第348話 デビュー
算数に魔法に関しては昨年同様に『単位免除試験』で早々に単位を取って免除となった。
少し一悶着あったのは、魔法の方で、余りにも凄いので『先生』をして教えないか?とのお誘いがしつこく断るのが非常に大変だった。
こう見えても俺は忙しいのである。
社交ダンスの実技の方だが、まだなだ『単位免除試験』が受けられる気配すら無い。
先日セリヌ先生に『単位免除試験』についてお伺いを立てたら、鼻で笑われた・・・。
つまり、「社交ダンスを舐めるんじゃねぇ!」って事だろうか?
そんな訳で、モリーンとのダンスの日々は続くのであった。
ちなみに、俺以外のSクラスのメンバーは生粋の貴族なので社交ダンスなど幼少の頃より仕込まれててそつ無くこなしているので自分との違いを客観的に自覚する事が出来るのだ。
「トージのダンスって何かぎごちないって言うか硬くないか?」とセリヌ先生と同じ様な指摘をハイマンに受けて内心愕然とするのであった。
先日、パパンから連絡があって、「暫くマリーをそっちで預かってくれないか?」との打診があった。
なんでも、自宅だとやはり窮屈な思いをしている様でどうやら魔法の訓練も捗って無いらしい。
2つ返事で了承し、学園から帰ってそのままガガの自宅に寄ったのであった。
久々に見たマリーは元気が無かったが俺の顔を見ると笑顔を見せてくれた。
「マリー、また暫く兄ちゃんの家で暮らそうか?」と俺が言うと零れんばかりの明るい笑顔になったのであった。
マリーを連れて帰る際、多少ママンから不満の声が上がったのだが、決め手はマリーの「トージ兄ちゃんの家だと魔法の練習が自由に出来るし。」と言った理由にママンがグッと言葉を飲み込んだのだった。
こうして、冬休みと同様に兄妹2人の生活が再始動するのであった。
とは言え、おれも普段は学園があるのでそれ程相手をしてやれる訳ではないのだが、魔法の訓練をしたり、スタッフ達と上手くやって時間を潰している様である。
スタッフ達に聞いたところ特に苦情や問題も無いとの事なのでホッと安心したのであった。
さて、学園で社交ダンスの必須授業があると言う事は即ち、貴族として必須の社交ダンスの場である舞踏会があると言う意味である。
その貴族の柵の洗礼と言うべき舞踏会への招待状が俺にも届いてしまったのだ・・・。
尤も、聞いたところ、俺だけでなく、Sクラスの全員に漏れなく招待状が届いたらしいのだが。
朝から俺がドンヨリしていると、ハイマンが心配して声を掛けてくれたので、舞踏会の招待状が届いた事を溜息交じりに告げると、全てを察したらしく、笑われてしまったのであった。
とは言え、全員出席すると聞いて、会場で知らない中でボッチにならずに済むと判り少しだけ気が軽くなったのであった。
憂鬱な舞踏会の当日、会場となる王宮のホールへと馬車で向かう。
勿論マリーは家でお留守番なので馬車には俺と付き添いのゲイツさんの2人である。
本当は婚約者やパートナーを誘って参加する物らしい。そんな高難度の事を俺には無理である。
一応、こう言う場での貴族のマナーや処世術は学園の必須授業で習っては居るが、ハッキリ言ってそう言う面倒な腹の探り合いは不得手である。まだキッタハッタの方がハッキリしていて判り易い。
そんな訳で会場入りして適当に会場を廻って居ると次々とやって来る大物の貴族達。まあ大物の貴族の99%は俺の顧客でもあるので一応顔見知りだ。
そんな訳で挨拶をして廻って居るのだが、それを良く思わない同じ子爵位の貴族やそれ以下の雑魚達から負の感情の籠もった視線が俺の背中に突き刺さる。
あー鬱陶しい。
棚ボタでは無く、10歳から努力した結果の今を羨ましいと思うのならそれ以上の努力をすれば良いのである。
そうこうしていると、ハイマンが俺を見つけて微笑みながら俺の元にやって来た。
流石は生まれ持っての高位貴族のハイマン、俺と違って身なりも物腰も全てが自然で堂に入ってる。
「ハイマン、流石だな。バッチリ決まってるね!」と褒めると、「ありがとう。まあ多少こう言う場に慣れて居るからな・・・。」とスマートな応答をするのだった。
それから暫くすると、Sクラスの他のメンバーもそれとなく俺とハイマンの周りに集まって来てその周囲には同じ年格好の王立学園で見かけた事のありそうな同学年っぽい連中が集まって来て居た。
どうやら、他のクラスの連中の様である。
今更だが説明すると王立学園のクラス分けは、成績基準で、Sクラスを最高にA、B、C、E、Fまでに割り振られる。
新旧時に成績が悪いと、クラス堕ちする事も少なくないのだ。
良いクラスには高位の貴族の子弟が集中するのでこうしてお近付きになろうとこう言う機会にジリジリと近寄って来るのである。
そんな連中から、『例外』である俺は実に目障りな存在として目の敵にされてそうで周囲の視線が痛い。
俺達が気さくに話して居ると、「おい、貴様マイマン様に失礼であろう!?」と後ろの方から見知らぬ少年から難癖を付けられたのであった。
不意に後方から殺気を飛ばされたので「あ゛?」と思わず怒気を込めた声が漏れて振り返ってしまう俺。
「良いんだ、ゴルツ殿、トージ卿は同じSクラスのクラスメイトの友人なのだ。」と微笑みながら諫めるハイマン。
どうやら、おれの呼び捨てが気に入らなかった様である。
「それにトージ卿は子爵家の当主だから、嫡子と言うだけの我らより位は上なのさ。さあ、トージ卿に謝罪を。」と促しこの場を治めようとする優しいハイマンの心をくみ取れないゴルツ君は俺に食ってかかったのだった。
「何故故に子爵位の者にトビウス伯爵家の嫡男の私が謝罪せねばならぬのですか?平民上がりの此奴にこそ貴族社会のしきたりを教え込ませねば鳴らぬのではないでしょうか?」とエキサイトしていた。
面倒臭ぇ~とぶちまけたくなっているところに、
「おお、トージよ、こんな所に居ったのか、さあ、妾と踊ろうなのじゃ。」と聞き覚えのあるマーガレット殿下の声が聞こえて来たのであった。
「ああ、マーガレット殿下、お久し振りです。本日もご機嫌麗しゅう。」と俺が丁寧な言葉を使って挨拶をすると、
「楽しい舞踏会の日に何気取った堅苦しい言葉は要らんのじゃ。さあ、踊ろうぞ!」と漢前な言葉で全てのいざこざをぶっ飛ばして俺を連れてホールのダンスエリアに連れ出されたのであった。
トラブルから救ってくれたのは嬉しかったが、本番デビューの相手が一国の姫君と言う事で益々緊張し、ぎごちないダンスになってしまったのは言うまでも無い。
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