第327話 王都への道 その2
一晩明けて翌朝朝食を取って早々に出発しようと思ったら、宿屋の前に昨日助けたのと同じ馬車が待機して居りギョッとしてしまう。
目を見開いてポカンとしてる俺の元に執事の様な黒いスーツのオジサンがヤって来て、
「トージ様ですね。昨日は我がドルンゲルド伯爵家のクラレンス姫君を助けて頂き誠にありがと王ございます。お急ぎの旅とお聞きして居ります。足止めは致しませんので何卒当家の主よりのお礼の言葉を聞いて頂けませんでしょうか?」と恭しいお辞儀と共にお願いされたのであった。
ここまでされて従わない訳には行かぬと腹を括って執事のオジサンに従って促されるままに馬車に乗って領主の館までドナドナされたのであった。
道中で馬車の中でどうして俺が彼処に居るのが判ったのかを聞くと、助ける際にBランクと騎士に公言して居た事とその後場内に入る門番の衛兵に良い宿を聞いた事とその際に見せたBランクのカードが決め手だったらしい。
なる程、知らぬ内にガラスの靴を方々に脱ぎ散らかして居たらしい・・・。
そこで何故王都に急いで居るかの理由を正直に召喚の手紙が王宮から来た事を告げ、今日の内にこの街を出る必要がある事を再三に渡って念押ししたのだった。
「なる程、そうでございましたか。我が主にはその旨を念押ししますのでお手間を取らせる事は在りません故ご安心下さい。」と太鼓判を押してくれたのであった。
この世界で初めて入る貴族の屋敷に心の中でで唸りつつ、通された領主の執務室、ソファーを勧められて素直に座って待っていると、直ぐに貴族にしては人の良さそうな面持ちの30代半ばのオジサンというには若いパパンより少し年上のイケメンが入って来た。
「聞いたよ。トージ君だね。いやぁ~その歳でBランクって君凄いね。まずは最初にお礼を言わせてくれ。家の娘の命を救って頂き、誠にありがとう。
それで王都に・・・王宮に呼び出しだなんて一体なにヤラかしたんだい? 私で助けられる内容なら助力は惜しまないが・・・。」と言ってくれたので、
件の封書を懐から出して見せる。
「おや?これは宛名が『オオサワ商会』会長トージ殿となっているね・・・。え?トージ君が今王都で・・・いや王国中を賑わしているあのマジックバッグのオオサワ商会の会長なのかい?」とギョッとした様に小さく叫んで、横に控えて居た執事のオジサンにコホンと咳払いされて姿勢を正し直していた。
「ここだけの話にして頂き対のですが、そうなります。」と諦めて素直に認めたのであった。
その後、世間話を早々に終わらせ、ご令嬢救助のお礼のお金を頂き、また、こちらに来た際には必ず顔を出す事を約束させられて北門まで送ってくれると言うのをご遠慮してお暇出来たのであった。
俺が屋敷を出るか出ないかのタイミングで、先日のお嬢さんの「お会いしたかったのに、御父様酷いですわ!」と言う声が聞こえたのだが、無視して小走りに北門まで駆け抜けてゲルドの街を出たのであった。
おそらくお嬢さんに捕まると長くなりそうなので、お嬢さんとの約束を破って切り上げてくれたのだろう・・・。
くわばらくわばら。
北門を出てそのまま身体強化で駆けて行って程良く離れた所で空中へとゲートで移動してウィングスーツで快適な空の旅へと移行する。
北上を続けて居ると、徐々に気温が下がって来て、風魔法のシールドを展開して暖気を内部に循環させないと凍えそうになってしまう。
ガガは南の果ての街なのでまだ温かいのだが、ここら辺は雪こそ降って無いものの、東北に来た様に気温が低く感じる。
てか、雪が降って来たらどうしようか? てかこんな季節に人を呼び付けるとは何様だ!?って話だよな。多分王様なんだろうけど。と自分にツッコむ俺。
空の雲はドンヨリとした鉛色。兎に角先を急げとばかりに速度を上げて行く。
俺の後ろに飛行機雲が出来て居るので相当の速度が出ている筈だ。
途中で休憩取る為に地上に降りる回数を減らし只管に距離を稼いだ。
幾らゲートが使えても行った場所にしか繋げ無いのでな。雪で立ち往生する前に王都に出来る限り近付いて置かねばならない。
こんな事なら、Bランクを待たずもっと前に王都に一度行っておけば良かった・・・。
家を出発して早1週間、漸く王都まで半分の距離と言った所だろうか?
その気になれば毎日自宅で寝に帰る事も可能なのだが宿屋の飯が美味いのでそれはしない。
まあ毎日風呂に入れないのはちょっと悲しいけど、まあ当分はクリーンで我慢だな。
宿屋のグレードを上げれば風呂付きも在るんだけど、馬鹿馬鹿しい値段なんだよね。
そんな事ならどっかの場外の空き地に自分で風呂を作った方が気楽で良いくらいだ。
そうそう、あのゲルド伯爵領での一件以来、お約束パターンに遭遇する事はなく超高速で平和な旅が続いているのは幸いである。
出来る限りイレギュラーに拘わらずに行きたいところである。
家を出発して15日目・・・とうとう恐れていた事が・・・。
朝から雨が降っており、ザーザー降りでは無いもののどうするか日和ってしまう。
まあ魔装を展開すれば濡れないノだけど、雨の日の飛行は視界が悪いんだよね。
結局この時期の雨は1日2日で止む気配も無いって事で、昔懐かしい、赤いローブを引っ張り出して、宿屋をチェックアウトして街を出たのであった。
展開した魔装のお陰で雨に濡れる事も無く、門から抜けるのも面倒なので路地裏で上空に上がって、ウィングスーツで滑空を始めた風魔法のシールドで暖を取りつつ速度を上げて北上して行く。
バチバチと魔装に当たる雨の粒が段々大きくなって来た。一番嫌なのはこのまま雨が雪になるパターンである。
呼ぶなら呼ぶでもっと早い時期に呼んでくれないかなぁ~!?と心の中で毒突くも、流石に本人の前ではきっと言えないので許して欲しい。
漸くその日の内に隣の街まで辿り着き、今回は風呂のある高級宿屋で手足を伸ばして風呂に浸かって生き返ったのだった。
翌日も雨が降って居り、吐く息も心無しか白い様に感じる。普通なら出発を躊躇しそうだが、心を決めて出立するのであった。
昨日同様に、雨の空にゲートで移動してウィングスーツで滑空を始めて街道の上を只管北上して行く。
げげ!!雨が雹に変わりやがった、痛くはないけどバチバチと魔装に当たる音が鬱陶しい。
まあ雪じゃないだけマシと思う。
家を出発して18日目。ここまでかなり強行軍で無理をした結果、漸く王都の隣町まで到着した。
王都の隣にしてはショボい街だが温かい寝床があるだけで十分である。
ここまで来れば明日には王都に入る事が出来るだろうとここまで張り詰めて居た緊張の糸が解けてホッと一息。
本当は1日くらい休息を入れたいのだが、空模様を鑑みると移動出来る内に移動しとけ!と言う言葉が聞こえるので明日も休む事無く一気に王都へ向かう予定だ。
ショボいと言って申し訳無いがここの宿の飯は非常に美味く、久々にシチューっぽいドロッとしたトロ味のなる物を食べた気がする。宿屋の女将さんに無理を言って鍋1杯の分のシチューを分けて貰ったのだった。
え?どうするのかって? 家族へのお土産だよ。ママンの料理に慣れたみんなには衝撃だと思うし。
翌朝、再び空の人となって滑空しているとドンヨリ空から白い綿屑の様な物が降って来た。
ヤバイ!雪じゃん。
こんな雪がこびり付いたら重くて墜落しちゃう!
風魔法のシールドを強化して雪をふるい落としつつ只管に王都に向かって飛び続ける俺だった・・・。
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