第307話 黒髪の赤ん坊

アムール王国の『魔境の森』に近い南の街、ガガに住むラージとメリーと言う冒険者夫婦の第一子として生を受けた父親譲りの黒髪の赤ん坊を父の名から近い響きの『トージ』と名付けた。


父のラージは特に大柄と言う訳では無いが第一線で働くAランクの冒険者としてこのガガの街では有名な冒険者で、メインは剣を用いた剣術と盾で前衛のアタッカーで『閃光の剣』と言う二つ名で呼ばれる剣の名手で名を馳せて居た。


赤色の髪の母親のメリーも同様に冒険者ではあったが妊娠と共に引退し、専ら専業主婦となっていたが、現役時代はこれまたここらでは『火炎の魔女』の二つ名で有名なBランクの魔法使いで夫婦共に実力は折り紙付きであった。


そんなガチの冒険者夫婦の長男として転生したのがトージであった。


尤もよくある異世界転生物の様に産まれて直ぐに自我があり、「魔力を感じ~~」と言う様なスタートダッシュをキメる事もなく、何故か何が悲しいのかよく泣く元気な男の子であった。


しかしそれ泣き虫も2歳になる頃には収まり、両親が家の子天才かも!?と喜ぶ程に言葉の覚えが早く辿々しくも問い掛けの意味を理解し、返事を返せる程になっていた。


「とーたん、今日もお仕事?」と問うトージに父は「そうだぞ、良い子でお母さんと待ってるんだぞ!」と言って頭をクシャクシャと撫でて家から出て行った。

「かーたん、今日もまほーしゅる?」と言うトージに微笑んで「じゃあ昨日の続きの魔力を感じる練習から始めましょうね。」と言って我が子の両手を取って魔力を少しずつ流すのであった。


2歳になってから、トージは母の魔法に興味を持ちせがんでこうして日々初歩の訓練をして貰っているのであった。

魔力を流すと、擽ったがる所から察するところは、既に初歩の『魔力感知』を物にしていると思われるが、まだ自分の体内の魔力を操作する所までは行って無い物と思われた。


どちらにしても大抵の場合、10歳の『開花の儀』過ぎてから訓練し始めるのが普通なのだが、トージの場合、言葉の理解が早かった事もあって、息子の望むがままに教えて伸ばす方向で英才教育を行っていた。



そして3歳になる頃には魔力操作も出来る様になって、気が付くと日々黙々と訓練を自主的ににしておりそろそろ簡単な魔法なら行えても不思議はない程に熟練度も上がっていたのであった。



さてこの世界のスキルや魔法の関係を少し説明すると、ナンシーとトージが『努力すればしただけ報われる』と言う事を『やり込み系』のゲームの様な世界を願って居た為にそれを参考にした結果 、初期のスキルに魔法が無くても努力次第で習得出来る様になっている。

よって火属性しか持っていなくても努力次第で水属性を後天性で取得可能なのだ。


尤もトージの場合は前世で使えた属性を全て引き継いでいるので何の苦労も無いのだが、それはもう少し先の話である。


重要な事は身体の成長期にの『開花の儀』でステータスを得るまでにどれだけ魂の持つ本来のステータスに対して身体が準備出来て居るかが大事なのだ。


トージとしては全くの無意識の内にコツコツと遊びの延長で鍛錬する事によって偶然にも身体の準備が出来て行くのであった。


4歳になると、お父さんの剣の訓練の横で真似をして、枝を剣に見立てて振り回し、ラージを喜ばせて居た。


そして、その頃に、母メリーが第二子目の女の子マリーを出産し、トージの魔法訓練処ではなくなった事もあって、魔法は自主学習で、昼間は剣術の真似事をして身体を動かしていた。


そして5歳になる頃には誕生日プレゼントに木剣を貰い、本格的に『閃光流』の剣の型を教えて貰う様になるのであった。



その頃には父が仕事で出かけて居る昼間は近所の子供と一緒になって遊ぶよく居る普通の子であった。


とは言え、悪ガキでは無く、遊びの内容も何方かと言うと訓練に近い様な、石を的に向けて投げて当てる『投擲』や駆けっこや隠れんぼや鬼ごっこ等であった。



6歳の頃には既に読み書きを覚えてしまい、簡単な計算も即座に出来る程にはなっていた。


この頃には妹のマリーは可愛い盛りで、何処に行くにも付いて来ようとヨチヨチと歩くので目が離せないのであった。

そんなマリーを見ていると何故か懐かしい様な切ない気持ちになるトージであった。


7歳になると、剣術の腕前も向上し、身体が多少出来てきた事もあって、パワーでは負けるものの、小回りの利く身軽なスピードで父を翻弄し、5回に1回は勝ちをもぎ取れる様になって来た。


魔法は、生活魔法と呼ばれる基礎魔法の一種を会得して居り、クリーンや飲み水や火種等を発動出来る様になっていた。


8歳になる頃には将来の事を皆考え始めるのだがトージの場合、両親と同じ冒険者になる事に決めており、全く将来について悩む事も無かった。


4歳になるマリーもトージの時と同じで魔法の訓練を始めるが、トージの時と違ってそれ程言葉の理解が進んでおらず、ちょっと苦戦している様であった。



 ◇◇◇◇


更に2年の月日が流れ、いよいよ10歳の誕生月を迎えたトージ。明日は家族で教会へと向かい、『開花の儀』を行う予定である。


明日に備え何時もより早めに床に入って眠っているととある異世界のトージと言う男の人生の夢を見たのであった。

その男は同じトージと言う名前で、『魔王』と呼ばれる程の魔法の腕前を持ち、剣術も刀と言う湾曲した美しい特殊な物を持ち相当の腕前であった。


そして、最後に自分の子とおなじ位の男の子を救って代わりに魔力枯渇でオーガと言う角のある魔物にヤラれて亡くなってしまうのである。

そして、その後、この世界の創造主である女神ナンシー様に会って、転生指定10歳で前世の記憶も封印されてた魂に紐付いたステータスも解放されると言う物だった。


妙に現実っぽい懐かしい夢で、奥さんのアリーシアや、サチちゃんと言う女の子、コータと言う男の子、そして末っ子のユーキちゃんに何度も逢いたい、死んでしまってすまないと夢の中のトージは心の中で詫びていた。


トージが朝起きた時には涙を流した跡が残って居り、そして、夢のなkあのトージが自分である事に気付くのであった・・・。


急いで、顔を水で洗ってクリーンでシャキッとし直して、リビングへと向かうと、既にメリーとマリーが朝食の準備を行っていた。


「お早う!」と挨拶をすると、


「あらもう起きたの?やっぱり、トージちゃんでも『開花の儀』は少し緊張するのね?ウフフ」と微笑むお母さんに、

「うん、そりゃあ、今日のこの日を何年も待ったからね。」と軽く答えるも、本当は夢で魘されたので何時もより早く目覚めたのを誤魔化すのであった。


そりゃあ、こことは違う別の世界のトージの話なんかしても正気を疑われるか気味悪がられるのがオチだろう。


うちの両親に限ってそんな事は無いと思うけど、長年育ててきた我が子が実は何処ぞの妻帯者のオッサンだったって悲劇でしか無いのでそんな事は一切口にしない。



俺の心の中だけで封印して置こう。


それよりも衝撃だったのは、この世界の創造主である女神ナンシー様の名付け親が自分だった事である。


前世?の記憶によると、そう言うのをゴッドファーザーと言うとか言わないとか・・・。


何か自分なのに自分で無い人生の記憶が2重3重に頭に急に入って不得手しまって暫くは何れが純粋な今の自分の記憶なのか混乱しそうである。


3重??? トージって、元々が前世のある異世界の日本人だったらしい。ややこしいじゃん!!!


つまり、今世まで入れると、3回目の人生って事じゃん!? っていつの間にか『じゃん』って使う癖が。


俺大丈夫か? 精神乗っ取られて無いか? 何度か深呼吸して心を落ち着かせるのであった。



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