第333話 やっぱり見つかった・・・

頻繁に俺の部屋に来る事で、侍女達がマーガレット殿下を探し廻る事が頻発して王宮内で問題となってしまった。


そして、とうとうと言うか漸くと言うかマーガレット殿下の疾走に俺が絡んで居る事をゲイツさんに知られてしまった。


この世界の王侯貴族の女性は婚約者以外の男性と同じ部屋に2人っきりになる事は非常に世間体が悪い事とされており、通常、侍女や執事、最低でもメイドが同席するものである。

所謂ご令嬢の茶会的なシーンを想像して貰えば理解出来るかと思う。


それを特定の『しかも』平民の同世代の男と長時間一緒に過ごす等、もし万が一にも世間に知られたら、身持ちの悪い女性のレッテルを貼られても仕方が無い状態と言えるらしい。


と言う事を青い顔をしたゲイツさんに説かれこれまた冷や汗ビッショリの俺が赤べこの人形の様にヘッドバンギングしながらオロオロして居る横で、当の本人であるマーガレット殿下はケラケラ笑って居たのだった。


当然これはここだけの話にも出来ずにエルサードさん経由で国王陛下の耳に入って問題となったのだが、国王陛下はマーガレット殿下と俺を呼び出し問うたのは、『ナニ』ではなく『何』をしたのか?という事で、

青い顔の俺の横で嬉し気な笑顔のマーガレット殿下が、ガガに行った事やゲルドの街に行ったり、スラム街の方の教会に行ったり、はたまた王都上空から王都を見下ろした事までをペラペラと楽し気に語ってしまい、


俺の死亡フラグを立てまくったのだった・・・。


「マーガレットよ、何故儂も呼ばなんだのじゃ!?ズルイではないか!!」と不公平を訴える国王陛下。


この発言にちょっとだけ活路を見出した俺は、

「お恐れながら、私も陛下のご許可を求める様に進言したのですが・・・ご納得頂けず、望まれるがままに従ってしまいました。申し訳ありません、もし陛下もご体験されたいのであれば宰相閣下と共にご体験されますか?」と言うと、既に1階宰相閣下によって却下された件だけに宰相閣下の顔が険しくなっていたのだった。



すると突然国王陛下が「良い事を思い着いたぞ!」と声を上げた。


その言葉にビクッとする宰相閣下。


「まだ11月に30日までに十分な時間がある故に、デモンストレーション用に王都とガガの街を先にゲートで繋ぐのじゃ。そうすればいちばん良いデモンストレーションになろう?どうじゃ? 今からガガに行って、その胸をガガ辺境伯に直談判してこようぞ。」と高らかに宣言する国王陛下。


「なる程、それは確かに十分なアピールになりますね。あんなに遠いガガまで一瞬ですものね。」とヤバイ標的から逸れた事をここぞとばかりに最大限に利用する俺。


そしてマーガレット殿下の件はいつの間にか有耶無耶になった感じになりホッと一息付いた後、国王陛下や宰相閣下の乗る馬車、更に何故かちゃっかりマーガレット殿下の馬車と数名の近衛騎士を連れて俺のゲートでガガの街に凱旋したのであった。


尤も繋いだ場所は家の近所の大通りで、イキナリ現れた豪華な白地に金の飾りの付いた国王陛下の馬車とそれに続くマーガレット殿下の一回り小さい馬車や物々しい騎馬に跨がった近衛騎士の列に驚くガガの街の人々。


俺はと言うと、国王陛下の馬車の御者席に座って道案内である。ガガ辺境伯邸に向かって進んで行くと貴族街に入る際の検問所の衛兵が突然予定の無い高貴な訪問者に驚きつつも1名が屋敷の方に先触れで全力疾走して良くのであった。



結論から言うと、11月30日の謁見の儀に出席する為にガガ辺境伯は現在王都へと上京中で不在。招集したのは国王陛下なんだから先に気づけよ!って話だけど、俺は知らなかったので無実である。


で、可哀想なのは親父さんの留守を預かったガガ辺境伯のご長男さん。イキナリこの国のトップがご降臨されてしまって、現在頭の中がプチ修羅場ってるご様子で、取り敢えずのご挨拶を無難に済ませた後、俺を含む全員が応接室へと通されて、若干青い顔のご長男バルドー君、国王陛下と宰相閣下に説明されて訳も半分判って無さそうなのに、ゲートセンター用の土地を提供しろと言われ素直に頷く始末。


見るに見かねて、俺が「差し出がましくて申し訳無いのですが、ガガ辺境伯の不在時と言う事で判断が難しいと思いますので、暫定でも良いのでゲートを建てる場所を提供頂いて後に不都合あれば別の場所に移動する事も可能です。」と俺が助け船を出すとやっと理解が追い付いた様でちょっとホッとしたような表情になった。


結局、ガガの中央広場の横の空いた土地に暫定で建設する事となり、案内を受けて確定した場所にみんなが見守る中、俺が土魔法でゲートとなる土台の石の門を作成した。これに予め作っておいた固定用ゲートユニットを貼り付けて白銀の魔導戦で決戦した。


これでガガ側のゲートは完成である。

俺が「完成しました。」と言うと、国王陛下が王宮にもう1つのゲートを庭にでも設置してこいと無茶を言う。


なので捕まると嫌なので「では申し訳ないですが、宰相閣下、何処に作って良いか暫定で構わないのでご一緒頂きご指示下さい。」とお願いすると、国王陛下を置いて行くのはまず居って感じなのか渋々頷いて俺と一緒にゲートで王宮に戻ったのだった。


「何やら面倒な事になったのぉ。だからあれ程言ったであろうが!」と国王陛下に言ってはいけないと言われて居た事に言及してお叱りを受ける俺。


「それはそうですが、私の立場だと、そもそも拒否権ありませんので、ご理解下さい。」と仕方無かった感をアピールしておいたのだった。


宰相閣下に案内された場所に先程同様のゲートを10分程で作って、ゲートを記号すると、ガガの街に無事に接続することが出来たのであった。


「おお、もう繋がったのか!? トージよ、お主仕事は早いのぉ~。確かに面白い奴じゃ。」と満面の笑みの国王陛下と何故か「そうでございましょ?お父様。」と我が事の様に胸を張るマーガレット殿下が出迎えてくれたのだった。


一応、バルドー君にもゲートの理解を深めて貰う為に、一度ゲートを潜って王都に行って貰った。


「トトージとやらよ、こんなに簡単に王都に着いてしまう物なのか?お父様はまだ恐らく道中なのに・・・。」と王城を見上げて唖然とするバルドー君。


「そうなのですよ。これがあれば、物流も人の流れも大きく変わりますよ。特にガガは魔宮の森の素材を王都経由で全国に売れますからね。」と俺が言うとガシッとおれの両手を取って「素晴らしいな。」とお褒めの言葉を頂いたのであった。


まあ、今は大喜びしているだけだけど、11月30日の謁見の儀のデモンストレーション時には全貴族がこのゲートを潜ってガガに一度は来るのだけどな・・・。


一応、宰相閣下からの説明もあったから、大丈夫だよね?


それまでは、ゲートの警備を厳重にやって貰わないと王城に賊が侵入したらお取り潰しぐらいじゃ済まないだろうからね。


一応念の為、再度ゲートを開いてガガに戻る際に、ちょっと浮かれ気味で危ういバルドー君に警備の事を念を押しておくのだった。




そして俺とマーガレット殿下の脱走?の件はこの騒ぎのお陰でスッカリ影に隠れて不問となったのであった。



戸は言え、俺はシッカリ根に持って・・・反省して形を潜めて居るのに、 全く反省の色の見えないマーガレット殿下が、少しでも退屈すると相変わらず俺の部屋へと突撃祖手来てお強請りを躱す為に大量の冷や汗を掻くのであった。



マーガレット殿下お付きの侍女でも執事でも侍従でも何でも良いけど、ちゃんと仕事しろよ!と俺は言いたい。


何故関係無い筈の俺にその皺寄せが来ているのか全く釈然としない。


「トージよ、そう硬い事を言わずとも先日もお咎め無しであったであろう? これは父上から引き継いだ遺伝みたいなものじゃから気にしたらまけじゃぞ?」とかさも正当な行動の様に俺を諫めて丸め込もうとして来る。



ああ・・・早く帰りたい・・・。


まあそんな気忙しい日々を過ごして居たがゲイツさんからの報告もあって知ったが、先日漸く孤児院と教会の補修工事が無不都合なく完了したらしい。


建て替えではないので流石に新品の様にはなって無いが以前の様に目に見える外壁の隙間や割れ等も無くなり暖かい冬が過ごせそうな雰囲気になっていた。


これでちょっとホッとした。


俺的には11月30日の謁見の儀まで王都での用事は殆ど無くなった為ゲイツさんに一時的にガガに戻って良いかを尋ねたところ、マーガレット殿下あのガガへのゲート開通以降にちょいちょい話に呼んで来る国王陛下の事もあるので却下されてしまったのであった。


やる事が無いので俺は専ら王都で出来る数少ない事の1つの米や味噌醤油の更なる買い足しと米の脱穀をすませて何時でも食べられる状態にしておいた。


早く試食したいのだが王宮内では炊飯出来そうにないのでどうしたら良いかと考えた結果、夕食後の夜にガガにコッソリ戻る事を思い着いた。


夜になり夕食を食べ終わった後、コッソリ自室からガガの自宅の裏庭に戻り、先日用意した羽釜を魔動コンロにセットして点火した。


裏庭でゴソゴソして居るものだから家族が気付いて裏庭に続くドアを開けて俺がゴソゴソ調理しているのを見て驚いて居たので、謝罪して、試したい事があって王宮では出来ないので一時的に戻って来た事を簡素に告げたのであった。


もうそろそろ寝る時間の筈のマリーは俺が帰って来た事で興奮して居たが、俺が何を作って居るのかが非常に興味津々みたいで「まだ起きてる!」と言い張っていた。


「で、トージよ王宮の方の用事は大丈夫そうなのか? 何か先日ここガガに国王陛下がお越しになったとか街で噂になっていたが、大丈夫なのか?」とパパンが心配そうに聞いて来た。

「うん、心配掛けてごめんね。そっちはほぼ大丈夫順調だよ。まあ、第一王女殿下にやや振り回されてる感もあるけど、心配は要らなさそう。本格的な帰宅はもうちょっと先になると思うけど、チョイチョイ顔を見せるから。心配しないで待っててよ!」と答えたのであった。


30分程の炊飯時間でご飯が炊き上がったので付け合わせの厚焼き卵焼きを四角い専用フライパン(マッシモの鍛冶屋製)を取り出して、少量の醤油を混ぜて焼き上げたのであった。


熱々のお米を少し冷ましつつ塩むすびを人数分作って、お待ちかねの実食タイムである。

果たしてこの世界のお米は如何な物か?


「いただきます。」と言って、塩むすびに齧り付くと、懐かしいお米本来の甘味とホンノリの塩加減が絶妙に美味い!

「みんなも食べてみて『おにぎり』って言うんだよ。こっちの卵焼きもどうぞ!」と言って俺も厚焼き卵を1切れ摘まんで味見してみる。このせかいの卵も醤油も美味しく、日本で食べて居た物よりも濃厚で美味しい卵であった。


「簡素な物なのに美味いな!」とパパンからお褒めの言葉を頂いた。


「あら、このおにぎりって言うの噛むとホンノリ甘味がくちに広がって美味しいわね。この卵焼きって言うのと一緒に食べると合うわ。」とママンからも高評価を頂いた。


マリーも美味しいと寝る前なのに、もう1個おにぎりが欲しいと言う始末だ。


今回の試食で判ったが、俺は十分にこの世界でも食って生きて行けそうだ。


どうやら和食欠乏症には掛からなくて済みそうでホッとした。


後は海産物系の乾物だな・・・と改めてヤル気を起こすのであった・・・。

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