ける事となったのであった。




今回国の最高戦力の実力を垣間見た訳だが、パパンの強さが良く判ったし、こうして総合的に見て、自分の強さの立ち位置が良く判ったのであった。


組織力は別として、俺単体ならどうにでも出来るレベルである事が判ってホッとしたのだった。 尤も国と敵対したい訳じゃないので、上手く穏便に暮らして行きたい物である。


何だかんだで、ハイマンと言う友人も出来たし、それなりにこの国の事は気に入っているのだ。


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